世界の水危機解決に向けた第一歩

国連は2010年、安全できれいな飲料水と衛生施設へのアクセスは人権の一つであると宣言した。その5年後、国連加盟国は持続可能な開発のための2030アジェンダ、ならびに持続可能な開発目標(SDGs)の目標6(すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する)のターゲットを通じて、この人権問題に取り組むことを再確認した。

SDGsの採択から2年を迎えた今、実質的な成果を期待するには時期尚早と言えるかもしれない。しかし、アントニオ・グテーレス国連事務総長は最新のSDGs報告書において、「取り組みは開始されているものの、刻一刻と期限が迫りつつあります」と強く訴えた。期限である2030年までのターゲット達成に向けて、進捗があまりにも遅いとの印象がすでに生まれているのである。

しかし、このような懸念を早くも生じさせた原因の大部分は、各国基準値データの不足と統計能力の開発の遅れである。SDGsの実施状況に関する初期の評価を難しくしているのは、SDGsのすべてに指標が設定されている一方、指標を計測する明快な方法が定められていないという点である。進捗状況を判断するための標準化された確実な方法がなければ、実施中の取り組みは不透明になってしまう。水の問題、とりわけSDGsの目標6は、このジレンマの典型となっている。

SDGsの169のターゲットは、それぞれ1つもしくは2つの指標によって測定される。目標6については中核となる9つの指標の設定が合意され、かつ承認された。次の段階として必要となるのは、この9つの指標の測定方法についての合意である。現在までに4つの指標に関する測定方法が定められているが、実際にこれら4つの指標を測定し、信頼できる基準値データを構築することは、多くの国にとって難しいものとなっている。この結果、各国の正式な進捗報告はごく基本的な内容に終始しているというのが現状である。

この状況を招いた根本原因として、所得の高低を問わず大半の国が、SDGsの要求に応えられるよう、政治、制度、企画立案の仕組みをいまだ再調整中であるという点があげられる。2017年、43カ国が自主的にSDGsのごく一部の目標について進捗状況を報告した。アクショングループ「Together 2030」によれば、各国によって報告されたさまざまな課題や進展のうち、最も脆弱だった部分はSDGsの実現に向けて実施された具体的行動についての報告であるとしている。

この指摘は、水とSDGsの目標6について考えるうえで極めて重要な意味を持つが、その理由は個々のSDGsが本質的に関連し合ったものであり、水はそのすべてに関わっているからである。例えば、目標11「住み続けられるまちづくりを」は目標12「つくる責任つかう責任」と相互依存の関係にあり、共に目標15「陸の豊かさも守ろう」を後押しするものである。

しかし、目標6には特殊な点がある。水は生命、生計、生態系、経済の基盤であるため、安全な水へのアクセスはすべての持続可能な開発の進展を実現するうえで重要な糸口となっているのである。

SDGsに取り組む際に、各国政府がこうした水関連のジレンマに陥らないようにするための分析や議論は行われており、そのためのツールも存在するが、各国が水関連の優先事項とその実施の道筋をどのように決定するかは不明である。

日々の生活において水が重要である理由は考えるまでもないが、近い将来、水不足によってもたらされる影響を理解することは難しい。2030年までに、世界の水需給のギャップは40%になるものと思われる。さらに2050年までに、水需要は製造業で400%、生活用水で130%の増加が見込まれている。それにもかかわらず、水資源は97億人に達すると予測される人口を支えなければならず、全体の40%を、深刻な水ストレスにさらされる河川流域に暮らす人々が占めるとされている。

さらに、水質の低下の問題にも直面している。排水前の処理が行われる水の割合は嘆かわしいものであり、高所得国で70%、 低所得国ではわずか8%に留まっている。これは、1日当たり200万トンのし尿が水路に放出されていることを考えれば、なおさら憂慮すべき事態である。

こうした傾向を緩和すべく集中的な取り組みが行われたとしても、SDGsのさまざまなターゲット間で二律背反の状況が生じることは避けられないだろう。例えば、目標2「飢餓をゼロに」を実現するには、より多くの食料を生産できるよう農業を強化する必要があり、そのためには作物用としてさらに多くの水が必要となるため、結果的に飲料水や生態系に向けられる真水が減ることになる。

SDGsに取り組む際に、各国政府がこうしたジレンマに陥らないようにするための分析や議論は行われており、そのためのツールも存在するが、各国が水関連の優先事項とその実施の道筋をどのように決定するかは不明である。これまでのところ、全員の意見の一致を見ているただ1つの点は、「これまで通り」ではすべての国が失敗するだろうということである。

とはいえ、「これまで通り」のアプローチを変えるには、エビデンスに基づいた意思決定が求められるが、水分野のエビデンスは入手が難しい。この分野の特徴として、利害関係者が複数であること、環境、社会、経済という各分野の課題の間で対立が生じることがある。さらには環境条件の変化が著しい中、手法やアプローチを計画したり、結果やデータに頼ることは難しいという不確定要素や、複雑さが挙げられる。各国の水問題は専門家であっても対応が難しいため、データを利用して、SDGsの目標6の達成に向けた意欲的な行動につながる政策を策定することは困難である。

SDG政策支援システムは、合意の得られた単一の、ゆえに信頼性の高いエビデンスの政策利用を促進するために作られたシステムである。

この問題を克服するため、国連機関や、各国のNGOおよび政府は、エビデンス構築の改善に取り組んでおり、さらにこれを水管理のソリューションに関する理解の促進につなげようとしている。その好例が、 国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)の開発したSDG Policy Support System (SDG政策支援システム:SDG PSS)である。このシステムを利用することで、各国政府は国内外の既存および新規のデータを活用し、目標6に関連する政策立案や計画策定に適した堅固かつ動的なエビデンスを自動的に構築できるようになる。

SDG PSSは、合意の得られた単一の、ゆえに信頼性の高いエビデンスの政策利用を促進するために作られたシステムである。政策にとって極めて重要な以下の6つの要素に対応する国内外の既存のツールから、水関連のデータを引き出せるよう設計されている。

SDG PSSでは集約されたデータをSDGs目標6のターゲットおよび指標に照らして自動的に整理し、評価を行う。このため、ユーザーはSDGs指標における強み、不足部分、ニーズを1つのサマリーで見ることができる。

現在、SDG PSSは5カ国で試行中であるが、政策立案者、国際機関、水の専門家が自由に試用し、レビューすることができる。また、2018年半ばまでを目処として全世界向けに完成版を提供したい考えである。

目標6のターゲットにおける意欲的な要求内容は、世界の水危機の緊急性と規模の大きさを反映したものである。とはいえ、私たちが直面し、解決すべき課題の規模はあまりに大きい。SDG PSSのようなイニシアチブはそうしたなかで取り組みやすい第一歩を示すものであり、各国政府が信頼性の高いエビデンスの基準値を踏まえたうえで、SDGsの真の前進へ導くことのできる実施計画および政策を効果的に策定するための方法である。

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著者

国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)のプロジェクト・オフィサーである。災害や開発のサイクルのあらゆる分野に関する経験を有し、アフリカ、アジア、中東で人道対応に取り組んできた。オーストラリアと東南アジアにおいて持続可能な開発の研究を行い、スイスのジュネーブで国連本部の視点から災害リスク軽減に取り組んできた。先進国および開発途上国の水問題についての幅広い理解と、人道および農村開発の観点からの結果重視の研究に多彩な経験を持つ。ガピー氏の研究について詳しくは UNU.edu.を参照。

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