二酸化炭素の回収はどうなったのか?

冷たい潮風が吹くノルウェーの海岸沿いで、革命とは逆方向の努力が進行中だ。ピカピカの鋼管が複雑に組み合わされて走り、ところどころに黄色く燃え立つガスの炎が見える。ここでエンジニアたちは、人類が過去1世紀の間、必死に掘削し取り出してきたある物質を、今度は地中に埋めるためにがんばっている。炭素である。

全てが計画通りに行けばモングスタッドの石油精製・天然ガス発電所は、気候温暖化の原因となる二酸化炭素(CO₂)を北海の底に何百万トンも注入することになる。世界には数多くの二酸化炭素回収・貯留(CCS)計画がある。そういった計画にはゴールデンアイゴーゴンといった勇ましい名前がつけられ、将来的には大気中の温室効果ガスも吸い込めるようになるとしている。 皮肉にもこの計画を始めたのは、気候変動懐疑論者だったアメリカのジョージ・W・ブッシュ前大統領だ。彼は「石炭に関して何らかの対策を取らなければ」と考えていたのだ。

しかしCCSが炭素を大幅に削減してくれると期待する楽観論には陰りがさしている。世界的経済危機によって、この幼い産業は勢いをそがれ、地球温暖化への緊急性も薄れて資金繰りが滞っている。国際エネルギー機関(IEA)はこの現状を問題視している。なぜならば、地球温暖化対策に必要な炭素削減量のうち20%が、発電所の排気を地中に封じ込め無害化される方法によっているからだ。

「CCSが無理なら、他の方法で炭素を削減しなければなりませんが、それはとてもとても困難です。しかし、私たちは何とかしなければいけません」IEAのマリア・ファン・デル・フーフェン事務局長はこう述べ、現在から2050年までのエネルギーの4分3は化石燃料の燃焼によるものだと説明した。IEAは、現在の傾向が続けば地球の平均気温は6度上昇して壊滅的な状況になると警告し、2050年までに3000の大規模なCCSプラントが必要だとしている。そのうち36プラントは10年以内に必要である。現在のところ発電所に設置されているものはない。

モングスタットのプラントをスタートさせたノルウェーのイェンス・ストルテンベルグ首相はガーディアンに次のように語った。「2050年までに人口が90億に上ると予測されている中、エネルギー増加とCO₂削減のいずれか1つだけを選ぶことは出来ません。どちらもかなえなければならないのです。CCSなしでは不可能です」

この分野において世界をリードしているのはアメリカである。現在稼動中または建設中の主な15のCCS計画(発電所に併設されていないもの)のうち、8件がアメリカのものだ。アメリカは、2009年、それまでに投入されていた数十億ドルに加え、景気刺激対策としてさらに30億ドルをCCSへ投入した。「前(ブッシュ)政権は石炭に関する対策を行いたかったのです」と、アメリカエネルギー省(DoE)のCCSシニアアドバイザー、ジェイ・ブライツ氏が説明する。ブッシュ前大統領は国際気候変動交渉から抜けたため、別の方法でエネルギー問題に対処しようとしたという。「それは膨大な資金を投入することでした」

だがアメリカが有利な立場にあるのには、別の要因がある。枯渇した油田から最後の油を採取する、いわゆる石油増進回収には大量のCO₂を必要とすることだ。アメリカは8件のプロジェクトのうち1件を除いて、いずれも資金はCO₂売却益に依存している。

カナダとオーストラリアもカーボンフットプリント(商品・サービスの全過程で排出される温室効果ガス)が高く気候変動への懐疑的政策が多いにもかかわらず、CCSにおいてはアメリカに次いで進んでいる。ノルウェーはモングスタッドにある世界最大のCCSテストセンターに10億ドルを投入し、1996年以降、CO₂を地中に埋める作業を行っているが、この国が先進的なのには別の理由がある。

CCSの専門家、マサチューセッツ工科大学のハワード・ハーゾック教授は「ノルウェーは気候変動についての関心が非常に高いという独特の環境があり、実際に対策を行うだけの資金力もあります」と話すが、その資金力とはノルウェーの石油と天然ガスの収入による、国家主権の莫大な資産ファンドを指している。

出典:グローバルCCS研究所

出典:グローバルCCS研究所

一方、世界最大の大気汚染国である中国の状況については意見が分かれる。グローバルCCS研究所のブラッド・ペイジ所長によると「過去12ヶ月で最も迅速に動いたのは中国」である。2011年には上海近郊で大型プラントが短期間に建設され、稼動を始めた。しかしハーゾック氏はこう述べる。「中国の目標はイノベーターになることではなく低コストの供給国になることです。他の国々の技術を飛び越えていくことはないでしょう」 氏によれば、上海のプラントはCO₂を注入して炭酸飲料にするもので、20年前の技術を元に建設されたという。

ヨーロッパは15の主要なCCSプラントのいずれも所有していないが、現在計画中の約60件のうち21件を進めている。しかしハーゾック氏によると「EUの計画は完全に行き詰っています」 3億の排出許可証を売却して得られるはずだった開発資金は、炭素価格が低迷しているため予想をはるかに下回り、プラントがCO₂を貯留することで得られるはずだった将来的な収入も減るという苦しい状況だ。

欧州委員会エネルギー担当委員、ギュンター・エッティンガー氏はこの問題を認識している。「欧州委員会が資金提供しているCCSプロジェクトのほとんどは、滞る投資と炭素価格低迷のため遅延しています。EUがリーダーであり続けるには、対策を行わなければなりません」

ヨーロッパ内ではイギリスが計画中のプロジェクトの3分の1を率いており、北海に巨大な貯留可能性を持っている。プロジェクトの1つがイギリス最大のCO₂排出源であるヨークシャーのドラックス石炭火力発電所で、そこでは新たに15億ポンドの施設が建設される予定だ。そこで石炭と他に木材やわらが燃やされ、大気中からCO₂を回収し、そのガスを地中に埋める。これで大気中の濃度が削減出来るというわけだ。

「大気からCO₂を吸い込む巨大な掃除機を作るわけです」そう話すのはドラックスプロジェクトに共同で取り組むフランスの発電大手、アルストム社の技術部門副社長チャールズ・スットヒル氏だ。「気候変動を食い止めるにはこれが唯一の技術的な方法です。エキサイティングだと思います」

CCSの次の課題は、鉄、セメント、化学工場からの大量のガス排出を削減することだ。これはエネルギー消費による世界全体のCO₂排出のうち約20%を占めている。このようなエネルギー集約型産業には選択肢が少なく、専門家によればCCSによって排出源の公害を削減する方法が最も確実だという。だが現在のCCSプロジェクトはこの点についてはほとんど触れていない。また別の隠れた問題は、地域社会が付近の地中にCO₂を埋めることを受け入れるかどうかだ。キャンペーンが行われ、オランダでのプロジェクトが停止となった例もある

プラントのオープニングの際モングスタットに集まったエネルギー産業の大手は皆、炭素汚染に対する現在の世界の平均取引価格の低さを嘆く。世界最大の排出権取引市場、ヨーロッパでは現在CO₂1トン当たり約9ドルで取引されており、CCSのコスト見積もりが1トン当たり約70ドルと比べて大きな差だ。

最も関わりの深い石油大手シェルなどは今後価格が上がることを確信している。「費用効率の高いテクノロジーです」スコットランドのピーターヘッドで行われているゴールデンアイCCSプロジェクトに携わるロイヤル・ダッチ・シェル社国際上流部門担当役員アンディ・ブラウン氏はこう述べた。

さらに先を見据える者もいる。ブライツ氏によると米エネルギー省は次世代CCSに焦点を絞り新たな研究を行っている。燃料電池の発電所で化石燃料を使用する方法などだ。そうすれば純度の高いCO₂が出来るため、CCS費用の3分の2(ガスを分離させる際に生じる)が削減出来る。別の費用削減策として、CO₂を使って藻を育て、その藻を動物の飼料とするという方法もある。

CCSにはもう1つの重要な側面がある。停滞した経済に必要な成長をもたらすグローバルな先進技術の展望だ。多くの政府はCCSが提供する産業的機会を利用し、このテクノロジー開発競争で先んじようとしている。

だがストルテンベルグ首相はモングスタットのテストが成功すれば、次は本格的稼動に税金のうちさらに数十億クローネを投入する予定で、そこには異なる動機があると言う。CCSによって炭素削減し、世界一の(炭素取引による)ガス輸出国という地位を維持することは「人が思うよりはるかに重要性の低いこと」だという。「CCSがなくてもガスの量では負けないでしょう。ノルウェーは石炭による炭素排出の半分を占めているのですから」

「このテクノロジーの開発努力を国家間の競争と捉えるべきではありません」ストルテンベルグ首相は続ける。「私たちが協力して立ち向かう地球温暖化との闘いなのです」

•ガーディアンの取材に対し、テクノロジーセンター・モングスタットより協力をいただきました。

この記事は2012年5月9日にgardian.co.ukで公表されたものです。

翻訳:石原明子

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