ジェニファー・オールソップは、国連大学政策研究センターの(非常勤)シニア・フェロー。ハーバード大学のイミグレーション・イニシアチブ・アット・ハーバードおよびハーバード大学教育大学院の国際移民学博士研究員。また、オックスフォード大学難民研究センターの助手でもあり、欧州議会人権委員会の正顧問も務める。
6月20日は世界難民の日 - コミュニティが団結して難民のレジリエンス(回復力)と受け入れコミュニティに対するその貢献を讃え、難民の窮状への連帯を表す、世界中での1週間の活動が最も盛り上がる日だ。国連の難民機関である国連高等弁務官事務所(UNHCR)は、2021年のキャンペーンのテーマを「インクリュージョン」とし、難民を含むすべての人が保健医療システムにアクセスできるように呼びかけた。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、1月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死者が200万人に達した際、「科学が成果を上げる一方で、連帯感が低下して貧困国に『ワクチンの空白地帯』を生み出しています」と述べた。
このコメントが出されたのと同時に、世界の避難民が8,000万人を超えるというもう1つの悲惨な節目を迎えた。そして、2016年の難民と移民に関するニューヨーク宣言や2018年の難民に関するグローバル・コンパクトといった近年の国際的な取り組みにもかかわらず、世界の国々は、避難した世界中の女性、男性、子どもが必要とする保護や彼らが望む機会を提供することに苦労し続けている。
このように多くの危機が重なって生じる状況に直面すると、連帯感の訴えには価値が限られてしまうことが明らかになっている。難民受け入れ国の間の連帯を強めることが繰り返し訴えられてきたが、長い間、より公正な責任分担の取り決めにつながることはなかった。さらに悪いことに、この漠然とした表現は、特定の文脈の中で人々の安全な移動を妨げる新たな障壁を築いてきた。パンデミック(世界的流行)の最中で失敗のコストが非常に大きい中、連帯感だけに訴えかけることは最も効果的な戦略でないかもしれない。ランセット誌が、パンデミック初期に「COVID-19の大流行の制御に成功するためには、全ての人が国内および国際的な対応に含まれなければならない」と指摘したように、ワクチンの公平性もまた啓発された自己利益の問題である。
2021年6月現在、国連が支援するCOVID-19ワクチン・グローバルアクセス・ファシリティ(COVAX)により配布されるワクチンは、予想より1億9,000万回分少なくなる見込みだ。このワクチン不足により、難民の人々は不釣り合いな影響を受ける。感染のリスクが高いキャンプに閉じ込められている上、衛生状態が劣悪で多くの人々は免疫系が低下しているという生活環境により、世界の難民の多くはウイルスに対して特に感染しやすくなっている。
新たな報告書では、パンデミックを理由に地中海とエーゲ海で難民を乗せた捜索救命ボートが入港できないように港を封鎖し、その結果として数千人の難民が非人道的で劣悪な状況に引き戻されたことが記載されている。
これらの人々の多くにとって、COVID-19のパンデミックは新たな形の苦難を招いた。世界保健機関(WHO)が実施した30,000人超の難民と移民に対する最新の調査には、難民キャンプがひどい過密状態であり、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)と衛生のガイダンスに従うことが不可能であるという証言が含まれていた。さらに、ロックダウン(都市封鎖)が家計に及ぼす壊滅的な影響、避難民の精神衛生状態の悪化、新たな形態の人種差別や性差別の発生が記載されている。ある回答者は次のようにコメントしている。「ここの状況は良くないです。キャンプは過密状態にあり、難民同士の間に身体的な距離などありません。皆が同じトイレと同じシャワーを使用しています。約2万人の難民が食糧配給を待つ列に並んでいます」
Life Facing Deportation(強制送還に直面する生活)プロジェクトで継続中の調査に、難民申請を却下されて米国からグアテマラとメキシコに送還された者に対するパンデミックの影響が記載されている。その調査から、送還された人々が高い確率でスティグマ(社会的な汚名)の対象となり、場合によっては、彼らがCOVID-19に感染しているかもしれないという恐れから地域社会への復帰を拒絶されるケースも明らかになった。ある若い男性は、送還後に襲撃されて棒で殴打されたことを報告している。いくつかの人権擁護団体は、パンデミック中に米国からエルサルバドル、ハイチ、グアテマラ、メキシコなどに送還された複数の人が陽性と判明した後、本国送還一時停止を求めた。国境を越えてウイルスを拡散させたり、送還者の復帰に敵対する状況を作り出したりしても誰の利益にもならない。その影響は、パンデミックが終息した後も、送還する側にとっても受け入れるコミュニティにとっても長く残る可能性がある。
その他の国々では、あらゆる種類の入国規制が下された。欧州では、地中海の移民に対する欧州連合(EU)の取り組みに関する欧州議会向けの新たな報告書に、パンデミックを理由に地中海とエーゲ海で難民を乗せた捜索救命ボートが入港できないように港を封鎖し、その結果として、ノン・ルフールマンの原則に反して数千人の難民が非人道的で劣悪な状況に引き戻されたことが記載されている。
無事に他国にたどり着くことができたとしても、難民がワクチン接種を受けられるかは不透明なままである。
COVID-19の感染拡大を防ぐために過去に例を見ない旅行や移動を制限した結果、今いる場所から必死に離れようとする難民や移民は脱出のためにさらに大きなリスクを負わなければならない。したがって、彼らは人身売買も含む虐待や搾取の大きなリスクにさらされる。近年、人身売買根絶ために巨額の資金が投資されていることを考えると、COVID-19への対応の結果として生まれた大胆かつ強化された人身売買のネットワークは、世界的な政策決定の失敗と膨大な資源の無駄の表れだろう。
無事に他国にたどり着くことができたとしても、難民がワクチン接種を受けられるかは不透明なままである。6月初め、国連人道問題調整事務所が運営するロヒンギャ作業部会の調整官は、難民に対する緊急の予防接種キャンペーンを予定していないと述べ、UNHCRは最近、ロヒンギャを含むアジア太平洋地域での難民向けワクチンの不足について警告を発した。難民キャンプと都心部の間の移動は、生活を維持するために必要だ。難民をずっと封じ込めて、罹患したりウイルスを蔓延させたりするのを防止しようというのは非現実的である。
UNHCRは、COVID-19の世界的な医療対応に難民とその他の避難民を含むように呼びかけている。この要請は、過去数十年にわたって難民保護に関する世界的な対話を形成してきたグローバルな正義、負担の分担、連帯の正当化に基づき、これを再現するものである。しかし、私たちにはこの危機に際して今までの議論を再検討し、意味のある変化をもたらす機会が与えられ、またそうする義務もある。難民の公正な医療へのアクセスを支持するのは急務であり、誰にとっても直ちに自身の利益になることである。無関心の代償はすべての国が直ちに払うことになる。世界難民の日、私たちは連帯に対するコミットメントを再確認する以上の何かを必要としている。国際社会の健康は不可分であり、難民の健康は世界中の一人ひとりの健康に影響を及ぼすと強調する必要がある。
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この記事は、最初に国連大学政策研究センター(UNU-CPR)に掲載されました。