新型コロナウイルスによる死亡率は本当に男性の方が高いのか?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行発生から何ヶ月も経過した今でも、なぜ重症度と進行が人によって異なるかについての理解が著しく不足している。その一因として、十分な詳細データの収集と報告を積極的に行なってこなかった点が挙げられる。ほとんどの国がCOVID-19による死亡者の年齢と性別を報告するだけだが、理解を深めたいならそれだけでは不十分だ。

COVID-19の基本的なデータを調べると、私たちが知っていると思っている、例えば男性の方が死亡リスクが高いといったことを揺るがすパターンが見られる。こうした事象は、感染者の人口統計や健康状態に関して詳しくわからなければ、解明されないままである。他の病気のようにより詳しい情報があれば、COVID-19をより適切に調査、予防、管理できるだろう。

詳細データで健康を促進

より多くのデータを報告して疾患例をサブカテゴリーに分けることを「細分化」という。それによって洞察を深められ、患者はより良い転帰(治療の結果)を得られる。例えば米国では、過去20年間の心臓病と心臓発作の有病率および転帰を性別、ジェンダー、エスニシティ(民族)、年齢ごとに細分化したことで、治療方法が大幅に改善された。

細分化されたデータを見ると、アフリカ系アメリカ人の心臓病患者は相対的に若く、高血圧症や糖尿病など、心臓病を悪化させる複数の関連疾患を患っている傾向が高かった。また、そうした人々は予防医療を利用できる機会が少ない点も判明した。これらのデータはすべてその後の治療に不可欠な情報であり、細分化によって得られた知識のおかげで、現在は治療ガイドラインに取り入れられている。データの細分化がなければこうした要因は見過ごされがちであろう。

詳細データを同様に分析した結果、欧州系、アジア系アフリカ系の患者間で、コレステロール値を下げるスタチン系薬の効果が異なることが明らかになった。この結果によって、より適切な処方と投薬につながる可能性がある。

細分化されたデータを使えば、男性と女性黒人患者と白人患者に対して起きる治療時の偏見によっていかに転帰の差異が生じるかが明らかになり、どのような変化が必要であるのかが浮き彫りになる。

不可解なCOVID-19の死亡率

現時点でCOVID-19に関して利用できるデータが年齢と性別に関してだけであるため、そうした類いの詳細な分析は得られない。しかし、現状のデータの中に説明できないパターンがあるところを見ると、もっと情報を集められれば詳しい洞察を得られると言えるだろう。

今年の最初の30週におけるイングランドとウェールズの65歳以上の死亡率を表した次のグラフが、そのことを示している。

英国国家統計局のデータ(著者提供)

赤色で示されているのがCOVID-19の死亡率で、2020年における他のすべての死因による死亡率は青で表されている。灰色の線は過去5年間の死亡率の平均である。このデータは性別でも分けられており、男性の死亡率が点線で、女性の死亡率が実線で示されている。

COVID-19の死亡率は13週頃に急上昇し、16週を過ぎてから急速に低下している。ピーク前後の週では、赤い点線の方が実線よりも高いピークを描いているように、男性の方が女性よりも死亡率が高い。こうした状況は世界のデータでも観察され、男性の方がCOVID-19の死亡リスクが高いと結論づけられた。

その理由については多くの推測がなされている。男性の免疫システムの方がこのウイルスに対する有効性が低いのはなぜか、このウイルスが男性の細胞の方に侵入しやすいのはなぜか、また、喫煙を含めどちらかの性に特徴的な活動がどのように関係するのかなど、さまざまな学説が立てられている。

しかしグラフでは、20週(最初の死亡者が発生したわずか10週後)までには男性の死亡者数が女性を大幅に上回ることはなくなっている。2本の赤い線はともに収束しているのだ。これについては、この期間の死亡率の男女比を示した次のグラフを見ると、もっとわかりやすい。

国国家統計局のデータ。青色の帯は95%信頼区間(著者提供)

COVID-19の死亡率の男女比が一定ではなく、上昇してから下降していることから、性別とCOVID-19による死亡との関連性は、パンデミック初期に拡大解釈されていたのかもしれない。今回のパンデミックのもっと後の段階でのデータを見ると、男女とも同程度に重症化しやすい可能性が読み取れる。

最初のグラフをもう一度見ると、青色の線が灰色の線を越えて上昇していることから、男女ともCOVID-19以外の死因による死亡数も急増していることがわかる。これは「超過死亡」、すなわち過去の平均水準に基づいて想定される数値を上回る死亡である。

ここでもデータの不足が原因で、COVID-19以外での死亡数が著しく増加した原因はわからない。推測される要因としては、公共医療サービスの不適切な対応、COVID-19の感染リスクを恐れて具合が悪くても受診を控えたこと、医療制度のひっ迫への懸念、慢性疾患患者の治療を維持するためのプライマリーケアが不十分だったことなど、複数の要因が組み合わさったためと考えられる。

しかし、「私たちにはわからない」というのが真実だ。

私たちが今すべきこと

わかりやすく言うと、病院はCOVID-19患者の詳細データの収集と報告に着手する必要がある。ここで言うデータとは、病歴や既往症だけでなく、人種やエスニシティ、職業、社会経済的地位など、人々の健康転帰に影響を与える「社会的決定要因」に関するデータである。

糖尿病高血圧症肥満を含めた多数の内科的疾患がCOVID-19の重症化に関係しているのはわかっている一方で、利用可能なデータからは、こうした疾患の適切な管理によってCOVID-19の重症化度合いが変わるのかどうかは明らかになっていない。仮に変わるとすれば、政策立案者は基礎疾患のある人々が予防的ケアを利用できるように対処する必要がある。

研究者がこうした分析を行えるよう、政府は病院に対し、収集したデータを世界保健機関(WHO)などと共有するよう要請すべきである。WHOはすでにプラットフォームを構築して、そうした情報をまとめている。

世界全体で90万人近く(執筆時の2020年9月時点で)が死亡し、今もその数が増え続けていることから、利用できるすべての情報を利用しないままこの疾病への取り組みを進めることはできない。

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この記事は、クリエイティブコモンズのライセンスの下、The Conversationから改めて発表されたものです。元の記事はこちら

著者

パスカル・アロテイ教授は、国連大学グローバルヘルス研究所(UNU-IIGH)所長。4つの大陸で20年間、グローバルヘルスの研究者として健康と福祉の増進に努めてきた。主な研究分野は健康の公平性、健康と人権、ジェンダーと健康の社会的決定要因、強制移住と疎外、性と生殖に関する健康、感染症と非感染症。

ニーナ・シュワルベは、国連大学グローバルヘルス研究所(UNU-IIGH)の主席客員フェロー。