「資源の呪い」を越えて

一般的に、コモディティを輸出している低・中所得国の工業開発が遅れているのは、自然資源開発の直接的な結果だと考えられている。

この、いわゆる「資源の呪い」には、さまざまな理由が挙げられている。その1つは、これらの国々は「オランダ病」に苛まれているというものだ。オランダ病とは、資源輸出で多額の対外黒字を上げる一方、為替レートが上昇し、製造業などの貿易財部門が衰退する状態を指す。そのうえ、工業製品に比して、コモディティの交易条件は長期的に低下を続けており、価格の変動幅も大きい。これでは、工業開発を推進するのに必要な、安定的で持続可能な余剰は生まれないというわけである。

そのほかの議論としては、コモディティの生産部門は性質的に「エンクレーブ(飛び地)」だというものもある。他業界との経済的な結びつきが低いため、結果的に、産業全体への波及効果がもたらされることがめったにないというのだ。

しかし、こういった従来の概念は考え直さなければならない。コモディティへの依存度と成長率の相対的な低さの間には関係があるかもしれないが、その関係性は低い。また、関係があるとしても、それは因果関係というより、コモディティ依存度の高い国における既存の脆弱な産業構造や不適切な政策が問題であることが少なくない。

高所得国の歴史を振り返ると、コモディティ部門との結びつき(リンケージ)の強化が、工業能力の構築の一端を担っている。それだけではなく、このように形成された工業能力はコモディティ部門に還元され、コモディティ部門を再び強化し、コストを抑制するのに貢献している。

実際、高所得国(米国、カナダ、スウェーデン、オーストラリアなど)の歴史を振り返ると、コモディティ部門との結びつき(リンケージ)の強化が、工業能力の構築の一端を担っている。それだけではなく、このように形成された工業能力はコモディティ部門に還元され、コモディティ部門を再び強化し、コストを抑制するのに貢献している。

過去がどのようなものであったにせよ、この数十年においては、低・中所得のコモディティ輸出国の工業開発には新しいアプローチで臨むべきだということを示す変化が3つある。

1つ目は、過去において産業発展を実現してきた政策の多くが、もはや効果的でないことだ。国内志向の工業開発は、国内産業を保護する能力の低下、輸入品との競合の激化により、魅力が低下している。

だが、輸出志向の工業開発もまた、新興国との競合の激化により、可能性は同様に限られている。

2つ目は、これまでになく長く続いている目下のコモディティ価格の高騰が、今後も数年は続くと思われることだ。世界的に製造業の競合が継続し、激化していることすらあることも相まって、工業製品に比して歴史的に低下していたコモディティの交易条件は低下が止まり、自然資源の輸出による対外黒字は維持されるだろう。

世界的なバリューチェーンの発達により、企業の方針に変化が見られることだ。大手コモディティ企業はアウトソーシングだけでなく、生産に必要なインプットの多くを近隣で調達することに強い関心を抱いている。

3つ目は、世界的なバリューチェーンの発達により、企業の方針に変化が見られることだ。大手コモディティ企業はアウトソーシングだけでなく、生産に必要なインプットの多くを近隣で調達することに強い関心を抱いている。これはすなわち、過去の活動を特徴づけていたエンクレーブ精神を真っ向から否定する企業戦略が、今では計画に含められているということだ。

コモディティ輸出国がこれらの変化をどう活用していけるかという点については、生産におけるリンケージの可能性に注目すべきだろう。そうしたリンケージには、後方でのインプット供給と、前方でのコモディティ加工がある。

工業部門とコモディティ部門の生産リンケージを拡大すれば、その成果は極めて大きなものとなる。理由は数多く挙げられるが、その1つは、大手コモディティ企業がアウトソーシングの拡大を考えていることだ。他には、コモディティ生産が周辺事情(個々の鉱床を取り巻く気候や地形など)に否応なしに左右されるという理由もある。必然的にコモディティ生産には、それぞれの事情に応じたインプットが必要となるが、多くの場合、このことが地域の特徴を活かした工業(それに加えて農業およびサービス)能力の促進につながるのだ。

大手企業がアウトソーシングによって進めるリンケージの拡充は、市場原理から自然発生的に生じていることが多い。政府の政策が効果的であれば、これらのリンケージを加速、深化させることができる。対照的に、効果的でない政府の政策は、これらのリンケージを遅らせ、弱める結果をもたらす。
以下に挙げる多くの理由により、各国政府は、これらのリンケージの性質と速度を最適化するうえで重要な役割を担っている。

本記事は国連工業開発機関の政策・統計・研究部門のために作成されたワーキングペーパー、Commodities for Industrial Development: Making Linkages Work(工業開発のためのコモディティ:リンケージを機能させる)の要約です。

翻訳:ユニカルインターナショナル

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「資源の呪い」を越えて by ラファエル カプリンスキー is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.
Based on a work at http://www.unido.org/fileadmin/media/documents/pdf/Publications/110905/WP012011_Ebook.pdf.

著者

ラファエル・カプリンスキー教授は英国オープン・ユニバーシティの数学・計算機科学部で、国際開発学を教えている。