食糧

食糧高騰の原因は?

ここ3年間で食糧価格が2倍に値上がりしたことを受け、先ごろ世界銀行は、その急騰に懸念を示した。低所得国では約1億人の貧困層が、更なるしわ寄せを受けるだろうと予測している。

国連食糧農業機関(以下FAO)によると、食糧不足のため海外援助を受けている国々は37カ国に及ぶ。食料品が大幅に値上がりした結果、国連世界食糧機関の運営コストは5億ドルから7億5千万ドルに跳ね上がった。

そこで、緊急かつ重要なニーズに答え、世界各地の飢餓を回避するべく、短期的な緊急援助が求められている。同時に、穀物生産を増加するための中長期的な取り組みも必要だ。

しかし、なぜ食糧が高騰しているのだろうか?世界各地で起きている自然災害や、穀物のバイオ燃料化が主な原因だ。タヒチ、エジプト、コートジボアール、ブルキナファソ、カメルーン、インドネシアなどで食糧高による暴動も起きている。

世界食糧機関(WFP)のジョセット・シーラン事務局長は、この複雑かつ危機的状況を、「 沈黙の津波」が押し寄せていると警鐘を鳴らした。

複雑に絡み合う原因

価格高騰が顕著なのは、穀物、油脂、乳製品だ。2007年にもっとも大きく値上がりしたのは小麦で、対前年比の上昇率は50~80%。トウモロコシも2007年2月には前年より10%値上がりしたが、その後ある程度まで下落した。大麦の価格も高騰した。

国連のバン・ギムン事務総長は、食糧高騰の仕組みは複雑だと指摘する。農家が食糧生産からバイオ燃料生産へ切り替えたことだけが要因ではない。原油高騰は、食糧生産コストや輸送費に影響を及ぼし、自然災害やオーストラリアの干ばつなどは、食糧生産に打撃を与えた。FAOは、原油高の影響による輸送費の値上がりに加え、ドル安が食料価格に影響していると指摘している。

影響は先進国にも拡大

普段から、品物の豊富なスーパーで買い物をしている先進国の人々は、食糧問題を後進国の問題だと思いがちだ。確かに、値上げの影響を直接受け、食糧高による暴動が相次いでいるのは後進国だ。しかし今日、世界市場はこれまで以上に複雑に絡み合っている。FAOは「市場間の相互連鎖とスピル・オーバー効果は、農作物のみでなく様々な商品や、商品と金融業界の間にも拡大している」と警鐘を鳴らす。

日本のような食糧輸入国では、高騰が続く食糧価格に危機感を募らせている。日本は年間、500億ドルの食糧を輸入している。2006年の主な輸入品は、海産物(28%)、肉類(12.6 %)。主な輸入国は、アメリカ、中国、オーストラリアで、輸入品全体の47%を占める。

農林水産省によると、日本の食糧自給率はカロリーベースで39%、食糧生産率で68%。今日でこそ、懸念材料になっている食糧価格だが、値上がり前には日本人消費者がこぞって世界中の品物を購入していたことは記憶に新しい。

日本で見られる兆候

近年日本でも、高騰する食糧価格と食料資源の争奪戦の影響が見え始めている。特に中国との海産物をめぐる競争の激化は、価格を押し上げ、海産物の輸入に影響を与えている。2008年4月、日本のスーパーからバターが消えた。牛に与える飼料の高騰と、2年前に牛乳の過剰供給が需要縮小を招いた経験から、乳製品生産者が生産を自粛したことが、バター不足と値上がりの原因となっている。


2008年4月から始まったバター不足のため、日本の消費者はバターの購入を1人1箱と制限づけられている。

丸紅経済研究所の柴田明夫氏は「今後日本人は、これまで享受してきた良質で安価な食料品を購入することができなくなるだろう」と述べている。「ここ数ヶ月間のうちに、価格高騰のさまざまな影響が見られるようになるだろう。」

先進国も食糧高騰の影響を免れることはできなくなった。世界的な食糧不足のため、食をめぐる環境は不安定で、急激な変化が起こることも十分あり得るのだ。

私たちにできること

世界通貨基金(IMF)のドミニック・ストラスカーン氏は、食糧高騰の問題には包括的なアプローチが必要だと提言している。まず第一に、WFPへの資金提供を増額し、世界各地の貧困層に食糧支援をすることが先決だ。国連も後進国の農業従事者たちに直接援助を行っている。

ニューヨーク大学のアレックス・エバンズ氏は、次のように論じている。「まず、我々が直面している選択肢の特性を明らかにする必要がある。食糧政策で何を優先するのか―消費者のための価格競争、供給の安全性、環境保全、地産地消など―の条件次第だ。そしてそこには、21世紀の食糧政策を決める“私達”とは一体だれなのか、誰が選択権を握っているのか、という疑問が生まれる。」

さらにエバンズ氏は、「食糧政策の決定権が我々にあるという現実を再認識することは、重要なスタートであり、“食糧デモクラシー”は“食糧安全保障”よりも現実的な枠組みで、政策の選択肢やアプローチに有効だ。」と語っている。

今後、長いスパンでは様々な変化が起きることが予想される。政府の助成制度や生産方法の改善などを通じて、農業政策は後進国の地産地消を支援していく形へと移行する可能性もある。

バイオ燃料の促進についても慎重なアプローチが必要だが、いずれにせよ、解決の糸口をみつけるのは容易ではない。

理解を深める

私たちは現状に甘んじることなく、これを機会に、世界の食糧危機について、また食糧危機と気候変動、人口増大、石油ピークなどの諸問題との関連性について、知識を深めるべきであろう。国際社会に忍び寄る食糧高騰は、何十年も前から予測されていた問題で、今後も新たな展開が予想される。

食糧危機の根本的問題は何なのか、私たちの生活にどのように影響するのか、じっくり考えることが重要だ。

関連サイト

The Food and Agricultural Organizations – World Food Situation

The Financial Times – Why are food prices rising?

The BBC Cost of Food

Reuters – Global Coverage of Food Price Inflation

あなたにどのような影響があるのか?

Health

世界中には過食のため不健康な人々が大勢いる一方で、飢えと貧困に苦しむ人々もいます。果たしてこのような現状を由とすべきか自問するべきです。

Money

高騰する食糧価格は、世界各地で生活費あるいは私たちの生存そのものに影響を与えています。地元で育てた農作物を地元で消費する地産地消が、問題解決の鍵を握る最初の一歩です。これは地元の農業生産にプラス効果をもたらすだけでなく、食糧輸入に伴う二酸化炭素排出量の削減、原油消費の減少にもつながります。

Lifestyle

農作物を自給してみる良い機会となるでしょう。

筆者について

ブレンダン・バレットは1984年からイギリス原子力発電所の環境アセスメントに従事して以来、環境分野に従事してきました。環境スペシャリスト、都市設計者でもあり、コミュニケーションや教育をはじめ環境問題の研究のため、ITを駆使しています。

博士課程を終了後、1997年から国連大学に加わり、2002年に国連大学メディアスタジオを立ち上げました。

IUCN(国際自然保護連合)教育・コミュニケーション委員会のメンバーでもあり、オーストラリア環境研究ジャーナルやサービス・リサーチ・ジャーナルの国際編集顧問委員会のメンバーとして活躍。2002年から2005年には情報社会サミットで、国連大学の中心的役割を果たしました。
本記事の著作権はクリエイティブ・コモンズに基づく。クリエイティブ・コモンズに関する規約の全文は下記バナーよりご覧ください。

次段落の条件に従う限り 以下のことを自由にできます。:

  •  

    本作品を複製、頒布、展示および実演することができます。

  •  

    二次的著作物を作成することができます。

あなたの従うべき条件は 以下の通りです。:

  •  

    表示. あなたは出所である原著作者の明示をしなければなりません(但し、原著作者が承諾している場合はこの限りではありません)。

  •  

    非営利. あなたはこの作品を営利目的で 利用してはなりません。

  •  

    継承. もしあなたがこの作品を改変、変形または加工した場合、 あなたはその結果生じた作品を原作品と 同一の許諾条件の下でのみ頒布することができます。

blog comments powered by Disqus