気候ソリューションの推進:COP29からの考察

私たちが真の持続可能性と自然との共生を望むのであれば、経済、社会、環境、ガバナンスの目標がすべて同じ方向に向かう必要がある。地方レベルから国際レベルに至るまで、あらゆるレベルのあらゆるセクターに関する政策が一貫性を持たなければならない。そのためには、さまざまな生態系にまたがる環境法や政策にどのように相乗効果を持たせ、協調させるかを検討し、すべてのセクターが環境と持続可能性に関する目標を確実に支え、互いに衝突しないようにしなければならない。

ランドスケープや海洋といった地球環境は、多様なステークホルダー(利害関係者)がそれぞれの利益や優先事項を追求する、ダイナミックで複雑な多機能空間となっている。このような関係性からは、しばしば対立や譲歩が生じ、環境の持続可能性と、公平性や包摂(インクルージョン)といった社会的目標の両方に対して重大な課題が投げかけられています。こうした緊張関係は、地域の伝統的な慣習と、市場の需要や補助金、知的財産に関するルール、利益を得る機会、標準化された商品への需要などの外的要因が絡み合うことによって左右される。

このように複雑な問題に対処するためには、競合する優先事項のバランスを効果的にとるための政策の一貫性が必要である。環境、社会、経済の側面を考慮した統合的なアプローチを促進することで、政策立案者は環境を管理し、持続可能性を促進すると同時に、包摂的で公平な成果を確保するという課題に対処することができる。

このようなビジョンをもって、私は国連気候変動枠組条約第29 回締約国会議(COP29)において、持続可能で公平な未来の実現における重要な課題を取り上げたさまざまな議論に参加する機会を得た。インパクトのある一連のサイドイベントを通じて、私は世界のリーダーやステークホルダーとともに、気候変動対策と社会生態学的レジリエンス(強靭性)、公平性、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を整合させる解決策を掘り下げた。

COP29でトルコ政府が主催したパネルディスカッション「NGO Perspective for Türkiye’s 2053 Net Zero Vision’ panel discussion」に登壇する岡本研究員。Photo: Yasin Naci (Set Productions)

地方のイノベーション・エコシステムを促進

COP29トルコ代表パビリオンでは、トルコのグリーン転換の歩みと2053年の野心的なネットゼロ目標に関するパネル・ディスカッションに参加し、InnovationGUIDEプロジェクトからの洞察を共有した。私は、特に地方における持続可能な変革を推進する上で、革新的なエコシステムや起業活動、経済発展が果す役割について話した。

ここで、社会において、持続可能で革新的なエコシステムを育み、企業活動を促進するために注力すべき5つの重要な分野を取り上げたい:

COP29サイドイベント「シナジー解決策:サイロと政策の非一貫性を克服し気候とSDGsの野心のギャップを埋める」で登壇する岡本研究員。Photo: UNU-IAS

公平な開発を進めながら、生態系の回復力と持続可能性を高めるためには、これらの相互に関連し合う分野に総合的に取り組むことが不可欠である。公正なグリーン・トランジション(環境に優しい経済・社会への移行)は、農村部のイノベーション・エコシステムを育成して地域経済を活性化し得るかどうかにかかっている。そのためには、資本や専門知識、ネットワークを動員するために不可欠な官民パートナーシップ(PPP)を積極的に推進する必要がある。このようなパートナーシップは、リスクを軽減するだけでなく、グリーンビジネスを拡大するために不可欠な支援を提供し、結果的に持続可能な経済成長を促進する。

持続可能な変革を達成するためには、意思決定プロセスにおいて多様な声が聞かれ、考慮されるよう、政策立案は参加型でデータ主導、かつ包摂的でなければならない。さまざまな取り組みや資源を調整する上で、官民、非政府組織(NGO)、学術界が協力し合うことは不可欠である。これらのステークホルダーが協力することで、グリーン・トランジションの広範な目標を推進しながら、経済成長と雇用創出の道を切り開くことができる。

統合的アプローチとコミュニティ参加

私が国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)を代表して参加したCOP29のもう一つの重要なイベントは、「シナジー解決策:サイロと政策の非一貫性を克服し気候とSDGsの野心のギャップを埋める」と題された国連システムのハイレベル・サイドイベントだった(UNU-IAS、UNU-CRIS共催、UN DESA協力)。このセッションでは、専門家が、公平な気候ソリューションのための革新的な資金調達、リスク管理、官民パートナーシップを通じて、政策におけるギャップを埋めるための実行可能な道筋を探った。

統合的ランドスケープ・アプローチを効果的に運用するためには、地域コミュニティの参加と活躍が不可欠である。欧州ホライズン・グリーンディール・プロジェクト(SYSCHEMIQ)がこの原則をよく示している。この現在進行中のプロジェクトは私が2年前から関わっている事業であり、オランダ南部で循環型プラスチックの普及と廃棄物分別の改善に取り組んでいる。このプロジェクトでは、特定のエリアにおける失業や都市の貧困など、地域住民にとっての優先課題が考慮されおり、持続可能な解決策を共同で創造、設計するために、自治体、廃棄物管理会社、教育機関、小売業者、地元企業などさまざまなステークホルダーとの広範な協議が行われた。このような共同作業の目的は、脆弱性をマッピングし、共通のビジョンを作り上げ、持続可能性を促進するための的を絞った行動を実施することであった。地元コミュニティの意識を高め、彼ら自身が持続可能性への変革のオーナーシップであるとの感覚を育むことで、積極的にグリーン・トランジションに参加するよう、個人に力を与えることが重要な目標の一つとされてきた。その「個人」には、変革を主導し得る子どもたちも含まれる。

これらの議論を通じて、気候変動と持続可能な開発という相互に関連する課題に取り組むためには、参加型でデータ主導、かつ包摂的なアプローチが重要であることが浮き彫りになった。力を合わせれば、私たちはより環境に優しく、より強靭な世界のために、影響力のある解決策を推進することができる。

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こちらの記事の原文(英語)は国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)のウェブサイトからご覧ください。

著者

岡本早苗国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)の研究員。心理学・行動科学者(心理学、認知神経科学、行動経済学)として、学界と産業界において人間の行動や心理をよりよく理解し、循環型経済、気候変動への取り組み、メンタルヘルスやウェルビーイングなど、さまざまな目的に向けて研究活動を続けている。