国連大学物質フラックス・資源統合管理研究所(UNU-FLORES)のAcademic Officer(アカデミック・オフィサー)として、Soil and Land-use Management unit(土壌・土地利用管理ユニット)を率いている。
この記事は、「国連大学と知るSDGs」キャンペーンの一環として取り上げられた記事の一つです。17の目標すべてが互いにつながっている持続可能な開発目標(SDGs)。国連大学の研究分野は、他に類を見ないほど幅広く、SDGsのすべての範囲を網羅しています。世界中から集まった400人以上の研究者が、180を超える数のプロジェクトに従事し、SDGsに関連する研究を進めています。
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中国が初めて、砂漠化および土地劣化についての主要な世界的イベントである国連砂漠化対処条約(UNCCD)第13回締約国会議(COP13)を主催した。本イベントは、内モンゴル自治区のオルドス市で開催されたが、この地域は、その水資源の乏しい環境で知られている。
このような地域(通常、乾燥地と呼ばれる土地)は地球の陸地面積の約半分を占めるが、水の乏しさや降水量の極端な時間的変動を背景に、変化の影響を受けやすく、また、それ自体が変化しやすい傾向にある場合が多く見られる。世界人口の3分の1以上に上る人々が、乾燥地に居住している。
中国は長年にわたり、自国の経済のために乾燥地を発展し得るものにするべく、さまざまな植林プログラムを成功裏に実施しており、この取り組みを2050年まで続ける予定である。しかし、植林を拡大するに従い雨水流出の抑制をする一方、樹木の増加とともに、その成長にはより多くの水が必要となることから、国内の水危機の悪化を招こうとしている。
中国は、世界の耕地のわずか7%で、世界人口の5分の1に対する食料を生産しており、耕作地の65%が、中国北部および北西部の乾燥地地域にある。黄土高原はこの乾燥地地域の一部であり、その広さはフランスに相当する。黄土は、数千年にわたり、ゴビ砂漠から風によって運ばれてきた風成堆積物である。
黄土高原は中国文明の発祥の地であるが、その理由は、この高原上に形成される土壌が非常に肥沃であり、耕作しやすいことにある。しかし、黄土の土壌は、水と風による浸食を極端に受けやすく、何世紀にもわたる不適切な管理の結果、土地は痩せ、黄河には膨大な量の堆積物がもたらされた。黄土高原地域の3分の2以上が、土壌浸食を受けていると推定されている。1950年代後期に黄河で行われた観測では、最大で年間3ギガトンの堆積物が確認された。
こうした土壌浸食を防ぐため、中国政府は1950年代以降、階段耕作、砂防ダムの建設、植生復元(とくに植林)といったさまざまな土壌保全プログラムを実施してきた。
森林の構築は、水による土壌浸食を最小限にするのみならず、中国北部における土地劣化対策を目的としたものであった。土地の劣化は農地面積を著しく減少させ、結果的に、持続可能な地域開発を脅かす厄介なものである。
1978年には、三北防護林プロジェクト(中国版「緑の長城」として知られる計画)が立ち上げられた。これは、三北地域(面積148万平方キロメートル)の森林被覆率を2050年までに最大15%拡大することを目指すものであった。しかし、土壌浸食と黄河の堆積物の量が低減された一方、アジア第三の大河であるこの川の流量に著しい減少が見られた。
黄河流域では総取水量の80%を農業が占め、圧倒的最大の水消費要因となっていることから、流量の減少は中国の食料安全保障に影響を及ぼしかねない問題である。2000年から2010年の間における年間平均流量は、1950年から1999年までの流量平均値のわずか60%に過ぎなかった。
植林もまた、重大な影響を及ぼしている。
1949年に6%であった黄土高原の森林被覆が、2010年には26%にまで増加した。森林は、他の土地よりも多くの水を蒸発散させるため、この増加は、中国北部の水資源の減少の大きな一因となった。そして、新たに構築された森林は水不足を背景として一般的により成長が遅く、病気にかかりやすい傾向を持ち、植生の安定性が低い。
干ばつや洪水の頻発および激化が予想されることから、成長社会における水需要の高まりが水と食料の安全保障を脅かし、中国の乾燥地域における社会的な脆弱性や不安定性を増大させることになるだろう。
水資源のさらなる減少を防ぐために、中国は森林・土地・水の統合管理を確立する必要がある。実施する施策は、現地の環境状態に合わせたものでなければならない。例えば、年間降水量が450ミリ未満の地域では、植林を行うべきではない。
そのような干ばつの起こりやすい地域では、草地化がより適した解決策となる。その理由として、草地は枯渇した水資源の回復を確保しつつ、土壌を安定させるからである。水消費の少ない土着の樹種を取り入れることや、あるいは、生育する木のまばらなサバンナ疎林のような森林を構築することによっても、干ばつの状態を緩和することができる。
樹種の構成を変更したり間伐(立木本数の調整)の実施を通じて既存の植林地の森林構造を改めることにより、森林の安定性を高め、ひいては森林の水消費量の抑制につなげることができる。最後に、自然植生回復を推し進めるべきである旨を言い添えるが、その理由は、これによってこそ、いっそう安定した森林を生み出すことができるからである。
中国政府は、黄土高原の植林に対し、2050年までで95億米ドルを投じる予定であるが、過去に自国で取り組んできた、土壌浸食への対処から教訓を得る必要がある。土地劣化の削減において、より持続可能な手段は、環境・経済・社会の間に生まれる相乗効果を生かした管理手法を確立することであろう。
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本記事の初出は、The Conversation(カンバセーション)に掲載されたものである。元の記事はこちら。