毎年、何百万トンものプラスチックが製造される。1年間に世界で製造されるプラスチックの量については様々な推計があるが、おそらく3億トンは優に超えているだろう。
プラスチックは至る所で材料として使われ、莫大な数と種類の製品を作り出している。多くの場合、このような製品はたった一度しか使われない。たとえば、毎年世界で5000億から1兆枚製造されるビニール袋もそうだ。世界で作られるプラスチックの多くが、最後には陸地や海を汚染することになる。プラスチックの製造や廃棄処分のときに出る温室効果ガスについてはいうまでもない。
Photo Waterway at Minh Khai village.
ベトナムには、2,800という驚くべき数の工芸村がある。その中には、手作りの工芸品を観光客に売る村だけでなく、あらゆる種類の廃棄プラスチックのリサイクルを専門とする村もあり、廃棄プラスチックの中には廃棄処理の工程途中に集められたものも含まれる。
このような中、汚染を減らし、資源を保存する上で、プラスチックを集めてリサイクルする人々が重要な役割を果たしている。開発途上国では、ゴミを拾う人々すなわちスカベンジャーが、路上やゴミ処分場のゴミをえり分け、売ることができるものを集める。彼らがえり分け、集めた様々な種類のゴミは、クズ業者に売られる。(マーティン・メディナ氏の最近の記事をご覧ください)
ベトナムには、2,800という驚くべき数の工芸村がある。その中には、手作りの工芸品を観光客に売る村だけでなく、あらゆる種類の廃棄プラスチックのリサイクルを専門とする村もあり、廃棄プラスチックの中には廃棄処理の工程途中に集められたものも含まれる。こうした村の人びとは、クズ業者を通して、または直接スカベンジャーからプラスチックを買い付け、それを小さな球状のペレットか薄い膜状のフィルムに加工する。このペレットやフィルムから新しいプラスチック製品が作られるのだ。
家族経営
ベトナムの農村では、伝統的に農閑期に工芸品を作っていた。多くの村が長い時をかけて専門的な技術を発達させ、特化された製品を作り出してきた。織物、木工、漆器、金属細工などで特に有名になった村もある。
産業化の波が訪れ、多くの村人たちが都市に移ったが、工芸品を作る技術やネットワークは維持され、都市の市場に出すために製品が作られていた。たとえば、工芸村では、都市の人々のために家具や道具類を作ったり、花を育てたりしている。また、伝統的な工芸品からくら替えし、産業社会のニーズにあわせた製品を作るようになった村もある。たとえば、チュウクック村の人々は、従来行っていた紙作りをやめ、プラスチックのリサイクルを行うようになった。今では、多くの工芸村がプラスチックや紙、金属のリサイクルを主な生業としている。
チュウクック村は、ハノイ中心部から車で約30分のところにある。Vietnam Environment Technologies Corporation(ENTEC)(ベトナム環境技術社)および廃棄物処理を専門とするベトナムの会社、Urban Environment Company(URENCO)(都市環境社)のファム・レ・ドゥック氏の研究によると、チュウクック村ではリサイクル業に従事する事業体がおよそ77あり、約300人が働いているという。
ベトナムの伝統的な村の多くと同じように、チュウクック村も高い壁にはさまれた狭い路地が中庭や家を囲むように広がっている。プラスチックの廃棄物は路地に積まれていることが多いが、リサイクルの作業はそれぞれの家の中庭か近くの小さな建物の中で行われる(写真1)。
Photo Waterway at Minh Khai village.
各家庭が営むリサイクル業は、リサイクル工程の中の一つの作業、一種類のプラスチックに特化している。
チュウクック村でリサイクルを行っている人たちの多くは自営業で、家族の助けを借りているところが多いが、中には経済的に成功し、人を雇っているところもある。各家庭が営むリサイクル業は、リサイクル工程の中の一つの作業、一種類のプラスチックに特化している。たとえば、使用済みのシーラント(封止剤)の容器からラベルを剥がしてきれいにし(写真2および3)、それを小さなかけらに砕く、といったものだ。ビールケースを砕いて熱し、赤いペレットを作るという工程を主に行っているところもある(写真4および5)。
チュウクック村ではたいてい、各家庭でプラスチックの小片や薄片を製造し、それをホーチミン市や中国の工場に売っている。工場ではそれを使って最終的な製品を作ったり、服や敷物、その他の応用品の材料となる繊維を製造したりする。しかし、チュウクック村には、地元でペレットを仕入れ、椅子やコートハンガー、車のウィンカーのカバーなどの最終的な製品を村内で製造する家庭もある(写真6および7)。
大きな投資
ハノイの外にあるミンカイ村は、チュウクック村より大きな村だが、ここでは全体としてチュウクック村よりも大規模な設備投資を行っている。2008年にドゥック氏が行った調査によると、リサイクル業に従事する293世帯のうち、38世帯がトラックを所有し、廃棄されたプラスチックを村に運んだり、できあがった製品を市場に運んだりするのに使っているという。
ミンカイ村では、リサイクル業のために雇われている人は600人にのぼり、彼らが生産する製品は年に約5,000トン、その大部分がペレットかフィルムで、ホーチミン市や中国の工場に売られている。
廃棄されたプラスチックのうち一部は村の中で選別されるが(写真8)、村に到着したものの大部分はすでにスカベンジャーやクズ業者によって、ペットボトル(写真9)、ビニール袋、プラスチックフィルムといった具合にえり分けられている。選別が済むと、たとえばビニール袋のようないくつかのタイプのものは洗浄され、熱を加えられて溶かされる(写真10および11)。これがフィルムやペレットへと加工される。
環境と健康への影響
ところが、洗浄や加熱の過程で、健康や環境へ対する重大な危険性を伴うことが分かっている。プラスチックを熱すると有毒なガスが排出される。プラスチックの一種であるポリ塩化ビニールから発生するガスは、喘息を引き起こすこともある。様々なものが混ざり合った廃棄物には、別の危険性もある。アスベストや鉛のような有毒物質や病原体が含まれていることがあるからだ。そして、プラスチックを熱するために使われる炭や木から生じる煙は、熱せられたプラスチック自体から発生するガスと共に、ミンカイ村の空気を汚染する可能性がある(写真12)。
また、プラスチックを洗浄するときは、細長い水桶に入れ機械でかき混ぜるのだが、細かいプラスチック片やプラスチックの沈殿物を含んだ洗浄後の廃水は村の下水溝に流される(写真13)。それが村の水路に入り、飲み水や灌漑用水、養殖魚などに悪影響をおよぼす可能性がある(写真14)。
しかし、過熱と換気の技術が向上することで、大気汚染の問題を緩和することができるかもしれない。たとえば、局所換気装置を置いて作業場からプラスチックの熱いガスを除き、ガスが空気中に排出される前に何枚かの簡単なフィルターでろ過するということも可能だ。村人の中には、温度を自動調節する電熱器を設置している者もいる。これによって、プラスチックがオーバーヒートして燃えてしまう危険性がかなり減ることになる。
また、プラスチックの沈殿物やペレットを水路に入る前に取り除くことで、水質汚染を大きく減らすことができるかもしれない。洗浄用の水を再利用することも技術的に可能だろう。すでに水のろ過や換気装置の設置を試みている村人もいる。とはいえ、このような取り組みはわずかなものだ。
なぜならば、別の研究でも指摘されているように、ベトナムでは、家族レベルの事業体が生み出す排出物は大規模な工場に比べれば大したものではないと見なされているため、このような人々のための環境規制が実施されていないからだ。
さらに、このような小さな事業体は膨大な数にのぼるため、政府が規制をかけて監視し、それを守らせようとすると、その費用は莫大な額になる。したがって、環境への負荷に対する「潜在価格」は、小さな製造単位ごとに大幅に異なり、廃棄物を生み出す人々が自発的に協力するかどうかで、良い結果が出るか悪い結果が出るかが変わってくるだろう。
Photo Coat hangers made from recycled plastic.
環境や健康に害を与えるという面はあるものの、プラスチックをリサイクルすることで必要のない土地の埋め立てや汚染を回避でき、そして大抵は一度しか使われないプラスチックを新しく製造することで生じる温室効果ガスも抑制できる
プラスチック・モデル
環境や健康に害を与えるという面はあるものの、プラスチックをリサイクルすることで必要のない土地の埋め立てや汚染を回避でき、そして大抵は一度しか使われないプラスチックを新しく製造することで生じる温室効果ガスも抑制できる。
このように、プラスチックのリサイクルに従事するハノイの工芸村は、非常に役立つ環境サービスを提供していると同時に、人びとに生計を立てる手段を与えてもいる。さらに、多額の資本を投資することなしに、伝統的な工芸品作りの形式を産業社会で使用される材料を使うために応用できることも示している。
急速な都市化と開発が続く中、プラスチックのリサイクルの世界市場も拡大する可能性が高いと考えるならば、プラスチック工芸村の人びとの進取の気性と革新的な精神は、他の国が見習うべき良き経済モデルとなり得るだろう。
翻訳:山根麻子