オーガニック食品主義

これまで長い間、小さな自然食品の店には、ビルケンシュトックのサンダルをはいたヒッピーを顧客に、干からびた人参を高値で売っているイメージがあった。

これらの店は値段が高めなので、大抵の人はこういった店を避け、普通のスーパーで食材を求めていた。
しかし、それはもう過去の話である。

例えば、ヨーロッパには世界の有機栽培農地の実に24%が存在し、自然食品に対する需要は急伸している。ドイツの人々は、地方の有機農業への助成制度が導入されて以来、その言葉通り、オーガニック食品の虜になっている。そして、これは有機農業に対するかつてない国家支援である。

現在のドイツは、自然食品のtヨーロッパ最大の市場であり、58億ユーロの売上高と15%の年間平均成長率を誇っている。

どうして虜に?

ドイツの環境保護活動や環境保護主義政治の長い歴史背景が、この国の肥沃な大地をオーガニックなライフスタイルへと移行させたのではないだろうか。昨今、ドイツ人の90%がオーガニック食品に賛成、70%が遺伝子組み換え食品を購入するつもりはないと意思表示をしている。

また、健康的な食品は国の助成を受け、社会から支援されるべきだという強い見識もある。このように、有機農業への政治支援は自然食品の消費習慣に拍車をかけ、ついには、当初は優勢だった低価格食品の市場よりも拡大することとなった。

自然食品の成長の裏には、もう一つ重要な推進力がある。それは基本的に有機農業は従来の農業よりも環境に優しいという点である。農薬や肥料を使わないというのは、よく知られた事実の一つにすぎない。

その他にも前向きな側面として、有機農業が二酸化炭素排出を抑制している事実がある。(例:有機飼育された牛肉は排出量24%減)また、有機農場は従来の農場よりも85%も多くの生物を有している。

新しいオーガニックビジネスモデル

ドイツの都市部ではビジネスが軌道に乗っているようで、低価格の自然食品店や「バイオ・スーパー」がぞくぞくと出現している。この数年で300件以上のスーパーやチェーン店が国内に広がっていて、各店舗が8,000種類にも及ぶ商品をめぐり、価格競争を繰り広げている。

ドイツ自然食品産業連合会の最新報告書によると、このような店舗は、自然食品部門全体の収益の5分の1を占め、今後大幅な増加が期待されている。2008年には、複数のチェーン店がすでに売上高25%増を達成している。

今日、どのスーパーでも有機食品を手に入れることができる。ヨーロッパ中の大型チェーン店でも同様である。
しかしながら、利潤最大化に焦点をあわさないオーガニックのビジネスモデルが、不況の時代に従来の農業よりも伸びるかどうかはまだわからない。

「オーガニック食品の動向は、いわゆる「恐慌」にも影響されています」と、スイス有機農業連盟 ビオスイス の会長で、国際有機農業運動連盟(IFOAM)の事務局長のマルクス・アルベンツ氏は主張している。
「しかし、我々が今まで長い間見てきたオーガニックブームの裏に、人々の認識の大きな変化がみられました。人々は環境破壊に責任を負うことにうんざりしています。我々が、守らなければならないたった一つの惑星にいることを更に深く認識している人々が増えています」

「有機食品生産は、口先だけでなく実際に問題を解決する事によって信用のできる答えを提供してきました。もし我々が子供たちに現在と同じような食の機会を与えてあげたいと思うならば、持続可能な生産のコンセプトは、 将来的観点を持つ唯一の農業概念なのです。このような質に対する認識は、恐慌の際に特に高まります」

ドイツのGLS銀行のような進歩的な銀行は、有機農業への投資に興味を示していて、透明性や実務の倫理規定に基づいた6,600以上の社会的あるいは環境保護プロジェクトの中から、顧客にどこに自身の預金を融資したいかを選択してもらっている。このような銀行と顧客は、昨今の不況期に有機栽培農家を支援する重要な役割を担うことができる。

また別の視点でみると、有機農業は現在もっとも必要とされている雇用創出にも貢献している。例えば、ビオランド有機農業協会は、通常の農家に比べてドイツのオーガニック農家は、採算性を度外視して、同じ広さの農地につき雇用を34%多く提供していると見積もっている。

さらに、このような農園の39%が経営管理職の地位に女性を配しており、これは注目すべき男女平等の側面である。

しかしながら、有機農業の可能性を真に認識するためには、すでに成熟した北半球の域を超えた地域を視野にいれなくてはならない。

開発戦略としてのオーガニック農法

世界中で8 億人が慢性的栄養不足に苦しむ中、オーガニック食品の役割を問う人もいるだろう。GMO(遺伝子組み換え生物)提唱者は、遺伝子組み換え穀物は効率的に食糧供給を増やす唯一の手段と主張するかもしれない。この考え方は、「1996-2006年の間に遺伝子組み換え穀物が世界の農業生産量を1億トン以上拡大し、その結果、農家の収入が338億米ドル増加した」という最新のヨーロッパ研究に裏付けられている。

しかし、問題はそこではない。

Percentage of world’s organic producers by geographical region 2007

「世界の農作物生産量は常に十分すぎるほどで、世界的な栄養不足や栄養失調は生産の問題ではありません。収入の配分と食料品へのアクセスの問題です」とアルベンツ氏は言う。

「種子の特許をとることで、農家を依存させ、より高いリスクを生み、高価で環境にダメージを与える化学物質と合成農薬を使わせることになる。その代わりに、人々はもっと権利を持たねばならないのです。国連食料農業機関(FAO)の研究では 有機農法は増え続ける人口への食糧供給ができると発表しています」

オーガニック食品に関する戦略には、全体論的アプローチが有効だ。開発戦略としての有機農法は 環境保護、経済的そして社会的側面を含む三次元的な持続可能性の観点に基づいている。

このような戦略の可能性は、開発のための農業科学技術の国際的評価 によるグローバルレポートや、インドの自然農法の先駆者でIFOAMのメンバーでもあるプラバ・マハレ博士のような専門家に支持されている。

博士は「科学的根拠が有機農業を明白に支持しています。有機農業は持続可能な生産方法として、21世紀の確かな解決策です。持続可能性を実践に移すのです。」と語っている。

アルベンツ氏によると、有機農法の動きがボトムアップから生まれるか否か、そのモチベーションの程度、そして利害関係者に信念があるかどうかが成功の鍵を握るという。

「大切なのは理想主義的な価値を緩めないことです。 オーガニック食品は批判的な消費者の監視の目にさらされています。オーガニック食品が信頼に値するもので、生産者も消費者の期待に答えた納得のいくものを作っていることを、継続的に証明していかなければなりません」

高まる期待

この解決策が浸透してきている証拠もある。この2-3年の間に、オーガニック食品の生産は世界的に人気が高まっている。とりわけ発展途上の国々では、有機農業の用地面積と有機栽培農家の増加が著しいものとなっている。

最近の調査報告によると、世界の3分の1の有機農業用地である約110万ヘクタールが発展途上の国々に存在している。 ほとんどがラテンアメリカの国々で、アジア、アフリカが2位、3位につづく。有機栽培農家の人口でみると、アフリカが最も多い。(下記グラフをご参照。詳しくはギャラリーのアイコンをクリックして下さい)

「発展途上国の成長は、特に貧しい国々において有機農業が有意義な社会経済、環境保護を意識した持続的開発に貢献できるということを示しています」と、2009年2月に開催されたビオファ・ワールドオーガニック見本市で、IFOAMの暫定事務局長であるダイアン・ボーエン氏が述べている。

輸出に重点をおく政府と農業関連企業が、この動向を我が物とし国内市場を無視したり、小規模農家を追いやったり、社会利益を排除したりしないよう警戒しなければならない、とマハレ博士は注意を促す

最終的に、「農地単位での効率」という従来の考え方を考え直す時期がきている。

フィンランドでの 会議で提案されたように、今日では食糧生産を「最も限りある資源の単位」で測り、人間の健康やより良い暮らしの恩恵といった要素も含めて判断することがより適切なのである。

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オーガニック食品主義 by カレ・ヒューブナー is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.
Based on a work at http://ourworld.unu.edu/en/a-taste-for-organic-food/.

著者

ライプチヒ大学(ドイツ)でスラブ研究と政治学で修士課程を修了。現在、国連大学サステイナビリティと平和研究所(ISP)のインターンとして勤務。ドイツ学術交流会からカルロ・シュミット奨学金を受けている。開発戦略、政治倫理と持続可能な生活に興味を持っている。