人々を中心に据えた中国の都市化計画

過去30年間に、中国の経済的好景気が5億人を貧困から救い出し、急速な都市化によって雇用と安価な土地と優れたインフラストラクチャーが生まれた。にもかかわらず、都市化にはよく見られることだが、中国では非効率的な土地開発の兆候と、それに伴う都市のスプロール化やゴーストタウンの出現が生じている。それに加えて、現在も続く深刻な汚染が人々の健康を脅かし、農地と水資源は減少しつつある。

中国の都市人口は2030年までに約10億人に増加すると予測されており、中国の指導者たちは秩序だった都市化のプロセスを模索してきた。そのため、1年以上前、世界銀行グループ総裁としてジム・ヨン・キム氏が中国を初めて訪れた際に、キム氏と中国の李克強首相は都市化に関する 調査の実施に合意した

世界銀行と中国国務院発展研究センターによる 共同報告書が昨日、International Conference on Urban China: Toward Efficient, Inclusive and Sustainable Urbanization(中国都市部に関する国際会議:効率的、包摂的、持続可能な都市化に向けて)において発表された。現在、中国は10年前より2億人多い都市居住者を抱えており、政府は環境関連法の施行を強化し、汚染に関連した健康問題の数を減少させる必要があると、同報告書は提言している。さらに報告書は、中国がより効率のよい人口の密集した都市を築けば、総額で1兆4000億USドル(昨年の国内総生産の15%)を節約でき、その節約分を、移住者を含むすべての人々への社会的サービスの拡張に費やすべきだとしている。

「極度の貧困を撲滅する上で、中国は世界のどの国よりも大進歩を遂げました。都市に移住する何億もの居住者の生活を改善することで、中国はさらなる進歩を遂げる可能性があります」と世界銀行グループのスリ・ムリヤニ・インドラワティ専務理事は語った。

興味深いことに、報告書によって世界銀行は「リアルタイムで」助言を提供することができた。14カ月にわたって準備されてきた暫定報告書は、「中国の政策決定者の上層部との継続的な関係の中で、政府が都市化に関する政策議論を行う材料として」共有されたことを、世界銀行はプレスリリースで明らかにした。報告書の発表は、先週の中国国務院および共産党中央委員会による『National New-Type Urbanization Plan (2014-2020)(2014年~2020年都市化の新たな国家計画)』の発表に続くものだった。この都市化計画は、都市部に住む中国人の割合が2020年までに現在の53.7%から60%に増加すると予測している。このため、今後7年間に約42兆元(6兆8000億USドル)もの多額の投資が必要となり、その大半は民間部門からの投資になるだろうと、財政部副部長の王保安氏は語った

「都市建築が主に土地の売り上げと税収に依存していた先行モデルの欠陥が近年明らかになり、また、そのモデルは持続可能ではありません」と王氏は説明した。

改革案

「報告書が提示する改革案を実施すれば、農家の収入は土地売却によって増え、移住者にはより多くのサービスが提供され、地方政府による責任ある融資が促進されます。また、よりグリーンな都市計画と強化された環境管理により、誰もが安心して空気を吸えるようになります」と、世界銀行グループのキム総裁は語った。「中国は地方レベルでの試験的施策において大きな進歩をすでに遂げており、その施策を大規模な範囲に拡大することが可能です」

「制度や組織の革新を基盤として、人々を都市化の中心に据えること、そして改革を通して都市化が発展に貢献し得る潜在力を解き放つことが必要です」と中国財政部部長の楼継偉氏は述べた。

「都市化は中国の持続可能かつ健全な経済成長にとって強力な原動力です」と中国財政部部長の楼継偉氏は述べた。「制度や組織の革新を基盤として、人々を都市化の中心に据えること、そして改革を通して都市化が発展に貢献し得る潜在力を解き放つことが必要です。投資や融資メカニズムだけではなく財政と税制の改革を加速させ、官民パートナーシップ(PPP)モデルの導入を促進し、多様で持続可能な都市の金融メカニズムを構築しなければなりません。人々を中心とした都市化の目標を達成するためには、農村からの移住者が享受できる基本的な公共サービスの問題にも徐々に取り組み、彼らのための送金システムをリンクするメカニズムを構築する必要があります」

報告書は都市化の新たなモデルのために6つの優先課題を挙げている。

    1. 土地管理と制度の改革。近年の都市拡大化のほとんどは農地を転換した土地で行われている。そのため、現在利用可能な農地の面積は、食料安全保障を確保するために最低限必要とされる1億2000万ヘクタールという「限界」に近づいていると、報告書は述べる。より効率のよい土地活用のために、農家の財産権の強化、土地取得にあたっての補償の拡大、農村部の建設用地を都市利用に転換する新たなメカニズム、市場原理に基づいた都市部の土地区画の価格設定が必要となるだろう。また、地方政府が公共目的で農村部の土地を接収できる限度を法的に設定すべきである。報告書は、市場に基づく工業用地の価格設定と、工業用地の建築規制を商用および住宅用に転換することを提言している。こうした施策によって、サービス産業の発展は促進され、小規模都市の経済基盤は強化され、低い住宅費を実現できる。
    2. 戸口(世帯登録制度)の改革。すべての市民が質の高いサービスを等しく享受し、より可動性の高い多才な労働力を生み出すことを目指す。戸口制度から、すべての居住者に最低限の公共サービスを提供する住民登録制度に転換する必要がある。労働者の賃金を増やすためには、農村から都市部へ、また都市から都市へ労働力が移動することを妨げる障壁を取り払わなくてはならない。
    3. 都市の金融基盤をより持続可能にし、地方政府に財政規律を確立する。報告書は、地方歳出を固定資産税や都市サービスの料金値上げなどによる地方歳入で賄うような歳入システムへの移行を提言している。地方政府が中央政府の厳しい規定の範囲内で直接借り入れができるように認めるべきだと報告書は記している。
    4. 都市計画と設計の改革。都市では、市場価値に基づいて工業用地の政府公示価格を設定することで、土地集約的な産業は地方の小規模都市へ移転するようになる。また、融通性の高い区画規制によって既存の市街地を有効利用することができる。また、区画を小さくし、土地を複合的に利用すれば、密集度の高い、より効率的な都市開発が可能になる。都市の中心地への交通インフラを整えて、都市間での調整を促進すれば、混雑と汚染をより適切に管理できるようになる。
    5. 環境への負荷の管理。中国にはすでに、厳格な環境関連法や規制や基準が存在する。そのため、よりグリーンな都市化を達成するために最も重要な課題は、その施行である。税制、炭素や大気や水汚染の取引システム、エネルギーといった市場に基づく手段を、環境目標の達成のために活用することができる。中国は制度を改善するだけではなく、より適切な環境管理を可能にするためのインセンティブや手段を改良し、「グリーン・ガバナンス」に重点的に取り組む必要がある。
    6. 地方のガバナンス改善。地方公務員の職務査定システムを調整し、より効率的で包摂的で持続可能な都市化プロセスのためのインセンティブを増やすべきである。また地方政府は、中期的歳出の枠組みや財務勘定の完全な開示といった手段を使って、財務管理と透明性を改善することができる。

画期的計画はリスクを免れない?

気候変動の現実が影響を及ぼし始め、世界のエネルギー需要がますます増加していく中、この計画が評判どおりの画期的計画であることをつい期待したくなる。
「中国が固い決意を崩さずに、必要な改革を実施すれば、世界的な都市化のモデル国となるでしょう。同時に、汚染との闘いに勝ち、高い経済成長率を保ち、都市をもっと快適に暮らせる場所にして、より多くの人々が開発から恩恵を得るようになるでしょう」とインドワラティ氏は述べた。

もちろん、大計画には往々にして、立役者たちが語りたがらない隠されたリスクがある。ある評論家の指摘によると、このような計画は中国共産党(CPP)にとって、政治的リスクが高いかもしれないという。

都市化計画を順調に実施するには、CPPは「中央と地方の関係を根本的に構築し直さなければならないでしょう」とアジア太平洋地域の国際情勢を専門とするジャーナリストのザカリー・ケック氏は見解を述べる。「特に、共産党は地方政府への予算を増額するか、地方政府に権限を与えて独自に歳入を増やせるようにしなくてはならなくなります。地方政府が現在と未来の農村からの出稼ぎ労働者に社会サービスを拡充する資金を調達しなくてはならないからです」

「しかし予算の増額は地方政府の権力拡大を意味します。そして権力の拡大は、北京に住む『皇帝(たち)』に挑む地方の権力者を生み出すリスクを伴います。どのようにしたらCCPの首脳部は、より多くの予算を地方に充てながら、かつ、北京に挑むほどの権力を付与せずに済むのか。これが習近平氏と中央政治局常務委員会のメンバーらが現在解決しようとしているジレンマです」とケック氏は推測する。

また、前例のない都市化は国内の社会動乱の可能性を高めるだろうと彼は指摘する。「中国ではすでに、かなりの政情不安が存在することは周知の事実です。例えば中国国家行政学院は、2006年から2010年の間に国内での抗議活動の件数が2倍になったと 推計しており、大規模な事例は18万件あったとしています」

翻訳:髙﨑文子

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著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。