BRICS開発銀行よ、気をつけて

BRICS開発銀行創設の提案は昨日今日に始まったものではない。だが、3月に南アフリカで開催されたBRICSサミットで予定されていた正式発足は、2014年にブラジルで開催予定の次期サミットに持ち越された。ブラジル、ロシア、インド、中国と南アフリカの5カ国がこのプロジェクトに取り組んでいるが、各国間の抜け目のない駆け引きの様子は、9月にサンクトペテルブルグで開催されるG-20サミットに平行して行われる会議でおそらくは明らかになるだろう。ただし、予定はいまだ未定のままだ。

BRICS5カ国が世界に持つ影響力が不均等であることや、それぞれの利害の衝突から、銀行の実現可能性への懸念も高まっているようで、評論家の意見も分かれている。「BRICS開発銀行は大歓迎」という声もあれば、「IMFや世界銀行だけでも十分に悪影響なのに、BRICS銀行などありがた迷惑だ」という声もある。

BRICSは、この多国籍開発銀行の設立について、「より正当な世界秩序」に貢献するものだと発表した。控えめに言っても野心的だといえるだろう。国際社会はこの動きを、新興国の競争力増大への第一歩と解釈している。現在の西側主導の国際金融機関の「補足」になるとする見方もある。

実際、加盟国間に大きな格差(中国1国のGDPが他の4カ国のGDPの総計より大きいことを忘れてはならない)はあるものの、今やBRICSは、世界のGDPの25%、世界の人口の40%を占めている。BRICS開発銀行の設立と運営に自信を持つべき理由はあるのだ。

しかし、詳細の多くはこれから交渉、決定されていくことになっており、慎重になるべき理由もまたあるといえる。新銀行の拠点はどこになるのか? スタッフの配置は誰が決めるのか? どこへ融資するのか? その寛大さによって利するのはどの企業か? 共有機関として維持するに足る共通性がBRICSにはあるのか? 銀行は中国に支配されてしまうのではないか? この新たな開発銀行は世界銀行に挑戦を突きつけることになるのか?

こうした疑問の多くは、私たち経済学者や政治家が取り組むべきものだ。しかし、私は「BRICS開発銀行よ、気をつけて」と言いたい。

そう、気をつけて、だ。なぜなら、世界が注目しているからだ。世界銀行やIMFだけでなく、また米国やEU、英国だけでもなく、そして豊かなBRICSの5カ国から資金を引き出したい国や企業だけではなく、世界、つまり全世界、自然、そして人類と、ダムになる河川、刈り取られる森林、平和を脅かされる魚や象、移動を強いられる先住民も注目している。後者は大きな声を上げない、もしくは上げられないが、私たちは、BRICS銀行の融資の帰結として、より大規模に、回復不能な自然の損失や人間がもたらす災害に直面することになるかもしれない。そこで浮かぶ疑問は、多国籍開発銀行の前進力は、その破壊力なみに現実的なのだろうか、ということだ。

官民を問わず、銀行が自然や人々に良い影響だけではなく、議論の余地や問題を残す形での影響を及ぼすことが明らかになってきている。例を挙げるなら、ダムに融資する際に、どれだけ多くの種類の生き物が絶滅の危機にさらされているのかを調べなかったり、借入国の開発政策に影響を与えながらも、そこに何世代も前から住んでいる人々の声を聞かなかったりするなどだ。

世界銀行やほとんどの地域開発銀行は、その設立協定の中で「持続可能な開発」を誓っている(「持続可能な開発」の詳細はここでは問わないことにする)。環境や社会を守る内部方針と、それを遵守するための内部機構を設定し、影響を受ける人々の声が届くようにしている。しかし、開発銀行にとってこうした原則や方針を守ることは容易でないことも実証されている。

事態の改善はまだまだ長い道のりのようだ。開発銀行の支援を受けたインフラ・プロジェクトの悪影響がもたらす悲話を、私たちは今なお見続けている。

最近の例では、世界銀行が2010年に認可したレバノンの ベイルート首都圏水供給プロジェクト(Greater Beirut Water Supply Project)がある。リタニ河とアワリ河から飲料水をベイルート首都圏とベイルート南部の低所得地域の住民に供給するプロジェクトだが、ダム建設に伴う地質学上リスクや灌漑により、他の地域の水源を奪い、水質汚染をもたらすと批判されている。

さらに多くの証拠を、モンゴルのゴビ砂漠南部のウムヌゴビ県におけるオユ・トルゴイ銅/銀/金鉱山プロジェクトや、インドのグジャラート州におけるタタ・ムンドラ超大型発電プロジェクト、または南アフリカのケンダルにおけるムプマランガ火力発電所で見ることができる。

そして今、創設時の資本金が500億米ドルに上ると予想される開発銀行が登場する。この銀行は、その資金でダムにされる川に棲息する生命を考慮するだろうか? 先住民族の独自の文化を破滅から守るために、厳しい方針や基準、仕組みを適切に導入するのだろうか?

私は金や銀行を嫌っているわけではない。持続可能な開発を誓約したはずの多国籍銀行からの融資のおかげで、美しい河川や多くの村が長年にわたってカドミウム工場に汚染されるといった事態を知るのが嫌なのだ。環境についての知識が深いわけではないが、自然のしっぺ返しがあることは知っている。

BRICS開発銀行には、くれぐれも気をつけてほしい。世界が、その住民が、自然が注目しているのだ。

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翻訳:ユニカルインターナショナル

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BRICS開発銀行よ、気をつけて by ユー・チェン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs 3.0 Netherlands License.
Based on a work at http://www.thebrokeronline.eu/Blogs/Emerged-Powers/Be-careful-BRICS-Development-Bank/.

著者

ユー・チェン氏はアムステルダム大学で法学を専攻する博士号候補生で、オランダ中国法律センター(Netherlands China Law Centre)の研究員。専門は国際法、環境問題、持続可能なファイナンス、中国の環境法と政策、司法改革と紛争解決。