国連の平和活動の権限は、和平合意、マンデート、関連する国連安全保障理事会決議という3つの根拠に立脚している。和平合意の結果、外部の検証が行われたり、関係国自身が国連のような信頼された機関に合意履行の監督を求めたりする。理論的に停戦は通常、和平合意それ自体によって成立し、関係諸国は国連によってその順守を強いられる。また和平合意は、暫定政権という形式の権力分担を確立させる。移行期における安定の確保が、国連平和活動の基本的な中心課題である。
安全保障理事会は、承認されたすべての国連の介入にマンデートを付与する。マンデートは、介入活動が展開中に担うべき任務を明示している。それぞれの国連平和活動が立脚する基盤が、このマンデートである。
2000年、当時の平和維持システムの短所を評価し、修正のための現実的で特定的な勧告を行うために、パネルが招集された。その成果文書であるブラヒミ報告書と補足報告書は、「代替策ではなく政治的解決策」として平和維持活動を利用すべきだと記している。問題は、安全保障理事会が政治的組織であることだ。そのため、平和維持活動は時として政治的解決策に代わる選択肢として利用され、維持すべき平和がない場所で展開される。なぜなら、安全保障理事会は何かを成し遂げていると見られたがるからであり、その何かが平和活動の展開である場合があまりにも多いのだ。
安全保障理事会の政治は、常に妥協を求められるがゆえに、マンデートそのものもねじ曲げてしまう。理事会にとっての危険とは政治的目的を曖昧にしてしまうことだ。すなわち「政治的目的の不明瞭化がマンデートの曖昧性につながる」ということだ。サイモン・チェスターマン氏は自身の著書『You, the People(あなたたち、人民)』の中で、ボスニアでの国連保護軍(UNPROFOR)の複雑で方向性を欠いた常に変化し続けるマンデートと、国連東スラボニア暫定機構(UNTAES)の明確なマンデートの比較を用いている。
「……UNTAESのマンデートには、数量化できる6つの目的に抽出可能な、わずか13文が含まれていた……。ここでの私の主張は二つある。ひとつは、人はどこに行きたいのか分からずに出発した場合、恐らくどこか別の場所にたどり着くということ。もうひとつは、マンデートは、ミッションが行うすべてのことにとって床(天井ではない)であるということ。もしマンデートが何らかの理由で(安全保障理事会の理事国が政治的終局に関する合意に至れなかった場合を含む)曖昧である場合、ミッションは全期間を通じて機能不全に苦しむことになる」
マンデートが明確で簡潔であることは、めったにない。平和維持活動のマンデートが数ページに及ぶことは、今や珍しくない。例えば、国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)のマンデートには、41の異なる任務が含まれている。このようなクリスマスに欲しい物リストのようなマンデートが現在多くの国連平和活動を導いているのだが、そのマンデートのせいでミッションの中心的優先事項、すなわち安全保障の確立と政治過程の育成から注意がそらされていると論じることも可能だ。実践的なマンデートなら、平和活動の受け入れ国の政府と国民の期待に下方圧力が掛かるため、明らかに達成されやすい。混ざり合った期待感が満たされない場合、信頼の喪失は避けられない。
またマンデートは、積極的な政治戦略を反映すべきである。単純に言えば、戦略作りの公式は、実行する前に考えるということだ。しかし安全保障理事会は通常、現場での情勢の圧力を受けており、平和活動を展開する前に戦略を立てるチャンスはめったにない。一方、ほとんどのミッションは、その時点での「政治的および組織的圧力」 によって作り上げられ、「絶え間ない危機という状況下での即興の意志決定の文化」によって生み出される。
そして情勢の影響下で活動するミッションは、政治的戦略構築の要素を無視する傾向がある。そして、まるで消防士のように、危機から危機へよろめきながら向かう傾向を見せる。
より現実的で合理化されたマンデートの作成について、説得力のある意見を示すことができる。それは、「デザイナー・ミッション(設計されたミッション)」と元国連事務総長特別代表のイアン・マーティン氏が表現したものでもある。マーティン氏の概念は、状況を敏感にくみ取るアプローチを提唱しており、そのアプローチによるミッションは「支援すべき和平交渉や紛争管理の目的の特異性に従って設計され、最大限の柔軟性と革新の余地を有する」。多くの国連平和活動に伴う問題とは、その国に特化したアプローチではなく、型どおりのアプローチに頼りすぎる点だ。
デザイナー・ミッションの概念を最もよく表した一例が、1990年代初頭にエルサルバドルに配置された国連エルサルバドル監視団(ONUSAL)である。このミッションそのものは、エルサルバドル政府とファラブンド・マルチ民族解放戦線の間の和平交渉を支援するために徐々に確立された。当時としては興味深いことだが、ミッションが実際に配置されたのは、正式な停戦合意が署名される前だった。これは、和平交渉の関係両者やエルサルバドル国民の信頼を育むためだった。ミッションの中で最初に設立された部署は人権関連の小さな部門だった。
サンサルバドルに準備事務所を配置したことで、エルサルバドルにおける現場での検証という国連の役割が保証された。しっかりと組み合わさった多面的活動は、人権関連、警察、軍、選挙という4つの要素を備えており、それぞれが活動の困難な時期に設立された。ONUSALは、コンプライアンスを監視するという先駆的なマンデートを付与され、軍の撤退、公安改革、人権保護を確認した。ONUSALは完璧ではなかったが、和平交渉に相当うまく合致した活動であった。
デザイナー・ミッションは、ミッションの実施期間の特定の段階に特定の任務を優先的に遂行する一方で、常に政治的主軸を保持し続ける。ミッション開始時において、安全保障は最優先課題だ。初期段階では、東ティモールで東ティモール国際軍(INTERFET)が行ったように、妨害者をしっかりと抑止するために前衛部隊の利用が必要となるかもしれない。その後、治安組織改革(SSR)と共に、武装解除、動員解除、元兵士の社会復帰(DDR)が優先されなければならない。こうした優先事項は、いかなる時も和平交渉の優先事項を反映させるべきであり、国連事務総長特別代表や、より広い意味でミッションのリーダーたちの気まぐれ(あるいは長年温めてきた企画)を反映させるべきではない。
各ミッションのマンデートが行き渡ると、多様な任務を負うようになるのは不可避である。例えば人権、女性、児童、DDR、SSR、警察、刑事司法、文化遺産の保護などだ。どれも立派な事業であるが、そのすべてがミッションの実施期間の各段階で必要なわけではない。柔軟性と状況への鋭敏性に基づいて合理化されたマンデートは、国連ミッションの任務実行能力を向上できる。
ここでの論点は多方面に関連したものだ。すなわち、ミッションは何を行うべきか? 安全保障理事会は平和活動マンデートを練り上げるにあたって曖昧すぎないか? 平和維持ミッションは「大変」すぎるあまり、長期間に渡って効果的に機能することができないのではないか? 平和活動への需要がさらに拡大し続ける中で、こうした重要な疑問に答える必要があるかもしれない。
ひょっとしたら、第二のブラヒミ報告書が誕生するかもしれない。
翻訳:髙﨑文子
国連平和維持により焦点を絞ったマンデート by ピーター・ナディン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.