デジタル化は私たちを救ってくれるのか

2019年05月28日 ディルク・メスナー, イーナ・シーファーデッカー ワイゼンバウム・ネットワーク社会研究所

気候変動や格差の拡大、社会的な団結の弱まりなど、地球規模の課題が社会を揺るがし人類を脅かしている。

グローバルな協力を推進する必要があるが、アントニオ・グテーレス国連事務総長も批判しているとおり、世界では秩序の混乱とナショナリズムの台頭が起きている。

こうした危機的状況の中、技術変革とデジタル化の加速が進んでいるが、デジタル化がいかにして世界で最も喫緊の課題を解決するのに役立つのかという重要な問題に対しては、本気で関心を向けている者はいない。

人工知能(AI)や意思決定の自動化、仮想空間は世界を根底から変え、デジタル化は持続可能性に根本的な影響を及ぼすことになるだろう。

それでも、国際社会が2015年に採択した17の持続可能な開発目標(SDGs)は、デジタル化にほとんど言及していない。

研究の分野では、持続可能性の研究者や実務者は、デジタル化による激変をほとんど無視してきた。一方でデジタル化のパイオニアたちは、最も喫緊の地球規模の問題にほとんど関心を示してこなかった。この現状を変えなくてはならない。

デジタル化によって私たちの持続可能性を高めるためには、このプロセスを政治的に規定していくことが急務となっている。現在まで、デジタル化は既存の成長パターンを牽引してきたが、まさにこのパターンが地球温暖化と大規模な環境破壊を加速してきたからだ。

ドイツ連邦政府地球気候変動諮問委員会(WBGU)報告書で私たちが持続可能性の機会を特定したように、「私たちには夢がある」というシナリオを描きながらグローバルな開発の観点から、問題を前向きに考えてみよう。

私たちがデジタル化の可能性を全面的に活用し、社会が抱える最も喫緊な課題に取り組んだら、どうなるだろうか。

開発途上国では、技術進歩によって、すべての人が教育や図書館、一流大学の講義にデジタルでアクセスできるようになるだろう。

ユニバーサル・ヘルスケアの実現という観点から見ても、ソーシャル・コミュニケーション技術と仮想空間によって、農村部や低所得地域の人びとは医療や医師にアクセスできるようになるだろう。

全世界で、AIを用いることで教育制度や知識システムが現代化されるだろう。デジタルツールは循環経済の創造に役立ち、温室効果ガス排出量を大幅に削減し、再生可能エネルギーを促進するとともに、生態系の監視と保護に役立つことになるだろう。

仮想空間は全世界の人びとによるコミュニケーションと共同学習を可能にし、世界的な協力の文化を育てることになるだろう。世界の問題の解決に役立つグローバルな意識が生まれる可能性もある。

つまり私たちの夢とは、より良い世界を実現していくために、強力なデジタルツールを活用することなのである。では何がこの夢の実現を妨げているのか。現実は、グローバル・サウスとグローバル・ノースの政府や国際開発銀行に、この潜在力を動員する用意がまだないということだ。

デジタルの現状は、私たちの「持続可能なデジタル化の理想的なシナリオ」とかけ離れている。多くの国では、デジタル化が持続可能な経済への移行に貢献するどころか、資源と排出物に頼った成長の原動力となっているからだ。

今こそ、公益と持続可能性への転換に向けて、デジタル化のかたちを変えなければならない。

そのため私たちは、あらゆるレベルでデジタル能力への投資を呼びかけるとともに、大きな影響を与えたリオの地球サミットから30周年にあたる2022年に、「デジタル時代における持続可能性への転換」に関する国連サミットを開催するよう提言する。

このようなサミットの主な成果として、デジタル時代を持続可能なかたちに変えるための根本的な議題と政治的な出発点を明確にした憲章を採択すべきだと考えている。

WBGUはその準備段階として、1983年に設置された国連「環境と開発に関する世界委員会」をモデルとする「デジタル時代における持続可能性に関する世界委員会」の設置を提言する。

環境と開発に関する世界委員会が1987年に発表した報告書「地球の未来を守るために」は、後に持続可能な開発に向けた国連の「アジェンダ21」行動計画と「環境と開発に関するリオ宣言」の27の原則に盛り込まれることになる、多くの要素の枠組みとなった。

それから30年以上が過ぎた今、私たちは国際社会に「地球の未来を守るために」に関する理解を「デジタルで地球の未来を守るために」へと広げるよう要請する。私たちはデジタル化が、やがて100億人に達する地球の住人にとって、より持続可能で公正かつ豊かな世界をつくるための鍵を握ると確信しているからだ。

 

 

この記事は、最初にSciDev.Netに掲載されました。

 

著者

イーナ・シーファーデッカー

ワイゼンバウム・ネットワーク社会研究所

イーナ・シーファーデッカー氏は、ドイツ連邦政府地球気候変動諮問委員会のメンバーで、フラウンホーファーオープン通信システム研究所(FOKUS)とワイゼンバウム・ネットワーク社会研究所の共同所長も務める。