国連安保理を超えて:総会は気候安全保障の課題に対応できるか

カナダで猛威を振るう森林火災は、気候変動が既に私たち全員の暮らしに影響を及ぼしていることを改めて思い起こさせる。ニューヨークの国連本部ビルの周囲から煙が消えていく中、気候変動がもたらす安全保障上のリスクに対する取り組みを国連安全保障理事会に求める動きが改めて出てくることが予想される。アントニオ・グテーレス国連事務総長が近く発表するポリシーブリーフ「新しい平和への課題」も、このことを訴えるだろう。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による最近の報告書では、増え続ける科学的エビデンスを背景に、気候変動が暴力的紛争のリスクを高める重要な要因であるという、避けがたい結論に達している。

実際に最近、ある専門家グループは、気候変動と不安定さとのつながりを疑う原因として、「科学の現状の読み違え」以外にあり得ないと指摘している。

エビデンスが存在するにもかかわらず、そして、安全保障理事会は既に気候に関連する安全保障上のリスクに関して70以上もの決議や声明を可決しているにもかかわらず、気候変動を安全保障理事会の議題の常設項目とする努力は、これまで失敗に終わっている。

常任理事国と非常任理事国の中には、安全保障理事会のマンデートの対象範囲を、気候変動を含めたすべての「平和と安全保障に対する脅威」に拡大することに賛成している国もあるが、その他の国、特に中国とロシアは、安全保障理事会の役割を、平和維持活動の展開、制裁措置、軍事力行使の承認、そして特別法廷の設置に限定したままとすることを望んでいる。

こうした仕組みは、世界中の各社会が直面している数多くの気候関連の安全保障課題に対処するのに、十分とは言えない。

安全保障理事会は、その決議において各国ごとの気候と安全保障のつながりをいくらかは認識しながらも(例えば、気候に起因する武装グループへの勧誘に言及するなど)、気候危機のより広範な安全保障上の影響には取り組まないという、漸進的なアプローチを今後も続けていく可能性が高い。

このような限定的な範囲だけでも、既に安全保障理事会のアジェンダに含まれる紛争状況において、気候関連の安全保障問題に現実的に対処できる可能性はある。しかしながら、安全保障理事会の議場外、特に国連総会を通じて、より広範な気候安全保障問題について国連システム内で更に多くの成果を上げられるかを問うべき時が来ている。

安全保障理事会が行き詰まった時に総会が行動したという例は、数多くある。1950年の国連総会決議377、いわゆる「平和のための結集」決議は、平和と安全に対する脅威が生じた際に、総会はそれについての緊急特別会期を招集できるとしている。

この決議は25年間使用されていなかったが、2022年のロシアによるウクライナ侵攻に関連し、同年の2月に発動されている。さらに国連総会には、人権侵害に関連した安全保障上の問題に対して広範な措置を採用してきた驚くほど多くの事例がある。

ここで、気候安全保障問題に対処する上で、総会がより大きな役割を果たすべき理由についていくつか検討してみたい。

より包摂的な討論の場

安全保障理事会が気候安全保障に関する役割を担うこと(そして一般的により広範な役割を担うこと)に対する異議の1つは、安全保障理事会が包摂的な、もしくは有意義な形で代表された機関ではないということである。選出される非常任理事国の10カ国は、課題を具体的に進展させる期間として2年しか与えられず、それを過ぎれば理事国の任期が終わってしまう。

このように、安全保障理事会の常任理事国5カ国を除く国連の188の加盟国は、ほとんどの期間において、理事会のアジェンダにおける発言権を持たない。すべての加盟国が参加する総会の方が、間違いなく、気候変動やそれに伴う安全保障上のリスクといった世界的課題への対応を協議する上で、より代表性のある討論の場である。

科学へのアクセス向上

気候変動やその影響に関する科学的なナレッジベースは、急速に発展している。適切かつ適時の多国間での対応を策定するため、加盟国は最新のエビデンスに常時アクセスできる必要があり、ここにおいても、総会は重要な貢献ができる。

安全保障理事会は、理論上では、科学者や専門家を招いて気候関連の安全保障リスクについての説明を求めることができるが、実際にはほとんどそうしてこなかった。この状況は、気候安全保障メカニズムと気候安全保障に関する非公式専門家グループのおかげで、過去5年間でかなり改善してはいる。

また、気候安全保障の議論を拡大させ、より多くのエビデンスを紹介していこうとする平和構築委員会の取り組みは、これまでのところ、部分的にしか成功していない。

総会は、最新の気候科学と政治学を取り入れるための、よりオープンで場合によってはより活動的な一連のプロセスを有しており、気候変動による人間の安全保障に対する多くの影響を最も深刻に感じられる開発、人道、人権の各分野にわたってエビデンスを検討することができる。

さらに、総会の包摂的な形態によって、最も大きな影響を受けている地域からもたらされるエビデンスの視認性を向上させることが可能となる。

新たな刺激を

最後に、総会は安全保障理事会と比べ、より広範囲において国連システム全体で統合的な行動を促せるかもしれない。これは、総会が備えている確かな利点である。なぜなら、気候関連の安全保障リスクが複雑かつ動的な形で形成され、それらのリスクに対する持続的な解決策には部門をまたぐ協調的な対応が必要だからである。

さらに、総会において気候関連の安全保障リスクに取り組むことで、国連の気候変動関連会議だけでなく国際金融機関にも新たな刺激を与えることができる。

総会は、気候安全保障の課題にどう取り組めるのか

総会には、多くの欠点もある。議論の分かれる問題については、かなり歯切れの悪い声明を出す傾向にあり、今の時代の最も差し迫った問題に関し、対策を策定できずにいる。

とはいえ、気候および平和と安全保障について総会を活性化させるために一丸となって取り組むことができれば、潜在的には安全保障理事会内も含め、国連システム全体にわたってより広範な影響をもたらし得る。総会がその活動を活性化する方法を検討するにあたり、私たちは、その入り口となり得る4つの方法を提案する。

1. 気候安全保障の課題を議題に入れる。2021年、安全保障理事会でアイルランドとニジェールが気候と安全保障に関する決議案を可決させようとした際に、理事会の枠を超えて113の国連加盟国がこれを共同提案したことは、注目に値する。これは、気候関連の安全保障問題に対する多国間レベルでの取り組みへの支持が広がっていることを示している。9月に始まる次期総会において、デニス・フランシス新総会議長は、この支持をさらに拡大させる重要な役割を果たせるだろう。9月に気候および平和と安全保障についてオープンな議論を行い、ハイレベルイベントの機会を提供することで、加盟国の見解を統一することができるはずだ。そして、未来のサミットの共同進行役に対して、同会議に気候および平和と安全保障を含めるよう働きかけることで、この問題に対する加盟国の注目を維持する助けにもなるだろう。

2. クリーンで健康、かつ持続可能な環境に対する新しい権利を土台とする。クリーンで健康、かつ持続可能な環境に対する人権を規定した2022年の画期的な総会決議(国連総会決議A/76/L.75)は、気候関連の安全保障問題に対する重要な開始地点を提示している。人権侵害と暴力的紛争の間にある強力なつながりを裏付ける証拠は十分に存在するため、この問題に対処するにあたり国連人権理事会も重要な役割を担う余地が生まれている。総会が環境に対する人権を認めたことによって、その侵害がいかに暴力のリスクにつながり得るのかがより大きく注目されるはずである。また、総会の承認は、クリーンな環境に対する権利侵害を調査する、総会が安全保障理事会に対し気候を常設議題に加えるよう要求する、など、目標を絞った行動をとるための素地となり得る。

3. エビデンスを強化する。総会は、必要と考える問題について調査委員会や事実調査団を設置することができる。これまで総会は、人権や人道法に対する重大な侵害に対処するためにそうした機関を設置する傾向にあったが、気候変動がもたらす安全保障上のリスクに関しても事実調査を求められない理由はない。実際に、そのような委員会を設置するためのプロセスを進めるだけでも、この問題を強調する手助けとなり、安全保障理事会に対して圧力もかけられるだろう。

4. 他機関に権限を与え、資金調達を可能にする。総会は、多国間システムにおいて他機関のマンデートを設定する上で、極めて強力な役割を担っている。例えば、総会は平和構築委員会の作業を監督しており、気候関連のリスクをより明確に包摂させるよう、同委員会のマンデート拡大を検討することができる。また総会は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に対して、気候および平和と安全保障の問題に特化した作業グループを設けるよう働きかけることもできる。さらに、総会の第5委員会(行政と予算に関する委員会)は、平和維持活動およびそれを超える範囲での気候および平和と安全保障に特化した資金強化を促進することができる。

究極的には、総会は気候関連の安全保障リスクに関する多国間行動を前進させる唯一の議論の場とはなり得ない。しかし、総会内でのより大規模な活動によってシステム全体への波及効果をもたらすことは可能であり、他の分野での行動を促進し、さらにはこの問題により直接的に取り組むよう安全保障理事会に圧力をかけられるだろう。

・・・

この記事は最初にInter Press Service Newsに掲載され、同社の許可を得て転載しています。Inter Press Service Newsウェブサイトに掲載された記事はこちらからご覧ください。

著者

アダム・デイは、国連大学政策研究センター(UNU-CPR)のプログラム・ディレクターとして、進行中の研究プロジェクトおよび新しいプログラムの開発を監督しています。

国連大学で職務に従事する以前は、10年間にわたり国連にて、平和活動、紛争問題への政治関与、仲介、民間人の保護などを中心に活動していました。国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(コンゴ共和国)、国連レバノン特別調整官事務所、そして国連南スーダンミッション(UNMIS、ハルツーム)と国連アフリカ連合ダフール合同ミッション(UNAMID、ダフール)の各本部において政治アドバイザーを務め、国連本部(ニューヨーク)の政治局および平和維持活動局において政務官を歴任。

また、カンボジアのオープン・ソサエティー・ジャスティス・イニシアティブやヒューマン・ライツ・ウォッチのジャスティス・プログラムなど、市民団体での活動にも従事しました。