ジョナサン・ワッツ氏はガーディアン紙のアジア環境を担当している記者である。
エクアドルではアマゾンの森林が伐採され、ペルーでは山が削り崩され、ブラジルではセラードと呼ばれるサバンナ地帯がダイズ畑に転換され、ベネズエラのオリノコベルトでは油田が開発されている。
ラテンアメリカにおける環境劣化を伝える、こうした最近の報告は、他の国にとって何千マイルも離れた場所での無関係な生産物に関する出来事かもしれない。しかし、これらの報告には共通の原因がある。すなわち地域的な一次産品への中国の需要だ。
世界最多の人口を有する中国は、長年、持続不可能な消費と汚染を続けてきたヨーロッパや北米や東アジアの富裕諸国の仲間入りを果たした。その結果、マイケル・T・クレア氏が「残り物をめぐる競争」と呼ぶ状況を引き起こした。その影響が特に顕著に現れているのが、未開発のまま手つかずの自然資源が多く残された大陸である。
中国政府が一次産品の供給源として注目している主要な地域は、アフリカよりもラテンアメリカである。メキシコ国立自治大学教授のEnrique Dussel Peters(エンリケ・デュッセル・ピーターズ)氏が昨年行った調査によれば、ラテンアメリカは中国の海外直接投資先のトップであり、中国鋁業公司(CHINALCO)や中国海洋石油(CNOOC)といった巨大国営企業が主に原料に対して投資を行っている。
また、2008年の経済危機以降、中国はラテンアメリカへの主要な融資国になった。2010年には370億USドル(240億ポンド)を融資した。この数字は世界銀行、米州開発銀行、アメリカ輸出入銀行の融資合計額よりも多い。中国による融資のほとんどは4つの主要輸出国、すなわちベネズエラ、ブラジル、アルゼンチン、エクアドルへ流れ、鉱業や交通インフラストラクチャーに投資された。
その経済利益は甚大である。中国とラテンアメリカ間の貿易額は、2000年にはわずか100億USドルだったが、2011年までに2410億USドルに急増した。収益は国によって大きく異なる。しかし、こうした状況によってラテンアメリカは、多くの先進諸国に影響を及ぼした金融経済危機の最悪の事態を避けることができた上に、貧困緩和計画への追加歳入を確保できたおかげで同地域での悪名高い不平等を緩和する結果となった。また、中国との貿易は、アメリカ政府やアメリカ金融市場が提示する新自由主義的な対応策に替わる選択肢を模索している左派寄りの各国政府を支援する重要な役割を果たした。
ベネズエラとエクアドルは債務不履行によって国際資本市場へのアクセスができない状況にあるが、両国は中国から高額の融資を受けた。アルゼンチンも同様の待遇を希望しているところだ。
しかし、ある依存を捨てれば、別の依存に走る可能性もある。中国への返済は、一次産品の長期的な販売によって保証されている。それはすなわち、資源開発を推し進めるという誓約であり、多くの場合、環境と先住民族のコミュニティに悲惨な結果を招く。
「中国は世界中で自然資源を買いあさっています。私たちは中国による一次産品の蓄積プロセスのまっただ中にいるのです。こうした状況において、中国はエクアドルに融資し、エクアドル政府は石油の予想取引を通じて返済します。私たちは2019年まで中国と取引する誓約があるのです」とアルベルト・アコスタ氏は語る。同氏はエネルギー省大臣を経験した後、ラファエル・コレア大統領政権を批判している。アコスタ氏はエクアドルの対中国債務を170億USドルと推計している。
中国とラテンアメリカの偏った貿易関係には、別の疑問も投げかけられている。すなわち、国内総生産(GDP)の量的な側面にとっては良いことだが、開発の質という点ではそれほど有益ではないのだ。一次産品の供給業者は自分たちが輸出する産品に対する中国の需要を歓迎しているが、製造業者は、中国から安価な輸入品が大量に押し寄せ、国内での競争力が損なわれることに不満を抱いている。
ブラジルのジルマ・ルセーフ大統領は、ダイズ、鉄、石油だけではなく、科学、技術、教育における協力関係により重点を置くことで、中国との関係の質を変えたいと考えている。こうした姿勢は、ブラジルの近年の経済成長が産業の空洞化傾向を見えなくしている兆候をフォローするものである。ブラジルでは一次生産者がGDPに占める割合は増え続けているのだ。
メキシコは他のラテンアメリカ諸国に比べ、売れる一次産品が少ないが、国内市場は大きい。同国は非公式ではあるが、現在の傾向に関して非常に辛らつな批判を行った。
「我々は中国の次なるアフリカにはなりたくない」と貿易投資促進機関のプロメヒコ総裁のニール・ダヴィラ氏が語ったとされる外交電文が、ウィキリークスによって発表された。「我々は自国の開発を自分たちの手中に収めておく必要がある」
ラテンアメリカにとって、汚染と過剰な資源掘削は新しい問題ではない。クリストファー・コロンブスとヴァスコ・ダ・ガマの到着以来、ラテンアメリカは切り分けられ、開発され続けてきた。また、中国の国営企業が必ずしも欧米の民間企業より悪徳だというわけではない(シェブロン社はエクアドルのアマゾンを汚染したとして190億USドルの賠償金を求める訴訟を起こされている)。しかし、世界の環境負荷によってすでに負担を強いられている地域に、中国はさらなる重圧を掛けているのだ。
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この記事は2013年3月26日、the Guardian で公表したものです。
翻訳:髙﨑文子
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