多様性を高めるアファーマティブ・アクション政策が世界中で成功しているが、議論も呼んでいる

2023年6月に出た歴史的な判決の中で、米最高裁は人種を意識した大学入学者選考は違憲という判断を下した。この判決は、米国の高等教育機関への入学者選考におけるアファーマティブ・アクション(積極的差別是正政策)に終止符を打ったが、議論を呼ぶことになった。

人種を意識した米国の大学入学者選考政策には、1960年代の公民権運動にまで遡る歴史がある。これらの政策は、社会的に軽視されたグループに属する学生の数を増加させ、学生人口を人種的により多様なものにすることを目指すものだった。最高裁の多数意見を代表して、ジョン・ロバーツ最高裁判所長官は多くの大学が「個人のアイデンティティの試金石は克服した試練でも、築いたスキルでも、学んだ教訓でもなく、肌の色であるという間違った結論を下してきた」と書いている

だが、米国は民族、宗教、あるいは人種差別を是正したり、償ったりする政策を持つ唯一の国ではない。私たちの調査結果報告書は、世界中の国で行われたこれらの政策のさまざまな種類と成功を比較している。

アファーマティブ・アクションは大半の国で比較的最近のツールであり、政策としては特に政治の領域で1990年代以降に勢いを増してきた。2000年代には公共部門での雇用と教育部門が、その後2010年代には民間セクターでの雇用がこれに続いた。

アファーマティブ・アクション政策には、候補者におけるマイノリティの数を増やすという「ソフトな」施策も含まれ得る。例えば、求人情報の掲載の際に、多様性に注力することを示し、マイノリティの応募を奨励する言葉遣いを用いることである。

また、入学許可や雇用の決定にあたってマイノリティの立場を直接考慮に入れたり、国の立法機関に定数を割り当てたりする「ハード」な施策も含まれ得る。ニュージーランドで先住民のマオリの人々に国会の議席を割り当てる「マオリ議席」がその例である。

世界における違い

ヨーロッパでは、アファーマティブ・アクションより「ポジティブ・アクション(積極的行動)」という用語がより一般的である。文脈によっては、「積極的差別」がこの2つの同義語と理解されている

一部の国では、用語の間に厳密な区別がある。英国では、雇用者は「被保護特性を共有するあるグループを他のグループより好意的に扱う」ことを含むポジティブ・アクションが許容されている。例えば、対象者を絞った職業訓練プログラムの提供が考えられる。社会的に軽視されたグループの出身であることを理由に、資格の上でより劣っている志願者を採用するといった積極的差別は、平等法で禁止されている。

インドは、アファーマティブ・アクション政策を最初に導入した国として知られる。インドのアファーマティブ・アクションの核は留保制度にある。この制度は、政府の雇用、管理機関、教育機関への入学おいて、「指定されたカーストと部族」および社会の主流から取り残されたその他のグループ向けに席を「留保する」ものである。この制度は、植民地時代の類似の慣行に起源を持つ。

1950年に施行された憲法、その後の1951年の憲法修正を通じて、独立後のインドはこの留保制度を続けた。これらの条項は、歴史的に社会の主流から取り残されてきたカーストと部族が、政治のみならず雇用と教育部門においても代表されるよう、クオータ制によって保証するものだった。インドは後に、これらの取り組みを「他の発展の遅れた階層」および「経済的により脆弱なセクション」へ拡大した。

米国のアファーマティブ・アクション同様、インドの留保制度も激しい議論の対象になっていた。この留保から恩恵を受けられないグループのメンバーは、民族や階層に基づく定数制度を公に批判してきた。批判的な立場の人々は、これらの施策が不公正な選択と逆差別を助長すると主張する。

しかし、これら2つの国はこの論議を呼ぶ問題の取り扱いに関して、まったく異なる道を辿ってきた。米国では、判決によりアファーマティブ・アクションの施策が次第に軟化あるいは廃止されてきた。類似の判決が出たインドでは、一連の憲法修正によって留保制度が守られてきたのだ。

アファーマティブ・アクションは効果があるのか?

同僚と協力し、私たちは世界中のアファーマティブ・アクション政策のグローバルデータセットを構築した。さらに、それらが成功を収めているか否かを判断するためにレビューも行った。

その結果、レビューした194の研究のうち、63%がアファーマティブ・アクション施策は実際に民族、宗教、人種的マイノリティにとって状況の改善に役立ったと結論付けていることが分かった。これらの施策は、対象となったグループが意義ある形で政治に参加するのを助長するだけでなく、教育と雇用に関してより良い成果を得る助けとなっていた。

それでも、米国とインドの例が示すように、アファーマティブ・アクションはしばしば大きな議論を巻き起こす。研究がこれらの政策の成功を示しているにもかかわらず、頻繁に抗議と抵抗にあうのである。

私たちが研究した国々の半数超で、アファーマティブ・アクション政策の実施を支持する、あるいはそれに抗議する全国的な抗議運動市民活動が起きていた。そして、5分の1近くの国ではアファーマティブ・アクション政策の導入と実施に直接関連する暴力事件または暴動が発生していた。

アファーマティブ・アクション施策の実施や拡大を望む各国政府は、これらの影響を考慮に入れるべきである。

ソニア・ソトマイヨール米最高裁判事は自身の反対意見の中で、アファーマティブ・アクションは平等を推進するために必要な是正策だと主張した。では、世論を変え、これらの施策への支持を高めるために何ができるだろうか。

米国では、雇用の決定における人種に基づく選好への大きな反発が最近の世論調査で見られる。同じ調査によると、機会均等と多様性への強い支持も存在する。この結果が示唆するのは、進むべき道は、ハードなものよりソフトなアファーマティブ・アクション施策の追求かもしれない、ということである。つまり、定数を割り当てることなく多様性を促進する方法である。

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この記事は、クリエイティブ・コモンズのライセンスに基づき、The Conversationから発表されたものです。元の記事(英語)はこちらからご覧ください。

著者

ミン・J・キムはエリオット国際関係大学院で国際関係客員助教授および安全保障政策学MAプログラムのアソシエイト・ディレクターを務めている。また、客員研究員として国連大学世界開発経済研究所(UNU-WIDER)に所属している。