黒人の大学教員が直面する組織的・潜在的偏見

「ブラック・ライブズ・マター」運動をきっかけに、国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)のアフリカ出身の若手ソートリーダーたちによって開始された「Black Voices Matter(黒人の声は大事だ)」シリーズです。活発な議論やその他の非暴力的アプローチを重視し、人種差別との闘いにおける実体的でアクセスしやすいプラットフォームの提供を目指しています。

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ある問題が、ブラック・ライブズ・マター運動ではほとんど取り上げられていない。それは黒人の大学教員が直面する、キャリアの問題である。この点に関して、驚くべきデータが英国、米国、南アフリカの教員と学生から得られている。米国では2018年、 学位授与権を持つ高等教育機関において、大学教員全体に占める白人の男性と女性の割合はそれぞれ40パーセントと35パーセントであったが、黒人の男性と女性の場合はどちらもたったの3パーセントであった。英国では状況はさらに深刻で、2万1,000人を超える大学教員のうち、白人が全体の85パーセントを占めるのに対し、黒人はわずか0.7パーセントに過ぎない。こうした状況は、黒人の間で大学教員職に対する関心が低いから起こるのだろうか。それとも蔓延している偏見が原因で機会が欠如しているのだろうか。黒人が学問の世界に入ったら、他の同僚たちと同じ土俵に立つ権利を与えられるべきでないのだろうか。

学術界で活躍する黒人が、所属する教育機関だけでなく学生からも偏見を受けていることを示すエビデンスが明らかになりつつある。南アフリカで行われたある調査で指摘されたように、学生による授業評価(SETs)の偏りが特定の講師のキャリアアップを妨げ、マイノリティグループを惹きつけ、人材確保しようとする組織的努力を妨げている可能性がある。無作為化比較試験を用いたこの調査では、黒人講師は、とりわけ(そして皮肉にも)黒人学生から、白人講師よりも低く評価されていることが明らかになった。

この種の偏見は学生だけでなく、マイノリティではない同僚教員の間にも存在する。また、偏見の影響により、黒人学生は大学の講師や教授を目指そうという意欲を失ってしまう傾向がある。別の調査によると、科学・技術・工学・数学(STEM)を専攻した人種的マイノリティの学生は、人種が理由で排除され、無視され、孤立していると感じた場合、学業を継続しなくなりがちだ。米国のある大規模公立大学で人種的マイノリティの学生4,800人以上から収集したデータを用いた調査によると、STEM専攻の黒人学生は、他の人種的マイノリティの学生よりも人種差別的なマイクロアグレッションを経験する割合が高いことも明らかになった。さらにこの調査によると、マイノリティに偏見を持つ風潮は、組織文化に組み込まれていることが多いという。

微妙な偏見にも意識を向けることで、意味のある変化をもたらし、権力者に意思決定プロセスの変更を促すことができる。

前述のエビデンスを裏付ける別の調査から、黒人とラテン系の学生がSTEM専攻をやめる割合は、(すべての人種の学生がほぼ等しい割合でSTEMを専攻するにもかかわらず)白人学生の 2倍近くに上ることが判明している。学術界に歓迎されていないという黒人の認識と、絶えず自己の能力を示さなければならない苦労は、とりわけそうした認識が仲間から無視されたり軽視される時に、心身の疲弊をもたらす恐れがある。こうした傾向もまた、黒人が大学での職に応募する意欲を挫き、たとえ教員になったとしてもその職を維持することの妨げになってしまう。

組織レベルでは何が行われているのか?

ブラック・ライブズ・マター運動が、世界中で黒人への差別に対する認識を高めたのは間違いない。しかし、学術界にはまだ、これまで以上の取り組みが必要である。たとえば、多くの人は学術界の黒人の同僚に対する自身の偏見に気づいてすらいないかもしれない。こうしたことを背景に、潜在的差別とは、人々があるグループを特定の性質(たとえばある偏見)に結び付ける場合である。この問題への対処法には、スポーツ界やメディアを参考にできる。プロバスケットボールの審判に関する調査は、「微妙な偏見にも意識を向けることで、意味のある変化をもたらし」、権力者に意思決定プロセスの変更を促すことができることが明らかになった。

学術機関は同様の手順を利用して、教員や学生の潜在的差別を明らかにし、認識を高めることができる。例えば、年度始めに教員と学生を対象とした研修プログラムを実施できる。それでも、学術機関(およびその経営陣)はどのくらい積極的に真の変化をもたらそうとしているのか、という問題が残る。マイノリティが直面する偏見をすべて取り除くことはできないかもしれないが、建設的な変化、そして最終的にはシステム全体の「マインドシフト」を実現するために努力をすることはできる。

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この記事は、最初に国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)に掲載されました。

 

著者

ラッキー・バルデは、国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)の博士課程に在籍しているリサーチフェローである。セネガルのガストン・ベルジェ大学で応用経済学の修士号を取得している。