第4次産業革命が始まり、世界は人と環境とデジタルイノベーションの所産が高度につながる技術融合を迎えつつあります。その勢いを利用して、すでに持続可能な開発目標(SDGs)がデータに後押しされて進展していますが、デジタル分野に女性と少女が平等かつ有意義に参加することができなければ、成果が損なわれることにもなるでしょう。
「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中核理念は「誰一人取り残さない」であり、ジェンダー平等に依拠した目標です。しかし、情報通信技術(ICT)における根強く残る障壁によって、女性と少女が取り残され、アントニオ・グテーレス国連事務総長が述べた「デジタル技術へのアクセスにおける大きなジェンダー格差」が拡大しています。
国連大学コンピューティングと社会研究所(UNU-CS)はこのデジタル格差に焦点を絞り、EQUALS(デジタル時代のジェンダー平等のためのグローバルパートナーシップ)と協力して、ジェンダーに基づくデジタル格差の範囲と変化パターンを調査する研究を実施しています。EQUALSは国連大学(UNU)、3つの国連機関(国際電気通信連合、UN Women、国際貿易センター)、移動体通信事業者団体GSMAによって設立されました。
UNU-CSが主導するEQUALS研究グループには、世界中の教育研究機関、市民社会、テクノロジー関連団体から30人を超える研究者が参加しています。研究では雇用から賃金、セキュリティ、プライバシー、サイバー脅威、人工知能(AI)などの最新技術まで、さまざまな面で女性と少女がテクノロジーからどのような影響を受けるのかを示す包括的なエビデンスを構築しています。
グテーレス事務総長は2018年の国連総会の演説で、「現代を象徴する課題」を2つあげました。1つは、「女性を差別し、私たちの男性中心の文化をさらに強める」恐れなど、テクノロジーの進歩に伴うリスクです。しかし、デジタルにおける差別につながる流れに立ち向かうには、デジタル面でのジェンダー平等を阻む現在の社会経済的・文化的障壁に関して知識基盤を築くことがまず必要です。
「デジタル面でのジェンダー格差が生じているのは分かっていますが、その大きさや影響を論証するデータ・証拠が必要です。EQUALS研究グループが初めてまとめた報告書は、その役割を果たしています。報告書では、デジタル面でのジェンダー格差について包括的な洞察が示され、男性や少年と比べて女性や少女のデジタル経験が少なく、不平等で、かつ危険も伴っており、根強い格差が生じていることによる影響が明らかにされています。」アントニオ・グテーレス国連事務総長
しかしこれまで、正式な統計は、国の統計機関の能力の差や、データ収集に関する合意された定義や手法の欠如によって妨げられてきました。その結果、大半のICT指標に関してデータの地理的範囲が限られており、とりわけ開発途上国では男女別データが大きく不足しています。
2018年、EQUALS研究グループは、デジタル面でのジェンダー平等の状況に関して世界的な展望を明らかにする初期研究段階を終了しました。研究ではEQUALSの専門家によるケーススタディの寄稿と、国連大学主導による多数の情報源からのデータの収集・整理を通して、3つの中核行動分野を調査しました。その3つとは、女性によるICTへのアクセス、女性のデジタルスキル、そしてテクノロジー分野における女性の有意義な参加とリーダーシップです。
この研究では、デジタル時代の多様な分野におけるジェンダー平等のレベルについて洞察し、根強く残るデジタル格差と、男性・少年と比べて女性・少女の経験が不十分であることによる影響を明らかにしています。
開発途上国ではデジタルへのアクセスが明らかに改善しているものの、アクセスだけではデジタル面のジェンダー格差に変化をもたらすような影響を与えられません。EQUALSの研究で明らかになっているように、「ジェンダーに基づくデジタル格差は、国全体のICTへのアクセス水準や経済実績、所得水準、地理的位置に関係なく、根強く残っています」。
基本となるデジタルへのアクセスとデジタルリテラシーは、女性がICTを有意義に活用して社会的・経済的平等を前進させるための必要条件ではありますが、十分な条件ではありません。また、テクノロジーがさらに高度かつ高価になり、多様な活用が可能になるにつれて、ジェンダーのデジタル格差は、往々にして男性に有利なように拡大します。
こうした傾向から深刻な影響を受けるのは、世界の雇用市場でしょう。デジタル革命が進行すると、AIなどの技術が雇用を再構成し、事務職や行政職の多くで人に取って代わると考えられていますが、そうした職種は多数の国で女性が高い割合を占めています。つまり、女性のデジタルへのアクセスを改善する取り組みの一環として、コンピューティングやエンジニアリングなどの分野における将来の雇用に備えて、女性のデジタルスキルを育成しなければなりません。
科学・技術・工学・数学(STEM)教育は、こうした高度なデジタルスキルの基盤を築くことができます。しかし、EQUALSの調査で判明しているように、少女は少年よりも自分のスキルレベルを低く評価し、STEM科目への関心も低いため、高等教育でこれらの分野に進むのは女性の3分の1にすぎません。
「デジタル面でのジェンダー格差問題を解決できる唯一の方法など存在しません。こうしたジェンダー格差とは、複数の経済的、社会的、文化的障壁が交差しています。どのような問題が起きていて、それぞれにおいて何が一番効果的なのか、証拠と知見に基づく解決策でなければいけません。」アラバ・セイ 国連大学コンピューティングと社会研究所(UNU-CS)首席リサーチフェロー
研究ではまた、若い女性と少女にICT関連分野への就職を思いとどまらせている社会的・心理的障壁の克服に役立つ方法に注目しています。コンピュータプログラミングスクール、テクノロジー分野の基礎トレーニング研修、ものづくりのためのコミュニティスペースであるメーカーズスペース、大規模公開オンライン講座は、女性に経験と自信を与え、ICTスキルのジェンダー平等の向上に資すると考えられる例の一部です。
こうした積極的な教育の場は、ICTのアクセス、スキル、またリーダーシップにおいて女性を包摂していこうとする動きが、不快な経験、職場におけるセクシャルハラスメント、サイバー暴力の被害の増加につながらないようにするのにも役立ちます。
テクノロジー分野における女性のリーダーとロールモデルも、少女と女性がデジタルスキルを安心して積極的に伸ばすことができる環境作りに重要な役割を果たします。しかし、平均すると、ICT労働力に占める女性の割合は35%を下回っており、一部のサブセクターでは2%にまで低下します。さらに、こうした低い割合の中に入っていても、女性は昇進の機会が少ない下位の役割や補助的な役割に就いていることが多いのです。
おそらく最も深刻なのは、ICTの政策立案において指導的地位にある女性の割合が非常に低いことであり、女性がICT担当大臣を務めている国は28カ国のみであり、電気通信規制機関のトップを務めている国はわずか25カ国です。
指導的役割の女性がいない場合、結果的に意見の多様性が低下し、それがセクター全体の意思決定の質に影響を及ぼします。まだ実施されていない調査は数多くありますが、科学技術関連の職業におけるジェンダーに基づく障壁を克服し、昇進の道を開くために、女性を支援する必要があるのは明らかです。
EQUALS研究グループにおける国連大学のリーダーシップは、国連の優先事業を支える研究を先導するという国連大学のコミットメントを表しています。デジタル面でのジェンダー平等の状況と障壁に関するエビデンスを構築することで、国連大学の研究は女性によるICTのアクセスを拡大する戦略を支え、高度なデジタルスキルにおけるジェンダー格差を縮小する方法を提案し、ICTのリーダーシップにおけるジェンダー不平等の解決策を推進しています。
説得力のある信頼できるデータとケーススタディは、さまざまな国や地域におけるジェンダー平等問題の範囲を理解するのに不可欠であるだけでなく、政策立案者、企業、市民社会、学術界がより有効なプログラムを開発し、進捗状況を測定し評価するのにも役立ちます。そうなって初めて、私たちはSDGsを実現し、本当に誰一人取り残さないようにするための取り組みに自信を持つことができるのです。
この記事は、国連大学2018年次報告書に掲載されています。