AIはグローバルな食料安全保障と気候行動を変革できる

すべての持続可能な開発をめぐる課題と同様に、食料安全保障の達成は環境、経済、平和と安全、そしてテクノロジーと相互に絡まり合った複雑な目標である。

しかし、憂慮すべきことに、2020年以降世界の食料不安は倍増して3億人を超える人々に影響を与えている。基本的人権である食料安全保障がこれほど劇的に減退している中、早急な介入が求められる。このままでは、食料安全保障の4つの側面(供給面、アクセス面、利用面、安定面)が、気候変動によってますます強まる圧力に耐えられず、瓦解しかねない。

気象パターンがますます混乱するにつれて、世界中の人々の生活と生計もまた混乱に陥っている。農業生産は、気候変動関連のハザードや災害の容赦ない集中砲火と闘っており、世界の食料の3分の1を生産する小規模農家など、脆弱な立場に置かれた人々が不当に影響を受けている

一方、世界の農業食料システムもまた、土地利用の悪化、持続不可能な農法、非効率的なサプライチェーンを通じて、気候危機を深刻化させている。

持続可能な開発目標(SDGs)の目標2「飢餓をゼロに」では、小規模農家の生産性を2倍に高め、持続可能な食料生産システムを確保するための複数のターゲットにおいて、前進が滞っていることが分かっている。こうした進捗の遅れには多くの原因があるが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、各国政府が農業に関する取り組みへの投資を他へ振り替えざるを得なかったことも一因である。

一方、2015年にSDGsが発表されて以来、私たちは人工知能(AI)の驚くべき進歩を目の当たりにしてきた。このテクノロジーは、食料安全保障と気候変動対策に向けた私たちの取り組みを大きく後押ししてくれるだろう。

AIの負の影響が危惧されているにもかかわらず、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、持続可能な開発にとって、「世界を良くするAIが持つ可能性はあまりに大きく、把握することさえ困難だ」と正しく指摘している。

AIを適切に開発して管理すれば、私たちが気候変動の影響を緩和して抑制する努力を払う中で、持続可能な農業システムを拡大し、食料安全保障を達成する取り組みにおいてAIが大きな役割を果たすだろう。

第1に、AIは農業の持続可能性を向上させるように導くデータシステムを強化するだろう。

土壌の健康や水の利用可能性から気象傾向や害虫駆除に至るまで、気候変動による混乱を先取りしてそれに対応する能力は、堅牢で共有されたデータシステムにますます依存するようになっている。

リモートセンシング、衛星画像、地球観測システムといった私たちの分析ツールキットはAI革命の最先端を行っており、主な農業支援技術の計算能力、精度、コスト効率、利用しやすさを劇的に向上させるだろう。

第2に、AIはより優れた農業食料システムの実現に役立つだろう。

人間が発生させた温室効果ガス排出量の30%は、農場、農業支援のための土地利用の変化、流通サプライチェーンなどの世界の農業食料システムに遡ることができる。ここで、食料システムを改善するAIの可能性は、土地、エネルギー、輸送にまたがる広大なものである。

土地利用の決定は、気候モデリングや生態系データ、災害リスクマッピングに基づき、最適な区画や作物をより正確に決定するための機械学習から恩恵を受けるだろう。AIはまた、市場の需要に関する洞察を迅速に提供してサプライチェーンに新たな効率性を導入し、差し迫った気候ショックや災害に対する流通網の備えを改善する。

世界人口の半数超が暮らす都市部では、AIの助けを得て、より効率的に都市の消費者と周辺地域の生産者をつなぐ方法を判断し、輸送による排出と食品廃棄を削減できるようになるだろう。

第3に、AIはグローバル・サウスの農業と気候変動のニーズに沿った技術革命を推進する可能性がある。

一例として、一部の推計によると、アフリカには持続可能な農業に適した世界の土地の約45%があり、労働力の65%超が農業経済に従事している。しかし、アフリカは世界のその他の地域と比べて食料不安の比率が最も高く、気候変動の影響もまた甚大である。事実、気候変動の脅威にさらされている上位20カ国のうち85%がアフリカにある。

食料不安の原因は複雑であり、一見して厄介な紛争の連鎖もそこに含まれることが知られているが、持続可能な農業のためのAIテクノロジー開発に真剣に取り組むのなら、そのターゲットをグローバル・サウスにすべきであることは明瞭である。これは、グローバル・サウスの農業食料システムが将来の人々の生計と雇用を支えることができるように、AIの利用法を見直すことにつながるかもしれない。

国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)と国連気候変動枠組条約(UNFCCC)技術執行委員会は、7月1日から2日にかけてボンAI・気候専門家会合を共催する。

特筆すべきことに、この会議の目的には、AIと気候行動の接点に生じた新たな解決策をより良く理解すること、そして、その理解を強力なパートナーシップを構築する土台として利用することが含まれる。そうしてできたパートナーシップを通じ、世界を良くするようAIを管理し、開発し、利用するのである。

AIの潜在的な恩恵はパートナーシップにかかっている。1つの問題の解決策が別の問題を増幅しないようにするためのグローバルな課題を十全に理解するには、協力が唯一の道である。農業、食料安全保障、気候変動の交差点で前進するにあたっても、同じことが言える。

AIをめぐっては不安や懸念が生じているが、AIがもたらす影響には私たちが共有するビジョンが反映されるだろう。持続可能な開発を支援するよう、私たちがそのビジョンを形作るしかない。

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著者

チリツィ・マルワラ教授は国連大学の第7代学長であり、国連事務次長を務めている。人工知能(AI)の専門家であり、前職はヨハネスブルグ大学(南ア)の副学長である。マルワラ教授はケンブリッジ大学(英国)で博士号を、プレトリア大学(南アフリカ)で機械工学の修士号を、ケース・ウェスタン・リザーブ大学(米国)で機械工学の理学士号(優等位)を取得。