中央アフリカ共和国(CAR)の危機は、何千人もの命を奪い、100万人を強制的に退去させている。2013年後半から、状況は次第に悪化し、暴力が常態化した。しかし最近起きた多くの流血事件は本質的に、中央アフリカ共和国内戦の延長線上の出来事である。この内戦は2003年、地方勢力が フランソワ・ボジゼを支援し当時のアンジュ・フェリックス・パタセ大統領を失脚させた時から始まった。より根本的なレベルで言えば、この内戦は略奪的なフランスの植民地主義という長く 苦しい歴史と、フランスと同等に略奪的な、独立以降の排他的な一連の政治体制がもたらした結果でもある。
1960年8月13日、CARは独立すると、約10年周期で大統領が交代する時代に突入した。歴代大統領はダヴィド・ダッコ(1960~1969年)、ジャン=ベデル・ボカサ(1969~1979年)、アンドレ・コリンバ(1981~1993年)、そしてパタセ大統領(1993~2003年)である。いずれの大統領も国を掌握すると、民族的排他主義、不当利得行為、縁故者の優遇というシステムを築き上げた。
最後の正当な大統領であったボジゼ(2003~2013年)も、前任者らと変わらなかった。2013年3月24日にボジゼ大統領を失脚させた反政府勢力セレカは、ボジゼ政権の北部イスラム教徒社会に対する特異的な軽視と開発不足、および権力分担の取り決め不履行への反応として誕生した。
2013年3月のボジゼ大統領の失脚後、セレカ(CARの主要言語であるサンゴ語で「団結」を意味する)は、国中の地域社会で惨殺と略奪と強奪を行った。その行為が最も顕著だったのは、首都バンギ周辺地域である。こうした行為は、キリスト教系民兵組織であるアンチ・バラカ(「反なた」という意味)による報復的暴力行為を引き起こし、瞬く間に宗教紛争と化した暴力の連鎖につながった。その結果、2013年12月までにCARは「大量虐殺の瀬戸際」に追いやられた。しかし、CARでの紛争は基本的に 宗教的争議ではない。また、それを宗教紛争として評することは、複雑な紛争の数多くの根源を否認することだ。
2013年末、国連、アフリカ連合(AU)、欧州連合(フランス主導)はついに政治的意志を喚起し、危機に対して真剣に取り組み始めた。この段階までに、宗教的浄化は本格的に始まっており、イスラム教徒は街でリンチされ、家を追い出されて北部に追いやられた。
危機への対応は、アフリカ連合の主導による中央アフリカ国際支援ミッション(MISCA)の成立、およびフランス軍によるサンガリ作戦の展開によって勢いを増した。どちらの活動も、国連安全保障理事会のマンデートを付与されている。また国連はCARで長年活動してきた経緯があり、現在は特別政治ミッション、すなわち国連中央アフリカ共和国統合平和構築事務所(BINUCA)を配置している。残念なことに、BINUCAは先を見通すことが全くできなかったため、迫り来る危機に対応できなかった。このことはBINUCAだけに見られる問題ではない。
暴力の連鎖、大量犯罪、大規模な強制退去という特徴を持つ人道的危機のさなか、真の政治戦略を欠いた平和活動の寄せ集めが、何とか状況を改善しようと活動している。しかし、多くの踏み誤りがあったように思われる。例えば、セレカ兵士の早計な武装解除は、その敵対勢力であるアンチ・バラカの勢いを増強させる結果となった。
元バンギ市長のカトリーヌ・サンバパンザ氏率いる暫定政府の樹立に伴い、暫定政府の強化をめぐる戦略の作成が期待される。
就任以来、新暫定大統領はMISCAを国連平和維持活動に転換したい意向を明確に示してきた。そうしたミッションは以前から構想されていたが、論争の主な争点はコストである。新ミッションには恐らく5億USドル以上の年間コストが掛かる。藩基文(パン・ギムン)国連事務総長の新しい 報告では、CARへの国連ミッションの配置が要請されている。実現すれば、現行の国連政治ミッション(BINUCA)とAUのミッション(MISCA)の両方に取って代わることになる。
では、この新しいミッションはどうあるべきだろうか?
戦略的:マンデートは戦略的でなければならない。言い換えるなら、マンデートは政治的終局を定義しなければならない。このマンデートを通して、安全保障理事会はバランスのよい戦略的な政治的指示を出すべきだ。こうした目的を果たすためには、CAR支援のための国際努力を導く首尾一貫した戦略を最優先課題とすべきである。私が 以前の記事で提案したように、新しいミッションの任務は限定すべきだ。限定されたマンデートは、最も高い優先事項、つまり安全保障と政治的協定の確立を重点的に指示すべきだ。
政治的協定:このミッションは、基盤となる和平合意がないまま活動することになる。そのため、暫定政府が国内の政治的協定を作成できるように支援しなければならない。すなわち、トップダウン型のアプローチだ。歴代の大統領たちは権力を独占し、戦利品を自分たちの顧客(時の大統領と同じ民族グループの人々)の中で分配し、治安部隊を弱体化させていた(クーデターを恐れたためだ)。パタセ大統領は政権の座にあった時(1993~2003年)、論争を呼ぶ政治手段を導入した。国を「サバンナの人々と川の人々」の間で分割しようとする政治手段である。包摂的な政治的協定は、国家支配の連鎖を絶ち、現在も続く不安定な状況の根本的原因を解決しようとしなければならない。また協定は、 国の事実上の分断に対応する必要がある。南西部のキリスト教徒社会と北東部のイスラム教徒の間で永遠に国が分断しかねない状況である。
地域社会のレベル:同時に、ミッションは地方分権化を進めるべきである。これはボトムアップ型のアプローチだ。暴力の連鎖を絶ち、地域レベルでの和解の可能性を切り開くために、地域社会を中心とした、現場に寄り添った手法を利用すれば、非暴力的な社会規範の伝承者たちに権限を与えられるだろう。宗教間での対話を強化することも必要である。
安全保障:バンギやその他の地域で早急に治安の不在を埋め、無法状態に取り組むために、安全保障活動の拡大は必要である。従って、大規模な警察の派遣(事務総長の報告では1820人の警官の配備が提案されている)の他、新しい治安部隊を活性化するために強力な治安部門改革の実行が求められる。過去には、本稿ですでに触れたように、軍は大統領の権力を強固にするために利用され、クーデターへの保険対策として意図的に弱体化された。従って国連ミッションは治安部隊の再編成を支援する必要がある。
武装解除:ミッションの安全保障対策は、武装グループの協調的な相互武装解除を主要要素とすべきである。武装グループは現在、バンギの街中や地方の中心地、村、広々とした大草原にも漂泊している。武装解除の実施は極めて局地的に行うべきだ。アンチ・バラカとセレカという大きな括りで対応すると、地域的なグループの違いを見過ごすことになる。
軍の構成:新しいミッションは確実に、文民の保護(PoC)の活動条項に沿って権限を付与されるだろう。経験則として、PoCマンデートを付与されたほとんどの新ミッションは、1万以上の兵力を持つ。国連事務総長は報告の中で、今回の新ミッションは1万の兵力を有し、文民の保護を中心とした骨太なマンデートの下で活動することを示唆している。しかし、ミッションが効果を発揮するためには、有力な指揮官、十分な軍の動員力、優れた情報収集力で兵力を後援しなくてはならない。現行のAU軍であるMISCAの兵力は6000であり、一方EUはサンガリ作戦下で活動中の2000人のフランス軍を支援するために1000人の部隊を追加派遣する予定だ。国連は早急な配備のためにさらに4000人の部隊を徴集する予定だ。南スーダンでの国連ミッションが最近拡大したことを受け、国連の兵力増強プロセスへの圧力が高まっている。すでに言及したように、EU軍(EUFOR RCA、中央アフリカにおけるEUの軍事ミッション)もその一端を担っており、強奪者を阻止するために必要な武器に加えて、大いに必要とされる戦力を提供する予定だ。同じ環境で2つの軍事機構を活動させることは、典型的な禁止事項である。そのため、こうした組み合わせを成功させるためには、両ミッションは一心同体で行われなければならない。
地域的:また、紛争の地域的次元を念頭に入れておかねばならない。地域的次元による紛争の評価は、政治的協定の一環として歓迎されなければならず、チャド、コンゴ民主共和国(DRC)、スーダン、南スーダン、カメルーンを含むべきである。現段階で、チャドは危機解決の試みの中で主要な役割を担っているようだ。チャドを関与させることは、CAR、とりわけ北東部の安定にとって重要である。
リーダーシップ:BINUCA担当の事務総長特別代表(SRSG)は、ババカル・ゲイ氏(セネガル)である。ゲイ氏はセネガルの退役中将で、元国連軍事顧問であり、国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUC)の司令官だった。現段階では、ゲイ氏が引き続き国連のSRSGを務めるかどうかは不明だ。
マリ、南スーダン、DRCで国連の活動が拡大する時期にあって、CARでの新たな国連ミッションの展開は既成概念の枠を越えるだろう。
優勢に活動を進めるには、CARでの新たな国連ミッションは治安の不在を急速に埋めることによって、その存在を早急に(配備後12週以内で)示さなければならない。また、その後は、CARの政治文化の病弊に取り組むための政治的協定を作成する国のリーダーたちの支援に着手しなければならない。
簡単に済みそうな任務ではない。しかし国連が楽な任務を与えられることはめったにないのだ。
翻訳:髙﨑文子
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