故郷の島を後にする人

2013年11月11日 エイリフ ウルシン・リード Center for International Climate and Environmental Research

気候変動難民としての亡命認定をニュージーランドで申請した男性に関するニュースが先日、世界中でトップ記事を飾った。この男性は、ニュージーランド移民保護審判所に対して申請を行ったが、国際的な難民の地位に関する条約および議定書に示された条件下では難民と認定されないとして、審判所は2013年6月に申請を却下した。男性は現在、ニュージーランド高等裁判所に抗告中である。

「キリバスに帰国しても、私たちに未来はありません」と、イオアネ・テイティオタ氏は高等裁判所に語った。さらに、太平洋に浮かぶ故郷の小さな環礁に戻れば、子供たちの健康が危険にさらされると語ったと、ロイター通信は報じている

移住と気候変動の関係は複雑である。また、気候変動が小島嶼国における生活条件を左右する主な要因であると断定するのは難しい。

小島嶼国の住民を含む人々は、多くの場合、過去の過ちと、その過ちがもたらす将来的な結果の合間に挟まれていると、イラン・ケルマン氏は説明する。ケルマン氏はユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで、リスク、レジリエンス、およびグローバルヘルス研究を担当する準教授である。

ケルマン氏の指摘によれば、多くの島嶼国は今でも、植民地主義、ポスト植民地主義、モダニズム、強制的な移住政策や誤った支援の影響だけでなく、主に世界の富裕諸国から排出される温室効果ガスの影響にも苦しんでいる。

彼の物語

テイティオタ氏の訴えに対して、ニュージーランドの高等裁判所がどのような決定を下すにせよ、彼の物語はキリバスという国家の物語でもあり、また人口過剰、資源管理、貧困、海面上昇、そして気候変動といった他の島国が直面する課題の象徴である。

下記はニュージーランド移民保護審判所が下した公式決定からの概要である。

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キリバス共和国は、350万平方キロメートル以上の範囲に点在する32の環礁と、隆起したサンゴで形成されたバナバ島から構成される太平洋上の広大な島国である。10万人強の国民が約800平方キロメートルの地域に暮らしている。地図:Wikimedia

イオアネ・テイティオタ氏は、キリバスの首都があるタラワ環礁から北に、船なら3日間、飛行機なら2時間の距離にある小島で1970年代に生まれた。
キリバスの諸島では一般的だが、テイティオタ氏が生まれた島も海抜の低い環礁であり、時間の経過と共に固形化したサンゴの残骸の上に家が建てられている。彼は10代初めの頃、近くの島にある学校へ送られた。

2002年、テイティオタ氏は結婚し、妻の家族と共にタラワ環礁の他の村に移住した。移住後、テイティオタ夫妻と妻の家族は、数年前に建設された護岸の上に固まったサンゴの上に伝統的な手法で建てられた家に暮らしていた。その家は地面と同じ高さに建てられており、電気は通っていた。水は井戸と、政府からの供給水で賄われていた。下水道施設はなかった。

時間の経過と共に、テイティオタ氏が居住していた村を含むタラワ環礁の村々では、人口が過密していった。大きな病院など公的サービス施設のほとんどがタラワ環礁にあるため、人々は他の島からタラワ環礁にやって来た。彼らは地主から土地を買ったり、タラワに関係を持つ親族を通じて土地を入手したりした。

村が人口過密になるにつれ、緊張関係が生じ、身体的なケンカが頻発するようになり、けが人が出たり、時には死者が出たりした。こうした事例が起こった場合、警察が介入し、けが人を病院に連れて行き、責任者を逮捕した。

 

海面上昇の結果、タラワ環礁での生活は全体として徐々に不安定になっていった。1990年代の終盤以降、タラワ環礁の沿岸部は満潮時に大幅な浸食に苦しんでいる。さらに陸地は定期的な洪水に見舞われ、キングタイド(特に潮位が高くなる日)の時にはヒザの高さまで水浸しになることもあった。タラワの北と南をつなぐ主要道路はしばしば冠水し、交通に影響が及んだ。

こうした状況はテイティオタ夫妻や妻の家族だけではなく、タラワ環礁に暮らす他の人々にとっても大きな困難を引き起こした。水の供給源である井戸は塩害に遭った。海水が地表にたまり、作物を枯らしてしまった。作物は栽培しにくくなり、多くの地域で植物が一切、育たなくなった。

人口過剰や、人々が井戸水をますます頼れなくなっている現状によって、政府の水の供給が急務となりつつある。テイティオタ氏の義理の両親の家の前にある護岸は、何度も損壊し、度重なる修復を余儀なくされた。家族の生計は主に自給自足の漁業と農業で賄われていた。テイティオタ氏の義理の兄弟の1人は地方自治体の港湾局で働いており、彼にできる精いっぱいの現金収入を家族全員のために確保している。しかし、生活は全体的にますます困難になっている。

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土壌浸食を防止するためにキリバスではマングローブが植樹されている。UN Photo/Eskinder Debebe

テイティオタ夫妻は子供が欲しいと考えていた。しかし、テレビやメディアなどから得る情報によってタラワでの生活に将来性がないと知り、懸念した。そのため、彼らはニュージーランドへの移住を決断した。テイティオタ氏の両親は彼の故郷の島に暮らしているが、両親も同じような環境的な問題と人口増加の問題に直面している。

テイティオタ氏は、キリバス政府は可能な限りの対策を講じていると認識していた。同政府はキリバス国民の生活を支えるため、作物栽培用の土地をフィジーに購入した。彼が住んでいた地域でも、政府は護岸を建設したが、効果的ではなく、頻繁に損壊しやすい。いかなる対策も、海面上昇を食い止めることはできなかった。

テイティオタ氏は、自身の経験がキリバス全土に暮らす国民に共通のものであることを認めている。彼は自分の家族と連絡を取ったところ、彼が生まれた島でも同様の問題に直面していることが分かった。彼が最初にタラワ環礁に移住した時に一緒に暮らしていた親類は、他の島へ移住したが、やはり同様の問題に見舞われていた。テイティオタ氏の家族が移住し、海面上昇の影響を避けられるような土地は、キリバスのどこにもないのだ。

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本稿は Many Strong Voices(多くの揺るぎない意見)のご厚意で掲載されました。同組織は、北極および小島嶼開発諸国(SIDS)の沿岸コミュニティの福祉、安全保障、持続可能性の促進を目指しており、それらの地域をつなぐことで気候変動の緩和と適応に関する行動を起こし、世界に地域の現状を発信しようと努めています。

著作権はMany Strong Voicesおよび国連環境計画/地球資源情報データベース・アレンダールセンター(UNEP/GRID-Arendal)にあります。

翻訳:髙﨑文子

Copyright Many Strong Voices, UNEP/GRID-Arendal. All rights reserved.

著者

エイリフ ウルシン・リード

Center for International Climate and Environmental Research

エイリフ・ウルシン・リード氏はオスロの気候環境研究センター(CICERO)の情報部門に勤務している。ライターおよびフリーランスのジャーナリストの経歴を持ち、現在Many Strong Voices(多くの揺るぎない意見)のプロジェクトに携わっている。