アレクサンドラ・イバノビッチ氏は、国連大学政策研究センター(UNU-CPR)のリサーチアシスタントであり、開発、平和、安全保障の研究をしている。オーストラリアのニューサウスウェールズ大学で法律・商業の学士号、国連大学にて持続可能性、国際開発、国際平和と安全保障の理学修士号を修得。法律専門家および地域問題の仲裁者として働いた経験があり、またオーストラリアで14年間、小規模ビジネスを経営している。紛争解決と平和維持に強い関心を持つ。
この記事は、「国連大学と知るSDGs」キャンペーンの一環として取り上げられた記事の一つです。17の目標すべてが互いにつながっている持続可能な開発目標(SDGs)。国連大学の研究分野は、他に類を見ないほど幅広く、SDGsのすべての範囲を網羅しています。世界中から集まった400人以上の研究者が、180を超える数のプロジェクトに従事し、SDGsに関連する研究を進めています。
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2014年5月12日は、国連平和維持活動の歴史における重大な分岐点だった。ノルウェーのクリスティン・ルンド少将が初めて女性として、国連平和維持活動(国連キプロス平和維持軍)の軍事司令官に任命されたのだ。
男性中心の分野で長年にわたって活躍してきたルンド少将は、ノルウェー国内や国際的レベルで34年以上の軍事経験を持つ。1991年、砂漠の嵐作戦でサウジアラビアへ配備され、その後、北大西洋条約機構(NATO)の国際治安支援部隊(ISAF)のアフガニスタン本部に赴任した。彼女は2009年、少将に昇格された後、ノルウェー国防市民軍参謀長に任命された。こうした昇格は女性将校としては初の出来事だった。国連では、国連レバノン暫定軍と旧ユーゴスラビアにおける国連保護軍で活躍した経歴がある。
ルンド少将の任命は、2000年に採択された女性と平和と安全保障に関する国連安全保障理事会決議1325号の施行を初めて大々的に認めた出来事である。この決議は、世界各地での平和維持活動により多くの女性を採用するための国連政策の転換を浮き彫りにしている。同決議は紛争の予防と解決、交渉、平和維持、人道的活動、紛争後の復興における女性の役割を支持した。さらにこの決議は、平和維持活動を含む分野に男女平等の視点を補完する必要性も強調した。
国連平和維持活動担当のエルベ・ラドス事務次長によれば、「政治参加、紛争解決、紛争から平和への転換において、女性は主要な役割を果たすことができる上に、そうしなければなりません」
国連の平和維持活動における女性の役割は、治安維持、軍事、市民レベルまで広範囲にまたがっており、女性は過去と比べて大きな役割を国連平和維持活動で担っている。1993年、配置されたすべての制服職員のわずか1%が女性だった。2012年には、国連平和維持活動に携わる軍人の3%、治安維持要員の10%が女性だった。現在、平和維持および特別保護ミッションで働く各国民間人のうち、女性はほぼ30%を占めている。
しかし現状は、平和維持ミッションでの男女平等からは程遠い。International Peace Institute(国際平和研究所)による論文でSahana Dharmapuri(サハナ・ダーマプリ)氏は、こうした状況を生む原因は3点あると論じている。第一に、決議1325号および平和活動における男女平等に関する国連政策について加盟諸国間の理解が欠如していることだ。第二に、世界的に国家安全保障組織、とりわけ国連の平和維持活動への女性の参加に関するデータと分析が欠落していることだ。第三に、安全保障部門内で性別による不平等を永続させるような社会規範やバイアスが広く横行していることだ。
「私は女性だったために、アフガニスタンでの最近の任務中に、現地の人々の50%ではなく100%と接触できました」クリスティン・ルンド少将
残念ながら、女性兵士に関する議論は、戦闘における女性兵士の役割に関するものの方が多く、平和維持活動における女性士官の長所を最大限に活用する方法に主眼を置く議論は少ないようだ。
しかし、女性士官の方が男性士官よりも適している特定の役割が存在するかもしれない。ルンド少将は、女性の平和維持要員が持つある重要な長所を指摘している。「私は女性だったために、アフガニスタンでの最近の任務中に、現地の人々の50%ではなく100%と接触できました」。国連の平和維持要員が身を置く現在の紛争の特徴を考慮すると、現地の人々との接触は特に重要である。
ほとんどの平和維持活動は、危険の恐れが切迫している民間人を保護する権限を委ねられている。しかしその実務は非常に困難で苦しい。例えばコンゴ民主共和国(DRC)における国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)を考えてみよう。このミッションは、西ヨーロッパと同じ広さの地域全体で、徘徊し、しばしば地域住民を恐怖に陥れている約40の武装グループから民間人を保護しなくてはならないのだ。
平和維持活動がより効果的に民間人を保護できるようになるには、包括的な情報収集能力が必要である。しかし残念ながら、多くのミッションにはその能力が甚だしく欠如している。正確な情報は平和維持活動に不可欠である。ミッションの統率者や軍事司令官は効果的な計画を立てるために、脅威の位置を特定し、武装グループとその統率者を発見できなくてはならない。彼らは、武装グループの種類、動機、行動、目的を分析し、そのような武装グループが発展し、機能する状況を理解する必要がある。
こうした情報を収集する1つの重要な手段は、人材によって収集された情報を使うことだ。平和維持活動において、情報収集源の1つが地域住民や地元の抵抗勢力グループである。
女性の平和維持要員ならギャップを埋めることが可能である。女性と子どもに大きな安心感を与え、さらに信頼を育むことができ、その過程でミッションにとって貴重な情報を収集することができる。
従って、地域住民との良好な関係を築く必要性は極めて重要である。それは情報収集のためだけではなく、早期警告システムを整え、キャパシティービルディングを行い、信頼を築くためでもある。ところが、紛争における暴力、特に性的暴力の主な被害者は女性と子どもであるため、信頼を築くために必要な社会的および文化的垣根を男性兵士が越えることは多くの場合、難しい。この状況において、女性の平和維持要員ならギャップを埋めることが可能である。女性と子どもに大きな安心感を与え、さらに信頼を育むことができ、その過程でミッションにとって貴重な情報を収集することができる。
決議1325号のために国連が行った研究によれば、カンボジア、コソボ、東ティモール、アフガニスタン、リベリア、DRCにおける活動の体験から、女性兵士は男性兵士と同じ文化的制約に縛られないこと、また女性は女性と子どもから情報を収集できることが明らかになった。地域住民の信頼を獲得するという女性の能力は、あらゆる平和維持活動に不可欠な要素として考えるべきである。
実際にアフガニスタンでは、「Female Engagement Teams(女性戦闘チーム)」が、保守的で男性優位なアフガニスタン社会に浸透することができた。このチームは定期的に地元の女性たちと接触し、信頼を得た結果、地域女性たちはタリバンが兵士を集めていた地域に関する貴重な情報を自ら進んで提供するようになった。
DRCでは、国連は情報収集力の一環として無人飛行機を積極的に採用している。無人機による情報を完全かつ正確に統合するためには、人が収集した情報を補助的に活用することが必要である。平和維持活動の資源と予算には制約があるため、国連はミッションの非戦闘的要素をより効果的に活用することを目指さなくてはならない。女性の平和維持要員が地域住民との接触によって獲得するより優れた情報と厚い信頼や信用性は、紛争や対立の抑制に役立つ。情報収集力が向上すれば、民間人ばかりではなくミッション要員たちも保護する能力を向上できる。なぜなら情報を活用することによって、武装グループによる待ち伏せ攻撃やその他の非定型的な攻撃に平和維持要員が遭遇することが少なくなるからだ。
現在の平和維持活動への「全体論的な」総合的アプローチを強化するために、国連はより多くの女性平和維持要員の必要性を訴えている。国連ミッションに多くの女性平和維持要員を補完するには、さらなる課題を克服しなければならないことは明らかである。技術を持ち、訓練を受けたより多くの女性平和維持要員は、未来の平和維持活動にとって財産に他ならない。初の女性司令官の起用によって、新しい世代の女性たちは、平和維持という極めて困難で取り組みがいのある任務を引き受ける勇気を得たかもしれない。
ルンド少将が抱く希望は、自身が「女性のロールモデルとなって、女性にもできるのだということを他の女性士官たちに示す存在になる」ことだ。可能であるという範囲を超えて女性たちは活躍するに違いない。
翻訳:髙﨑文子