なぜ、銀行を救済するのはいとも簡単なのに、生物圏を救済するのはこれほど困難なのだろう?銀行の救済は数日で実行された。ところが地球の救済については、決定するだけで数十年かかっている。
ニコラス・スターン氏によると、気候変動を食い止めるためのコストが世界のGDPの約1%なのに対し、このまま安穏として気候変動に何の対処もせずにいたら、そのコストはGDPの5~20%に達する。 現時点の世界のGDP1%というと6,300億米ドルだ。それに対して、 ブルームバーグの報道によると、米国連邦準備制度理事会(FRB)は2009年の3月までに、7兆7,700億米ドルを銀行救済に充てた。たった1国の政府による資金援助でこの額である。世界の気候変動に年間で支払うべき額の12倍だ。他国の資金援助も合わせたら、さらに何倍にもなるだろう。
銀行への支援は要求のままに提供された。銀行が助けてほしいと言いさえすれば、すぐに助けの手が差し伸べられたのだ。わずか1日で、FRBは1兆2,000億米ドルを準備した。これは気候変動対策のために世界が20年間に拠出した額より多い。
しかも、このような銀行への支援の多くは、無条件かつ秘密裏に行われた。ジャーナリストたちは2年もの歳月をかけて、やっと詳細を明らかにした。銀行が「助けてくれ」と叫べば、政府は財布を開くのだ。ちなみに、こうしたことはすべて、財政面では保守を主張していたジョージ・W・ブッシュ政権下で行われた。
ところが、いかなる形であれ、米国政府に地球救済のための資金援助を求めると、それがたとえ数十億米ドルであっても、まるで無理だ。共和党員は(それに多くの民主党員も)、こぞって「そんな余裕はない!」と悲痛な声を出す。経済が破綻する、洞窟暮らしに戻れというのか、と。
環境保護論者を大嘘つき呼ばわりするこのような人たちが、あまりにも大げさな表現をすることに、私はしばしば唖然とさせられる。「あんな大嘘つきたちの好き放題にさせていたら、経済全体が崩壊する」というような台詞は皮肉でも何でもないらしいが、毎日のように耳にする言葉だ。
だが私の知るかぎり、なぜ7兆7,000億米ドルを銀行に援助できるのに、それよりもはるかに少ない額を新技術やエネルギー節減に投資する余裕がないのかを説明できた国会議員は一人もいない。
米国もその他の国々も、1988年に、気候変動に取り組むための話し合いを真剣に開始した。しかし、いまだに法的拘束力のある国際的な合意に達していない。仮に実現するとしても、2020年までは無理なようだ。銀行救済の合意は、誰も汗を流さずに経済サミットで易々と決まるのに、気候サミットの進展状況といえば、まるで1頭のロバで44トンの貨物を引っ張らせているかのようだ。
そうは言っても、ダーバンでのCOP17は、超人的な牽引力が発揮されたことにより、ほとんどの環境保護論者が期待していた以上の 成果が得られた。 コペンハーゲンと カンクンの後では、富裕国と貧困国が法的拘束力のある取り決めをしようと合意する日がいつかくるとさえ思えなかったが、それが実現したのだ。もっとも、良い結果だったとは言えない。計画通りにすべてが進んだとしても、世界の人々および場所の多くに甚大なる被害を及ぼす恐れがある2度以上の気温上昇は、最終的に避けられそうにない。
私が読むかぎり、ダーバンの会議における交渉と結果を最も明快に 説明しているのはマーク・ライナス氏だ。彼はモルディブ共和国大統領のアドバイザーとして会議に参加していた。彼が詳細に記している紆余曲折は、障害にぶつかっては、やるべきことを先延ばしにしてきた20年の結果だ。力を持つ国が何かをやろうとすれば、迅速かつ簡単に物事は進む。しかし、やる気がなければ、他の国々と合意しようにも、まずすんなりといくことはない。
ここで重要なポイントをいくつか挙げる。
- 最も重要な交渉は、突き詰めれば2つのグループの対立である。1方のグループは、EU、後発開発途上国(least developed countries:LDCs)、そして小規模な島国から成り、より急激かつ迅速な排出削減を迫った。もう1方のグループは、米国、ブラジル、南アフリカ、インド、中国から成り、その圧力に抵抗しようとした。
- 第1のグループ(EU + LDCs)はある時点においては成功を収めた。その他の国が、「すべての当事国に適用される」法的拘束力のある取り決めに向けて努力することに合意したのである。言い換えれば、富裕国の温室効果ガス排出量のみを規制対象とした京都議定書とは異なり、これはすべての国に適用される(しかし、すべての国が必ずしも排出量の削減を求められるわけではない)。
- しかし、この取り決めを迅速に開始しようとした第1のグループの目論見は失敗した。最貧国は来年末までに法的拘束力のある結果を出したいと思っていた。しかし、米国および中国を中心とするグループはあくまでも2020年を主張して押し切ってしまった。もしこのまま変更がなければ、地球全体の気温上昇を2度以下に抑えることはさらに困難、おそらくは不可能になるだろう。
- 京都議定書は2017年あるいは2020年まで効力を持つが、今では空文化している。実際、ライナス氏が示唆しているように、京都議定書に残されている抜け穴を塞がなければ、無用どころの問題ではないかもしれない。というのは、署名国が約束した自主的な努力が守られなくなる恐れがあるからだ。
- 各国は、新興国が温室効果ガスの排出を抑え、地球温暖化の影響に適応するのを手助けするため、 「緑の気候基金」を設置することに合意した。しかし、資金の拠出を明言したのは、韓国、ドイツ、デンマークの3ヵ国だけである。基金には、年間1,000億ドルが拠出される予定だ。多額ではあるが、銀行に拠出された金額と比較すると、たいしたことはない。
- 現在から2020年の間においては、各国の自主的な約束に頼るほかはない。 国連の研究によると、これでは世界の気温上昇を2度に抑えるには足りない。さらに60億トンの二酸化炭素を削減する必要がある。
- もっとも、ダーバン合意でも認識が示されているように、気温上昇は2度でもまだ高い。1.5度に抑えると宣言する可能性も掲げられている。この目標を達成するには、現在の想定よりはるかに急速な削減計画が必要になるだろう。
ではなぜ、銀行の救済はいとも簡単なのに、生物圏を救済するのはこれほど困難なのだろう? これこそ、私たちの政府が世界全体ではなく、一部のエリート層のみに目を向けている証拠ではないか。
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この記事は2011年12月16日に guardian.co.ukで公表されたものです。
翻訳:ユニカルインターナショナル