気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、これまでで最も厳しい報告書を発表し、地球の気温の急速な変化に関する明確な合意を表明した。
この報告書は「厳戒警報」の発出であり、行動を促す「警鐘」だと言われている。気候変動が人間の活動によって引き起こされていることは否定できず、そして、今日の我々の生活のあらゆる側面にシステム全体の影響を及ぼしていることは、科学界で何十年も前から言われてきたことだ。報告書はこれをもとに構築されている。
グレタ・トゥーンベリ氏が指摘している通り、IPCC報告書は科学を要約したものであり、私たちに具代的な行動を教えてくれるものではない。気候変動に対して変革的なアプローチをとらない限り、最後の警鐘が鳴った後も、私たちは集団で目覚ましタイマーのスヌーズボタンを押し続けることになる。
変革的なアプローチとは、すでに我々が最善のシナリオのいずれかを採用するにしても、遅すぎるところにいることを認め、気候変動を集団安全保障の中心課題とみなし、成長についての新たな理解を要求するものだ。
我々は1.5℃の閾値をすでに超えている
IPCCの報告書は、今日、すべての炭素排出を停止した場合に何が起こるかを初めて示している。地球の気温は数十年のうちに安定し、気候変動の最も深刻な影響のいくつかを逆転させるだろう。
しかし、たとえ炭素排出ゼロのシナリオであっても、海面上昇は数世紀にわたって続き、それによって人間の大規模な強制移動が発生し、数十億の人々の生活手段が失われるだろう。しかも、これは、今すぐに炭素排出を完全に停止するという、極めて可能性の低いシナリオのもとでの話であり、現実はこれよりはるかに悲惨なものになるはずだ。
1.5度という目標は、排出量削減と資金調達を促進するための有効な手段であるが、現実的には、IPCCなどが指摘した最悪のシナリオを想定した計画を立て始める必要がある。我々には、パンデミックの発生当時で明らかに不足していたように、世界規模の災害への構えが必要だ。
気候は安全保障の基本
我々の最新の調査によると、気候変動は世界中の紛争や不安のリスクを拡大させる要因として作用しており、多くの場合に強制移動、経済的打撃、自然災害、生活の急激な変化を通じてリスクを間接的に引き起こしている。
地球温暖化戦争から牧畜民・農耕民紛争まで、地球の気温上昇は不安定さを生む一因となっている。この事実により、安全保障、健康、インフラ、教育、開発といった政府のあらゆる主要分野において、気候変動を些末な課題から中心的な課題へ移行させる必要性が明確になった。
気候変動を米国の国家安全保障戦略に含める、というバイデン政権の決定は正しい一歩だ。我々は気候問題を孤立した単独の課題として扱うのではなく、政府の全機能を挙げて気候問題に総体的に取り組む必要がある。
成長への変革的アプローチ
気候変動に対処するために必要な試算は年間数兆円に上り、すでにパリ協定に基づいて定められた誓約の額をはるかに超えている。世界の人口増加と都市化が同時に進む中、気候変動対策のコストは劇的に上昇しているだけでなく、人類の発展モデルの存在に対するリスクとなっている。
しかし、もし、我々が資源を過去と同じようにエネルギー消費に注ぎ込んだり、さらに悪いことに、復興を急ぐあまり、環境を守るために設けられた保護対策を迂回してパンデミックに対応したりすれば、それは切断された手足に絆創膏を貼るようなものになるだろう。
必要なことは開発や繁栄の見方をより根本的に変えることであり、国内総生産 (GDP) のみで測るのではなく、我々の集団的な幸福度、持続可能性な行動、無限に炭素を排出するのでなく循環に貢献できる生産能力といったものに価値を置き、測定する必要がある。
COP26のアジェンダは、資金調達を継続する一方で、より変革的なアジェンダを推進する必要があり、開発を人間と地球の寄生や捕食の関係ではなく、環境との共生として考える必要がある。
…
この記事は最初にInter Press Service Newsに掲載されました。
Copyright Inter Press Service (IPS). All rights reserved.