AIとグローバルガバナンス:包括的プラットフォームの設立

AI(人工知能)時代を、多国間システムは生き残れるのだろうか。

我々は、多国間システムの機能や影響力に変化を与える技術変動の真っただ中にいる。

AIは情報を支配する力を一握りの人々に集中させるかもしれないし、多くの人々のエンパワーメントを実現するかもしれない。その結果として起こる力の分配は、国家、国家間、そしてルールに基づいた国際秩序への信頼に影響を与えるだろう。

経済、政治、社会システムへのAIの展開は始まったばかりだが、既に力の喪失を危惧している人々に、さらなる不安を与えている。

AIは国や影響力を持つテクノロジー企業の競合・協力にますます影響力を高めるとともに、ルールを設定していくだろう。そしてAIは、国や企業が社会を管理・統治する方法を形づくっていくだろう。こうした新たな流れの中で、国際コミュニティは喫緊の政治課題に直面している。

国連安全保障理事会の常任理事国5カ国のうち4カ国が国家戦略の中心にAIを据えるなど、AIを利用した軍拡競争の兆候が世界中で見え始めている。使い方を誤れば、AIのアルゴリズム(問題を解くための手順を、計算や操作の組み合わせで定式化する手法)と自律システム(機械が自ら手順や判断基準を見つけ出し実行するシステム)により、人間の権利、民主主義、そして法規範がむしばまれる恐れがある。

我々は、AIやその他の新興テクノロジーが存在する時代におけるグローバルガバナンスの在り方について、戦略的かつ包括的な議論を始めなければならない。

ニューヨークに拠点を置く国連大学政策研究センター(UNU-CPR)は国連システムに属する独立した研究機関である。多国間システムに関する知識と研究を組み合わせることで、現在および未来の国際社会政策の課題に対する革新的な解決策の創出に取り組んでいる。

「AIはグローバルガバナンスのどこに適合するのか」という問いは、まさに国際社会政策の課題だ。新興テクノロジーに関する国連事務総長の戦略の中で国連大学に与えられた使命として、UNU-CPRは、「AIとグローバルガバナンスのプラットフォーム」を立ち上げた。これは、研究者や政策実施者、企業をはじめとする業界のオピニオンリーダーが、社会政策の問題を探求する包括的なプラットフォームである。プラットフォームを率いるUNU-CPRのリサーチフェロー、エレオノール・パウエルスは、AI、AI倫理、AIと新興テクノロジーとの融合に関する国際的な専門家である。

このプラットフォームでは、世界的に著名なAIの専門家や実務家を集め、以下のような戦略課題に関する学際的な議論を行っていく。

国連機関で働く者として、関連性や影響には大きな疑問もある。多国間による国家主導システムは、AIガバナンスにおいて、どのような担うべき役割(そのようなものがあるとして)があるのだろうか。持続可能な開発、人権、平和、安全に関して国連が持つ国際的権限に対し、AIはどのような直接的・間接的リスクを与えるだろうか。また、どのような制度的取り決めやガバナンスのフレームワークがあれば、人間の尊厳を損なうようなAIシステムの誤用を防げるのか。

この問いの中心にあるのは「AIの管理において、国、企業、市民社会、国際組織、そのほか国際社会のリーダーの役割は何なのか」という疑問だ。

これらは単なる抽象的な疑問ではなく、我々が直面する倫理的岐路である。

これらの倫理的な課題の答えはやがて、AI時代において個々の主体がどのように国や企業、そのほか国際社会のリーダーによって管理されるかを具体化するだろう。そして、管理する力を持ったさまざまな組織間の競合利益により、多国間協調主義とグローバルガバナンスの未来が形成されていくだろう。

AIは既に世界中で倫理・政策の議論を呼んでいる。「AIとグローバルガバナンスのプラットフォーム」は、AIの実務家や政策立案者だけでなく多国間協調主義にも関連性の高い疑問に取り組むことで、既存の議論に独自の付加価値をもたらすだろう。その目的は、AIと現場からの教訓を基にした政策知識を関連づけることにある。プラットフォームでは、AI革命が生み出す倫理上の難題やリスク、機会について議論し、取り組むことに関心を持つ業界のオピニオンリーダーを集め、包括的で活発なコミュニティを形成していく。

将来、AIによって起こりうる世界の政策課題を分析するには、分散している情報を集め、見落とされがちな問題に光を当て、分野や部門、地域、文化の違いを越えた情報共有と対話を促進する必要がある。

そのために、このプラットフォームでは、AIについて研究する優れた研究プログラム、企業の研究所を運営する人、人道的視野からAIの利用を研究する人、市民科学(一般市民による自然界に関するデータ収集・分析で、通常は科学専門家との共同プロジェクトの一環として行われる)のように民主化されたイノベーションエコシステムを通して「現場からのAI」を育てている人に至るまで、さまざまな視点を取り上げていく。

プラットフォームを通じて共有、議論、話し合いが行われたアイデアが、AIガバナンスを形作る際に、国連加盟国や多国間にまたがる機関・機構・プログラム、ステークホルダーによって、各自の役割を検討する一助になると願っている。

著者

エレノア・パウエルスは、国連大学政策研究センター(UNU-CPRリサーチフェローとして新興サイバー技術について研究している。研究者のためのウッドロー・ウィルソン国際学術センターで科学施術イノベーション・プログラムの人工知能(AI)担当責任者を務め、また欧州委員会科学・経済・社会局の担当官にも抜擢された経験がある。国際科学政策の専門家として、特に融合技術のガバナンスと民主化が専門分野。ハーバード・ケネディスクールAIイニシアティブと自律・知能システムの倫理に関するIEEEグローバル・イニシアティブで顧問を務める傍ら、世界経済フォーラムにも専門家として加わっている。

ジェームズ・コケインは、国連大学政策研究センター(UNU-CPR)の非常勤リサーチ・フェローで、現代の奴隷制に関するプログラムを担当。また、「奴隷制と人身売買に対抗する金融(Finance Against Slavery and Trafficking:FAST)」プロジェクトを行うリヒテンシュタイン・イニシアチブ事務局の代表を務める。