中国の真珠産業:生態学的負荷の指標

中国は世界最大の養殖真珠の生産国である。しかし真珠の養殖業者たちは増え続ける生態学的問題に直面し、産業化戦略から取り残されつつあるため、将来を疑問視している。

中国には、海洋性のアコヤガイや淡水性のイケチョウガイから採取される真珠の長く豊かな歴史がある。合浦や北海は、漢王朝(3世紀)の時代から海洋真珠産業が盛んな地域だ。記録によれば、川や湖での真珠採取は紀元前4千年紀までさかのぼる。

1980年代、中国は世界最大の養殖真珠の生産国になった。2010年、アコヤガイから採取される海洋養殖真珠の生産量は20トンで、淡水養殖真珠は1500トンという圧倒的な生産量を記録した。一方、同じ年にオーストラリアで生産された南洋養殖真珠は10トンである。長年、中国産の養殖真珠と言えば大量生産や低価値や比較的低い品質といったイメージがつきものだった。しかし最近の発展によって、こうした状況は変わりつつある。

海洋真珠が採れるアコヤガイの養殖は、広西チワン族自治区や広東省の沿岸海域で行われており、淡水真珠が採れるイケチョウガイは浙江省、江蘇省、湖南省、安徽省の川や池、湖で養殖されている。養殖用の稚貝は、ふ化場から入手されるので、自然個体数への影響は抑えられている。アコヤガイは1度に、1~2個の真珠しか生産できないが、イケチョウガイは30~50個の真珠を生産できる。そのため、淡水養殖真珠の方がずっと安価である。

これらの軟体動物の生態環境や生産作業には大きな違いがあるが、生息水域には同じ脅威と好機が存在する。真珠の生産が引き続き増大し、急速な経済発展がますます真珠の生産地域に及ぶにつれて、問題(主に環境に関連する問題)が生じる。

真珠と稲田

イケチョウガイの大部分は、古い稲田を掘り返し、注水した人工池(通常は水深2~3メートル)で養殖されている。イケチョウガイは5年間こうした池で育てられた後、真珠を採取される。

Photo by Laurent Cartier.

Photo by Laurent Cartier.

このような池は堆肥や動物の排泄物を豊富に含むため、大量の藻(イケチョウガイの食料源となる植物プランクトン)が発生する。また、イケチョウガイの食料の質を向上させるために、ろ過摂食性のコイが池に放流される。イケチョウガイとの共生関係の中で、コイは植物プランクトンをろ過し、潜在的な富栄養化と藻類ブルームを防ぐ。

しかし、この養殖方法は土壌や水の栄養不足を引き起こすことがある。2007年の事例では、真珠生産に使用された堆肥と肥料のレベルが懸念されたため、湖北省でイケチョウガイの養殖は一時的に禁じられた。

淡水真珠の養殖には、きれいな水が必要であり、周辺地域での活動(例えば農業、建設、廃水)から生じる汚染は影響を及ぼす。その一方で、養殖活動自体も、適切に管理されていなければ、生態学的問題を生む可能性がある。ある真珠養殖業者が言ったように、「私たちは自然との儒教的な調和を保つ必要があります。それが伝統的な中国のやり方なのです」

上海から250キロ離れた諸曁(しょき)は、現代的なイケチョウガイ養殖の発祥の地である。しかし多くの養殖業者は、真珠よりも利益の多い他の養殖に転向したか、あるいは人口密度が低く水の汚染の少ない中国中央部(例えば湖南省)へ移転した。諸曁の急速な開発のために、政府は真珠養殖業者に移転費用を支払い始めたほどだ。しかし多くの関係者は価値連鎖の上位へ昇り、貿易業者や卸売業者や宝飾品の製造業者になったため、諸曁は今でも真珠産業の重要な中心地である。

海洋の感受性

海洋性のアコヤガイは、淡水性の類似種よりもずっと環境の影響を受けやすい。そのためアコヤガイの養殖業者は環境収容力や外的汚染の影響といった問題に、かなりの注意を払っている。生態系の崩壊は、養殖業者の生活の崩壊も意味する。そして他の産業とは非常に対照的なことに、生態系の崩壊はすぐに明らかになる。なぜならアコヤガイの反応が早いからだ。わずかな生態学的変化でさえ、アコヤガイが真珠層を分泌する能力に重大な悪影響を与えかねない。

中国の沿岸地域はすでに急激な経済発展、建設、産業化を経験しており、そこでは養殖場が徐々に姿を消している。多くの場合、地方政府の優先事項は大規模な商業開発だ。

大亜湾(広東省)では、沿岸地域の大がかりで急速な開発が適切な環境管理をされずに行われたため、高い重金属濃度が検出されている。この状況は海洋生物に影響を与えている。北部湾では、建設、魚の養殖、農業、鉱業、精製業、エビの養殖などに、真珠生産の長い伝統を持つ地域の水資源が大量に利用されるため、化学汚染や高濃度の抗生物質が報告されている。

2003年の国際連合環境計画による北部湾地域の調査によると、1974年にはアコヤガイ1万個当たり1.25キログラムの真珠が生産されていたが、1999年には1万個当たりわずか0.175キログラムだった。こうした変化の主な要因は水質の悪化だった。

「盛んな真珠産業と中国沿岸部の多くの産業が共存するだけの十分な場所と自然資本がないのです」と広東省の真珠養殖業者は語る。現状は中国産の真珠の将来にとって幸先のよいものではない。アコヤガイはイケチョウガイよりも環境の変化に敏感である。アコヤガイの養殖業者は中国での極度の汚染から逃れるために、水がもっときれいな海域のあるベトナムやフィリピンやインドネシアにすでに移住し始めている。

経済的な必要性

最近の世界的な経済危機は中国の真珠産業に大きな影響を与えた。低品質の淡水養殖真珠が過剰生産された上に、低い需要と淡水真珠の価格下落が伴った結果、多くの真珠養殖業者は生産コストをカバーできなくなった。多くの養殖業者は養殖業をやめ、より実入りのよい経済活動(例えば製造業、不動産開発、魚の養殖)に転業する道を選んだ。

真珠産業の整理統合が進むにつれて、いかに真珠の品質を向上させるかという問題が浮上する。真珠の品質は養殖業者の技術と養殖場の水の環境的変数によって決定される。

Photo by Laurent Cartier.

Photo by Laurent Cartier.

基本的に、真珠の養殖業者はよりクリーンな生産環境を整えることで、真珠の品質と利益の両方を向上できる。養殖業者は健全な環境管理の導入を選ぶことはできるが、外的な汚染をコントロールするという点では、自らの運命を自由に操ることは不可能である。

現在、真珠の養殖業者にとって、水資源の汚染と競争は気候変動の長期的な影響や海洋酸性化よりもリスクが高い。恐らく、地域的な問題の方が世界的な影響力を持つ環境問題よりも数値化や規制を行いやすい。究極的には、外的な汚染源は地域レベルでしか規制と管理を行えないのだが、そのためには当局が問題をより深刻に受け止めなければならない。中国には書籍に関する数多くの法律がある。しかし遠隔地での法施行は困難で、地方公務員はいまだに産業界の利益供与を受けている。

最近の記事で、「中国の真珠産業は、いかに同国が低賃金の職を超えて、外国の生産者を模倣しているかを映す縮図である」と記された。しかし、急速な産業化の持つ圧力は、湖南や広西や広州の真珠生産地域に現れている。無規制な成長とそれに伴う結果は、真珠の生産方法の改善や利益、そして究極的には中国の真珠産業の将来を妨げるだろう。

真珠の生産は特徴的に2つの傾向があり、それらは現代の中国が向かう開発方針にとっても中核である。第1に、(真珠の)品質と利益を高めるには、よりクリーンな生産方法と革新を実現させるしかない。第2に、短期的な汚染は深刻な長期的影響を必ず引き起こす。真珠貝は優れた環境指標であるため、今では変化は目に見えて明らかだ。真珠産業は中国の社会経済的な興隆の縮図であるだけでなく、沿岸部や内陸部の開発にまつわる多くの環境問題の象徴でもある。

中国は2015年までに世界最大の宝飾品市場になる見込みだ。真珠生産の長い伝統が革新と繁栄を続けるだけでなく、中国の真珠が国内の環境意識を高める活力となることが望まれる。

Photo by Laurent Cartier.

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謝辞:ローラン・カルティエは香港宝石学協会およびアーサーとデイビッド・ウォン両氏に、中国の真珠養殖場への訪問時のお力添えに感謝いたします。

真珠と持続可能性に関する詳細や筆者たちとの連絡については、sustainablepearls.orgをご覧ください。

翻訳:髙﨑文子

Creative Commons License
中国の真珠産業:生態学的負荷の指標 by サリーム・H. アリ and ローラン・E. カルティエ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

サリーム・H. アリ氏はオーストラリアのクイーンズランド大学のCentre for Social Responsibility in Mining(鉱業の社会的責任センター)所長であり、『Treasures of the Earth: Need, Greed and a Sustainable Future(世界の宝:必要、強欲と持続可能な未来)』の著者である。

ローラン・E. カルティエ氏はスイスのバーゼル大学博士課程の学生で、バーモント大学のInstitute for Environmental Diplomacy and Security(環境外交と安全保障研究所)の研究員である。