チリツィ・マルワラ教授は国連大学の第7代学長であり、国連事務次長を務めている。人工知能(AI)の専門家であり、前職はヨハネスブルグ大学(南ア)の副学長である。マルワラ教授はケンブリッジ大学(英国)で博士号を、プレトリア大学(南アフリカ)で機械工学の修士号を、ケース・ウェスタン・リザーブ大学(米国)で機械工学の理学士号(優等位)を取得。
人工知能(AI)は画期的なツールとして登場し、産業構造を変え、プロセスを合理化し、意思決定を改善してきた。AIの成功は、私たちがより多くのデータにアクセスできるようになり、またそのデータを分析するのに適した計算インフラを有するようになったことに起因する。AIは法律分野で大きな可能性を秘めており、弁護士の業務遂行方法や個人による司法制度の利用において改革をもたらすことが期待されている。
しかし、この可能性に倫理的な問題や障害がないわけではない。
法律分野でのAIの機能は多岐にわたる。AIを活用した調査ツールは膨大な法律データベースを素早く分析できるため、これまで実現不可能だった方法で弁護士に洞察を提供することができる。このツールは、チャットボットやバーチャル・アシスタントを利用して個人に対し法的ガイダンスを提供することで、法律情報へのアクセシビリティを高めることにもつながる。
AIは、文書自動化ツールを使って法律文書の作成に要する時間とコストを節約することができる。
予測分析によって法的結果を予測できるので、訴訟当事者や弁護士は十分な情報に基づいて意思決定を行える。オンライン紛争解決プラットフォームは、従来の訴訟に代わる有効な代替案を提示し、紛争解決の効率とアクセシビリティを向上させる。とはいえ、このようにAIが法律分野で注目を集める中で、私たちはこの革新的なテクノロジーに対する障害に注意を払い、絶えず警戒しなければならない。
一つ目の障害は、AIシステムの公正さとバイアス(偏見)で、これらはいずれも潜在的な懸念材料だ。機械学習のアルゴリズムは過去のデータを用いて訓練するが、それには社会的なバイアスが含まれている可能性がある。そのようなバイアスに対処しなければ、AIは法制度に以前から存在する差別を永続させ、悪化させる可能性さえある。AI開発では公正さと公平さを優先しなければならないが、それにはAIアプリケーション内のバイアスを特定して対処するための継続的な警戒が求められる。二つ目に、AIの意思決定プロセスが不透明であるため、透明性と説明責任に関する懸念が生じる。法的な文脈では、個人はAIシステムが下した決定の根拠を知る権利を有する。
法律分野の専門家と科学技術者は協力して、AIシステムの透明性を保証し、AIが生成した結果に対して個人が異議を唱えられるようにしなければならない。しかし、AI技術は遅れており、AIシステムは、AIモデルの精度が高ければ高いほど透明性が低くなり、その逆もまた然りという、精度と透明性のジレンマにさらされている。これは、AIモデルの精度が高いほど、モデルの複雑さも増すためである。さらに、AIモデルが複雑になるほど精度は高まるが、その結果、モデルの透明性は低下してしまう。
三つ目は、個人の安全とプライバシーの問題があることだ。法的問題では、個人の機密データが必要になることが多々ある。強固なデータ保護対策を実施して、個人の権利とプライバシーを守ることが極めて重要である。
法律分野の専門家は、個人データを扱う際に倫理的および法的な影響を十分に考慮し、厳格なデータセキュリティプロトコルを適用しなければならない。それにはテクノロジーが必要だが、多くのアフリカ諸国では必ずしもそのテクノロジーを利用できるとは限らない。アフリカ連合(AU)は、このようなテクノロジーのコスト負担を軽減するために、連合諸国のグループがテクノロジーを共同で調達するようにしなければならない。
それに加えて、私たちはそのようなテクノロジーを導入するのに十分な人材を育成しなければならない。四つ目は、法的調査と文書自動化に対するAIの能力が拡大するにつれて、法律分野の専門家の仕事が奪われる懸念が発生するおそれである。しかし、AIは法律分野の専門家に取って代わるものではなく、その仕事を補うものと考えるべきだ。AIを活用することで法律分野の専門家は生産性を高め、費用を削減し、専門家としての判断能力を高めることができる。
五つ目に、立法府と政府はAIを規制するための透明性のある枠組みを確立しなければならない。そのような規制は、倫理の原則を明確に記述し、透明性の義務付けを促進し、AIシステムの責任を規定しなければならない。イノベーションの促進と個人の権利の保護との間で最適な均衡を実現することは非常に困難な試みであり、その実現には、規制当局や立法者にこうしたテクノロジーを理解させるための訓練が求められる。
AUは、アフリカ全土でそのような知識にアクセスできるようにするための促進剤となり得る。
六つ目は、法律分野におけるAI利用の潜在的利益は、司法へのアクセシビリティを高める能力であることだ。AIが推進するツールは、弁護士を雇う余裕のない人々のために、法律情報へのアクセシビリティを高めることができる。
オンライン上での紛争解決は、従来の訴訟に代わる、経済的に実行可能な代替案を提示する可能性を持っている。しかしながら私たちは、これらのテクノロジーが司法へのアクセスにおける既存の格差を拡大するのではなく、是正することを保証しなければならない。
AIは、すべての法律問題を解決できる特効薬でも、私たちが知っている法律分野の専門家の仕事がなくなる前兆でもない。むしろ、責任を持って倫理的に利用するAIは、弁護士の権限を強化し、司法へのアクセス向上を促進する可能性を秘めたツールである。
AIと法が共存すれば、より公平で、効率的かつアクセスしやすい法制度を生み出すことができる。
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この記事は最初にForbes Africaに掲載されたものです。Forbes Africaウェブサイトに掲載された記事はこちらからご覧ください。