シュテファン・シュミトは 来日前にはヨーロッパのデジタルエージェンシーネットワークのひとつでプロジェクトマネージャーとして働いていた。現在彼はハインツ・ニクスドルフ財団が主催する将来のドイツ人実業家養成のためのアジア太平洋プログラムに参加している。デジタル文化に興味があり、国連大学のOffice of Communicationsで知識を共有することを喜ばしく思っている。ドイツ ワイマールのバウハウス大学卒業。
ヨーロッパ全土に影響を及ぼしたアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山の噴火による火山灰の雲は、比較的短時間に広がりゆっくりと終息した。ところが目に見えない別の雲が、日増しに世界中に広がってきている。
電子メール、画像、音楽、ビデオなどのデータがインターネットを介して保存されるようになり、デジタルごみはこの10年間で急増した。
ユーザーが個人のファイルをアップロードできるウェブサービスの出現により、テープや磁気ディスクは使われなくなり(その大半はごみとして埋め立て地に行き)、代わりに自分のデジタル情報をインターネットの向こう側にあるコンピューター群である大きなデジタルの雲の中に放り込むようになったのだ。
「クラウド・コンピューティング」は、今や支配的になっているインフラ、またビジネスモデルを表す言葉だ。これによってユーザーは、必要に応じて情報やソフトウェアやリソースをオンラインで利用できるようになった。そしてこのサービスを行うために、無限に広がり続けることができる(ただし電気を使い続ける)データ・センターとサーバー・ファームが必要なのである。
ジョセフ・ローマン氏が1999年に発表した有力な研究「インターネット・エコノミーと地球温暖化」によると、消費者への直接販売が可能なオンライン・ショップや集約された在庫管理の恩恵で、エネルギー消費と温室効果ガスの排出は2010年までに劇的に減るはずだった。
ところがこの予測通りにはならなかった。私たちによって次々と生み出されていく新しいデジタルデータは、巨大なサーバースペースと莫大なエネルギーを必要とするのだ。こうしたデータの一部がデジタルごみになっているといえるだろう。私たちがインターネット上に作り上げ、すでに使わなくなっているデータが一体どれほどあるのか、考えてみてほしい。
インターネットを介してなされることはすべて二酸化炭素(CO2)排出量を増やすことにつながる。私たちにとっては残念な事実であるが、セキュリティーソフト会社のマカフィーの報告によると、1年間に送信される数兆にのぼる迷惑メールを処理するのに必要な電気量は、アメリカの200万世帯の電気使用量と等しく、またCO2排出量は自動車300万台分に匹敵する。
グリーンピースの出した最新の報告書、Make IT Green: Cloud Computing and its Contribution to Climate Change(ITの緑化推進:クラウド・コンピューティングとその気候変動への関与)によると、世界中のクラウド・コンピューティングの電気使用量は2007年に6320億キロワットであったものが、2020年までに1兆9630億キロワットに膨れ上がると予測されている。
私たちはこのままではいられない。そして有難いことに、気候変動を加速させることなく、責任をもってIT企業が成長していくチャンスも残されているのだ。
データ・センターの省エネのために行動を起こした会社がある。グーグルがその一例で、効率的なコンピューター使用を推進し、再生可能なエネルギーを少しでも多く利用する努力をしている。グーグルは、多くのIT企業のリーディングカンパニーと共にClimate Savers Computing Initiative(コンピューター使用による気候変動削減イニシアチブ)のメンバーとなっている。
ヨーロッパ全土では、ドイツのプロバイダー会社のストラト(ヨーロッパの一流企業のひとつ)のようにすでに試算を終えているサーバー運営会社もある。これらの会社は、省燃費で高い性能のハードウェアやソフトウェアを利用したり、センサーや特殊な「冷たい廊下」を利用して気温を一定に保つ冷却システムを導入したりすることで、使用エネルギー量を減らすことができるとしている。
2008年、ストラトはサーバーの電源として再生可能なエネルギーを利用し、CO2排出量を減らし始めた。彼らは今やグリーン・グリッドのメンバーになっている。これはIT企業と専門家による業界団体で、データ・センターと世界中のコンピューター・ビジネスにおけるエネルギー効率の向上を目指している。またこの団体は世界中の企業の力を集結させて、数的指標、過程、手法、新技術をひとつにまとめ、共通のゴールに向かって進むことによりIT業界に環境問題を意識させたいと考えている。
たとえ、CO2排出量削減と省エネだけでは多くの企業がこのイニシアチブに参加する十分な動機にならないとしても、石油の供給がピークオイルに達し石油価格が上昇すれば、疑いなくグリーン・グリッドの成長に拍車がかかるだろう。
この解決方法には、より性能の良い効率的なサーバーを購入することやインフラを向上させることなどが挙げられる。またソフトウェアの開発者も環境に優しいソフトウェア開発に挑戦せねばならなくなっている。言い換えるなら、洗練された非常に効率的なものへの挑戦だ。短く効率的なソフトウェア・コードで書き込まれたプログラムは演算の重複を避けることができ、結果的にCPUのパワーを無駄にすることがない。これが高性能プログラムといわれるものだ。
似たような問題としてドキュメントのフォーマットの互換性があげられる。マイクロソフトのワードやPDFファイルもその一例だ。数年間コンピューターに向かって仕事をしていれば、現在使用できるソフトウェアにすでに互換性がなくなっていて、もはやもう二度と開けることのないファイルが相当数あるだろう。オープン・ソースの熱烈な支持者であるジャン・ウィルドボール氏は互換性のないフォーマットを「デジタルごみ」だと言っている。彼の最大の懸念は、互換性のないフォーマットで保存されている公共団体のすべてのファイルだ。ソース・コードが統一されなければ、これらのデータはすべて使えなくなり、フォーマットが進化し続ける限り将来的にもアクセス不可能になるということだ。
私たち一人一人が知っておかねばならないことがある。今日、私たちはデジタル時代のバーチャル革命の一端を担っていることに沸き立っているだけで、電気電子機器廃棄物(E-waste)やデジタルごみ(”west week”の別の記事ですでに扱われています)について立ち止まって考える者はほとんどいない。
古くなったコンピューターや携帯電話やiPodなどの携帯端末が、捨てられた後どうなるかについて気にする人はあまりいないだろう。使用済みのインクカートリッジをゴミ箱に捨てたりせずに、リサイクルしている人も少ないだろう。ましてや自分たちが作るデジタルデータが日々蓄積されていることを気にかける人などめったにいないのだ。
しかしこういったことに目を背けてはいられないだろう。例えばオンライン口座をやめたら、自分のファイルを破棄するよう要求できるのだろうか?そうすれば他の客のためにサーバーのスペースを明け渡すことができるのに…などと考えてみるのも面白い。他にも、自分たちの作ったデジタルごみはある程度の期間使われないままでいたら、自動的に破棄されると決められないだろうか?というアイディアもある。おそらくこの案の現実化は難しいだろう。しかし、広がり続けるクラウド・コンピューティングが及ぼす影響について、またクラウド・コンピューティングの持続可能性の問題について、私たちはもっと注意深く考えなければならない。
さて、2050年に人類はいったいどれくらいのサーバースペースを必要としているのだろうか?
翻訳:伊従優子
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