新型コロナワクチン接種のジェンダー障壁を解消し、すべての人に接種を

新型コロナウイルス感染症の世界的流行と、その影響の長期化は過去に例がない。しかし、新型コロナ対策において明らかになった公衆衛生上の課題の多くは、先例があり、予測可能なものであった。

世界各国で世界予防接種週間(4月24日~30日)が開催される中、これまでにどのような教訓が得られ、あるいは得られなかったのか、また、どのようにしてワクチン接種の公平性に向けた前進を加速させることができるかを、しっかりと検討することが重要である。

2022年の世界予防接種週間のテーマは、「Long Life for All(すべての人々に長寿を)」であり、すべての個人がワクチンにアクセスでき、接種が受けられることのメリットを強調するものである。しかし、その一方で、実際にワクチンにアクセスでき、接種が受けられるのは一部の人々だけであり全員ではないという深刻で容易に解消されない障壁を見えにくくしている。

重度の新型コロナウイルス感染症を予防する有効で安全なワクチンの開発は偉大な科学的成果である。これによりワクチンの開発と配備に注目が集まり、さまざまな成功や課題が明らかになった。高所得国と低・中所得国との間で、また各地域内、各国内で、ワクチンへのアクセスの格差が明白になった。

2022年4月14日までに、世界の総人口の65パーセントが少なくとも1回、ワクチン接種を受けたが、低所得国では、1回目のワクチン接種を終えた人の割合は15.2パーセントにとどまっている。ワクチンが十分に確保されていても、地域社会や公共医療サービスや周囲の環境に存在するジェンダーに関連した障壁や不公平により、ワクチンへのアクセスや接種が妨げられている。

新型コロナワクチンについて、性別ごとに分けられたデータは少ない。Sex, Gender and COVID-19 Project(性、ジェンダーと新型コロナウイルス感染症プロジェクト)のCOVID-19 Sex-disaggregated Data Tracker(新型コロナウイルス感染症についての性別ごとのデータ・トラッカー)での報告によれば、少なくとも1回はワクチン接種を受けた人について、性別ごとのデータを発表している国は89カ国にとどまり、接種完了者については67カ国しかない。ノンバイナリーの人たちのワクチン接種データを発表している国は、インドとオーストリアの2カ国だけである。

世界の総人口の65パーセントが少なくとも1回、ワクチン接種を受けたが、低所得国では、1回目のワクチン接種を終えた人の割合は15.2パーセントにとどまっている。

データ・トラッカーが報告する全世界のデータによれば、ワクチン接種を受けた男性と女性の数は、おおむね同じである。しかし、国ごとのレベルでは著しい差が見られる。イエメンでは1回目のワクチン接種を受けた人の93パーセントが男性であるのに対し、タイでは男性の割合は36パーセントである。ワクチン接種率について言えば、データを発表している国の内、5カ国で男性の方が女性より5パーセント以上高く、7カ国ではその逆になっている。

このことは、ジェンダー関連障壁について議論する際の要点を示している。すなわち、ジェンダー関連障壁の負の影響は、周囲の環境や背景事情によって異なり、女性やジェンダーの多様な人々ばかりでなく、男性にも及んでいる。

ワクチンの接種率だけでなく、機会が提供され接種が可能になった際の接種に対する躊躇や積極性にも違いが見られる。接種意思の性別による違いについて体系的に検討した調査によれば、「接種を受けたい」(「受けたくない」や「分からない」ではなく)と答えた割合は、女性と比べ男性の方が平均して41パーセント高かった。

新型コロナウイルス感染症によって増幅されたワクチン接種に対するジェンダー関連障壁について、GAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)は、次のものが含まれるとしている: 公共医療サービスへのアクセスの制限、女性が過度に負わされている介護や育児などの無給のケアワークの増大、ジェンダーに起因する暴力の増加、デジタル・プラットフォームなど保険関連情報へのアクセスの不平等。

医療機関を受診するための移動の制限、医療サービスにおける差別やハラスメント、意思決定権の制限も大きな障壁となっている。医療従事者の間のワクチン接種に対する躊躇は、課題の一つとされている。ターゲットを明確にしたメッセージを発信し、彼らと協力し合い、その経験から学ぶことが求められている。

ワクチンへの公平なアクセスと接種に深刻なジェンダー障壁があることを認識して、すべての人の健康な暮らしと福祉のための世界行動計画(SDG3 GAP)のジェンダー平等作業グループは、国連大学グローバルヘルス研究所(UNU-IIGH)ジェンダーと保健に関するハブと共に、「新型コロナワクチンの公平な配備に向けたジェンダー関連障壁解消のためのガイダンス・ノートとチェックリスト」を作成した。

新型コロナワクチンへのアクセスや接種において、ジェンダー関連の障壁を解消するために行動しなければ、ワクチン接種率に大きな格差が生じ、感染拡大防止に不可欠な集団免疫の獲得を揺るがす恐れがある。

このチェックリストの目的は、できるだけ多くの人々が、自らの性自認やその地域社会で主流となっているジェンダー規範にかかわらず、公平に新型コロナワクチンにアクセスできるようにすることである。同チェックリストは、ジェンダー関連障壁とその解消に有効な対策に関するエビデンスに基づいており、新型コロナワクチンの配備においてジェンダー平等や公平性を担保するために各国が取りうる実践的行動を示している。ワクチンへのアクセスにおいて誰一人取り残さないことで、まさに「Long Life for All」の目標に資するものである。

新型コロナワクチンへのアクセスや接種において、ジェンダー関連の障壁を解消するために行動しなければ、ワクチン接種率に大きな格差が生じ、感染拡大防止に不可欠な集団免疫の獲得を揺るがす恐れがある。

個人のレベルでは、公平なアクセスが確保できず、新型コロナワクチン接種計画の有効性を最大限に発揮させられなければ、より多くの人が罹患し、亡くなることになる。その結果、経済の回復も遅れ、今ある不公平をさらに悪化させ、すでに社会から取り残されている人々を、さらに置き去りにすることになる。

新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、今までとは違うやり方で物事を行うチャンスが生まれた。いくつかの主要な分野で見られた進歩は、今後、より広く実施、加速されうるし、そうすべきである。研究、開発から供給まですべての段階において性別、ジェンダーごとのデータの重要性がより広く認識されたし、今後は、全面的に採用されなければならない。

一部の国では、そのようなデータが収集、報告されているが、依然として大きく不足している。新型コロナウイルス感染症は、そのような不足を埋めるきっかけとなりうる。女性や少女、あるいは社会から取り残された人々を、単に政策の受け手としてではなく、共同設計者として政策の策定や実施に関与させるという点についても進歩が見られた。

チェックリストでは、ワクチン配備に関与する関係者が、自らの中核的な事業や取り組みに性別やジェンダーに対する配慮を組み込み、新型コロナワクチン全国配備・接種計画(NDVPs)の各段階で障壁を軽減するための現実的な措置を示している。これによって、ジェンダー関連障壁への対応が後づけではなく、確実に優先事項として対処されることになる。

失敗の代償は計り知れないほど大きい。とはいえ、新型コロナワクチンの配備によって明らかになったジェンダー関連障壁は、予測されていたものであり、軽減することも可能である。チェックリストでは、ワクチン配備の各段階で効果的にジェンダー関連障壁を解消するための、実用的で明確な措置を示している:ワクチンの特例承認や緊急使用許可の条件として、市場導入前後のワクチン治験で性別や年齢ごとのデータ作成を求めることや、女性や男性、ジェンダーの多様な人々に効果的にワクチンを届けるためにそれぞれに合わせたワクチン供給戦略を用いることに至るまで。

チェックリストに記載された行動を実行し、シナリオごとの既知のジェンダー関連障壁を特定してそれに対処し、脆弱や不利な境遇下にいる人々に優先的に対応し、女性団体など地域社会に根差した集団と協力することで、ジェンダー関連障壁の解消、軽減に取り組むことが可能である。

ジェンダー対策を後から付け足したり、後知恵で考えたりすることで、本来、有していたはずの効果を著しく損なうことが多い。チェックリストにより、新型コロナワクチンの配備、供給に関与する政府機関やパートナーシップの中核的事業の一環として、ジェンダー対策の導入をさらに後押しすることになる。

公平なワクチン配備を妨げるジェンダー関連障壁は容易には解消されないが、決して不変のものではない。また、予測可能だが、避けられないものでもない。我々にはワクチンがあり、それを公平に配備するための知識もある。今必要なものは、正しくやろうとする意志である。

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