ビジネス界は 持続可能性の 危機と戦うべき

国際連合グローバル・コンパクトは、企業市民活動と持続可能性を促進する世界最大のイニシアティブである。130カ国以上から、企業だけでなく政府や労働組織や市民団体も含む8700の組織が参加しており、参加組織の活動に影響を与えることを目指している。

このイニシアティブに参加する組織や企業は、基本的に国連との自発的なパートナーシップを結んでおり、人権、労働基準、環境、汚職防止に関連した基本原則10項目を支持し、日々の労働環境に取り入れようとしている。

コンプライアンス評価は公開されており、参加企業が各自発行するコミュニケーション・オン・プログレス(COP)を投資家や消費者市民団体や政府は直ちに入手できる。したがって企業が原則に準拠しているかどうかは一般社会の評価や精査にさらされるため、参加企業は自社のステータスやブランド、全体的な企業イメージを守るために良き企業市民にならざるを得ないという仕組みだ。

結果的に、国連グローバル・コンパクトに参加している知名度の高い企業は、ますます持続可能性に関心を募らせる消費者へのマーケティング活動に以前よりも力を入れるようになった。

しかし、国連グローバル・コンパクトのプロファイルにもかかわらず、この種のコンプライアンス報告は誰もが気に入るものではない。グローバル・コンパクトは自発的な取り組みとして始まったものではあるが、ほとんどの(あるいは多くの)アメリカの多国籍企業は参加していないのだ。

アラバマ州立大学のL. Simone Byrd(L.シモーン・バード)氏によると、説明責任を評価する厳密な規定がないためだと言う。バード氏の言葉を言い換えるなら、国連グローバル・コンパクトもまた、行動を伴わない国際的な基準でしかないという認識が広く流布しているのだ。すなわち、企業は広報活動を強調し、実質的な内容にはあまり関心がないという認識だ。さらに、グローバル・コンパクトは先進国に目を向けているが、水の調達や、衛生、健康、教育といった基本的な条件にかかわる環境上の問題にいまだに苦しんでいる開発途上国には向けられていないようにも見える。

社会の中の(社会のための)ビジネス

国連グローバル・コンパクトの抱える問題を理解し、世界の現状と意義深いつながりを築くために、11月4~5日、国際連合大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)は、「危機下における意志決定―サステイナビリティと経済の両立:公的、私的展望」というテーマのもと、アジア・パシフィック・アカデミー・オブ・ビジネス・イン・ソサエティ(APABIS)年次総会を開催した。企業部門や学術界、民間の代表者たち約200人が世界中から参加した総会は、現在の世界的危機を査定し、その危機が環境や人権やガバナンスに与える影響を評価したほか、社会的に責任のある企業の主要な例を紹介した。

議論の中心には企業の社会的責任(CSR)という理論的構成概念があった。1979年、アーチー・B.キャロルによって初めて詳細に説明された概念であるCSRは、企業をコミュニティー中心の存在としてとらえている。それは企業だけでなく社会にとっても利益を最大限にすることを目的とした相互依存関係を築く存在だ。そして、ここで言う利益とは、経済的な利得だけでなく、倫理的、法的、環境的な利得も意味する。

こういった原則に準じた興味深い一例が、世界最大の食品企業の1つ、ユニリーバ(限定的には同社のアジア部門)によって提示された。同社は社員の間でグローバル意識を高めるために、国連世界食糧計画(WFP)とパートナーシップを結んだ。

このパートナーシップの行動計画は3つの主要軸に基づいている。まず、ユニリーバ社とWFPは飢餓状態にある子どもへの関心を高めてWFPに資金を集めるために、共同で広報活動を行った。次に、WFPの学校給食プログラムをさらに強化するため、ユニリーバ社とWFPはケニア、コロンビア、インドネシアにおいて栄養と衛生に関する教育キャンペーンを開始した。最後に2009年、4人のユニリーバ社の従業員と12人の大学卒業生に対し、同社が資金提供したEmployee Assignment Programme(従業員アサインメント・プログラム)への参加資格が与えられた。

社会的責任という原則に準拠した別の例が、日本の山梨日立建機株式会社によって提示された。雨宮清社長の指導の下、同社は複合的な用途に使える地雷除去機の開発に成功した。カンボジアのように戦争の影響が残る地域で、地雷を除去すると同時に土壌を耕すことができる地雷除去機だ。この製品の性能には2つの側面がある。地雷原の影響下にある地元の人々が致命傷を負ったり死亡したりする例を減少させると同時に、人々が持続可能な将来を築けるような土地を準備できるのだ。この事業によって、同社は環境省が協賛しNPO団体ソーシャル・イノベーション・ジャパンが認定するソーシャル・ビジネス賞を授与した。

本当の持続可能性とは何か?

しかし、上記の例やその他多くの良い事例は別として、企業が自らを持続可能であると定義づける多面的なビジネスの方法が本当に持続可能であると、私たちは確信を持っていいのだろうか。持続可能性を大事にする企業という評価を育もうとする試みにもかかわらず、ユニリーバ社は生物多様性の喪失と関係があるパーム油のような製品を相当な量を購入していることで厳しい視線を投げかけられ、時には批判を受けている。

さらに、学校給食の推進のためにケニアの学校に自社製品のブルーバンド・マーガリンを提供した事実を見れば、同社がWFPとのパートナーシップを結ぶことで新市場を開拓しようとしているとの解釈も可能だ。

間違いなく、持続可能性という言葉はパワフルだ。シンプルで、キャッチーで、簡単に使え、様々な状況に応用でき、親しみやすさと前向きな魅力にあふれている。持続可能性と関連の深い言葉として、「持続可能な開発」という現代的な概念がある。これは1987年のブルントラント報告書で定義された言葉で、「将来の世代のニーズを損なうことなく、現在の世代のニーズに応える開発」として表現された。

今日、持続可能である必要性を誰もが口にする。実際のところ、組織も人々もこの概念に注目するあまり、自分たち自身が持続可能であるとの確信を持っているようだ。企業の中には、環境に関する厳しいポリシーに従っているのだと少なからず主張している企業もある。

例えば、ヨーロッパのエネルギー供給会社、エーオン(E.ON)の2009年パフォーマンス報告書には、「当社のビジネスが環境へ及ぼす影響を最小限に抑えるため、私たちはあらゆる法的規定を満たしており、時にはそういった規定以上の努力しております」と記されている。この記載を読むと、環境への悪影響を軽減させて持続可能な開発を明らかに保証する規定が存在しているように思えるはずだ。ところが実際はそうではないのだ。エーオン社は、基準や法的規定に関係なく、いまだにかなりの汚染を排出している企業であるからだ。実際のところ、カーボン・マーケット・データが2010年6月に発表した調査結果によると、2009年時点でエーオン社は欧州連合で2番目にCO2排出量が多い企業だった。

エーオン社はCO2排出量を108メガトンから94メガトンに削減するなど、2008年以来かなりの改善を行ってきたのは確かだ。それでも環境に配慮した企業とは言い難い。この例を挙げた目的はエーオン社だけを指摘することではない。むしろ環境対策が多くのビジネス、特にCSRキャンペーンに巨額の予算を割くことができる企業のマーケティング戦略のデフォルトになりつつある状況を示すためだ。にもかかわらず、企業は多くの場合、本当の持続可能性とは何かという全体的なビジョンに欠いている。私たちは誰でも、食事を作り家庭で電力を使うためにエネルギーを必要としている。しかし化石燃料による電力を提供するエネルギー供給会社は、本当に持続可能だと言えるだろうか。

チャンスとしての危機?

明らかに、持続可能性を構成するものについては個人や組織によって考えが異なる。APABIS総会で、企業のリーダーたちは現在の生産量を2倍にし、なおかつ資源の乱用や環境への影響レベルは現状を維持したいと述べた。しかし現在行われている多くの資源の利用法がすでに持続可能ではないため、そのような主張自体、持続可能性という概念に矛盾していることになる。

人類の現在の生活様式は、地球の能力を超えてしまっているという考えは広く知られている。地球が実際に供給できる量をはるかに超えて、私たちは生産し、消費し、汚染し、浪費しているのだ。生産と消費のレベルにおいて、人類が近づきつつある物理的および生物学的限界は、1972年にデニス・メドウ教授と彼の同僚が発表した名著「成長の限界」の中心テーマであり、Our World 2.0でも何度も議論されてきた。

同書が発表されて以来、繁栄は完全な社会の建設には結びつかず、ましてや持続可能な社会は実現されないことが歴史によって証明された。人類の発展を追求する社会にとって、本当の持続可能性は存在し得るのかという疑問が数多く投げかけられてきた。人間性が戦っているのはユートピアの実現のためか、物理的な目的のためか。そもそも人間とは持続可能ではない存在なのか。

このような大きな疑問が絶えない危機的な時代において、絶望するのはたやすいことである。しかし国連グローバル・コンパクトのボードメンバーである有馬利男氏や総会参加者たちは、危機はチャンスの時でもあると述べた。危機、より正確に言うならば複数の危機(世界は経済、環境、食糧という複数の危機に同時に直面している)は、私たちに思考を変えて政治やビジネスの新しい方法を探るように迫っている。人々が変化の動因となれるような、前述の革新的で実用的な現場での行動は、民間部門による少なくともポジティブな取り組みの実例である。

UNU-ISPのオビジオフォー・アギナム上席学術プログラムオフィサーは、財政赤字や相変わらずの景気低迷という点から見れば、ビジネスには持続可能性という分野で建設的な役割を担うチャンスがあると言う。

「歴史の上である種の不安定化が生じるたびに国家や地域を超えた問題が… 私の理解では、それが国内政策であれ、国際政策であれ、民間部門の関与が必要な政策作りに常にギャップが生じるのです」

今こそ民間部門が率先して、持続可能性をより正確に定義づけて説明する、包括的かつ厳重な基準を作り上げるべき時なのだ。

翻訳:髙﨑文子

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ビジネス界は持続可能性の危機と戦うべき by アンドレア・オッティーナ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

アンドレア・オッティーナ氏は国際連合大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)のインターンである。オッティーナ氏はミラノのボッコーニ大学にて経営管理学士号、シドニー大学にて平和学修士号を修得した。彼の研究プロジェクト「Government Response to Political Activism: Conflict between the Public and the State, Genoa, 2001(政治的活動への政府の反応:国民と国家間の紛争、ジェノバ、2001年)」は現在、同校において研究修士号(Master of Arts by Research)の認定審査中である。UNU-ISPでのインターンシップの前に、アンドレアはシドニーのコンサルティング会社、シドニー大学社会・政治学部、ミラノのマーケティング部門で働いた経歴がある。彼の関心領域は公共政策、安全保障、知性、社会的流動化である。