万人のための都市?移住とニュー・アーバン・アジェンダ

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私たちは現在、世界人口の過半数が都市に居住しているという、歴史上初の状況を迎えている。今後も都市化傾向は続き、今世紀半ばには都市住民が世界人口の3分の2を占めるものと予想される。こうした都市の発展の重要な要素でありながら、往々にして議論を呼ぶ問題ともなっているのが移住である。20年前にイスタンブールで開催されたハビタットⅡにおいて、都市への移住は取り組むべき課題として位置付けられた。当時の焦点は、農村から都市への移住の根本原因に取り組み、都市への人口移動を最小限に抑制する方法を見出すことにあった。そのため、ハビタットⅡでは、移民が都市生活にもたらすプラスの側面に光を当てるまでの議論がなされることはなかった。

都市移住に対するこうした捉え方は、パリからデリーに至るまでのさまざまな都市で、移民(およびその後継世代)の社会経済的・空間的疎外を助長する持続的な影響をもたらしてきた。2016年10月17~20日にエクアドル・キトで開催されたハビタットⅢに先立ち、移民および難民に関するイシューペーパーが作成された。その中で、過去数十年にわたる「ジェネリックな都市化モデル」が「統合よりも分離を促してきた」との指摘がなされている。

同キト会議の場でニュー・アーバン・アジェンダが採択されれば、都市における移民包摂の促進および移民の権利の尊重に軸足を置いた、新たな視点で都市移住に取り組むという方向性が示されることになる。国や地方自治体、政府間組織、市民社会団体にとっては、これを、新たな視点に基づく都市政策の策定に向け、連携して臨むための好機ととらえることもできる。現在、世界人口の過半数が都市部に居住しており、絶え間ない移住の波が、国内移住(1つの国の中での移動)か、国際移住(自発的移住・強制移住の両者を含むが、その区別はあいまいさを増す一方である)かを問わず、都市化プロセスの中核をなしている。

「移住はまぎれもなく都市の現象であり、とくに、世界規模でかつてないほどの難民が発生している現下の状況においてそのことは顕著である」

先に挙げたイシューペーパーの中でも述べられているように、世界の難民の約60%(および国内避難民の80%)が難民キャンプではなく、都市部で暮らしている。都市はその規模の大小を問わず、移民たちが生計や未来に向けた基盤、ネットワークを築き、さまざまな機会を追い求め、自らの願望を実現しようとする場となっている。

このため、移住はまぎれもなく都市の現象であり、とくに、世界規模でかつてないほどの難民が発生している現下の状況においてそのことは顕著である。たとえ国が警備や柵、壁を用いて国境を強化したとしても、都市は日々、新たにその地を踏む人々を受け入れつづけている。だからこそ、移住に関するグローバルな話し合いを進めるうえでニュー・アーバン・アジェンダがきわめて重要な意味を持つのである。

国が移民や難民の権利と尊厳を守ることができない場合、そうした人々(正式な書類を持たない者を含む)への対応として、世界中のさまざまな都市が、その受け入れ、基本的なサービスの提供、都市の日常生活のしくみへの組み込みといった具体的な機能を果たす役割を担っている。こうした取り組みは、社会的、文化的、経済的な側面で移民が都市生活に果たしている豊かな寄与を認めることにより、移住に関する議論や政策を一変させる可能性をもたらすと同時に、移民が都市レベルで帰属意識を持てるようになるのではないかとの思いを抱かせるものである。

ニューヨーク市を例に挙げると、すべての移民はその地位の認定に関わらず、市が提供する多くのサービスの利用資格であるIDNYC(身分証明書)を取得することができる。一方、サンパウロ市では、人権と非差別の原則に基づく市の移住政策が策定されたが、その内容には参加型協議を通じて得られた移民の声が反映されている。さらにドイツの各都市では、新たに到着する移民および難民の住居として都市の空間やインフラを活用しようとする斬新な動きが見られるほか、この1年間では、ボランティア主導型のプログラムが都市住民の手によって複数立ち上げられており、これらの取り組みを長期的に行うことで、持続的な包摂の実現に向けた基盤としての歓迎の文化を醸成することができる。

「必ずしもすべての都市が、自由に意思決定を行い、これを行動に移すことのできる強力な主体であるとは限らない点にも留意が必要である」

しかし、この寛容な都市という理想を美化してはならない。多くの都市において、移民の前には大きな課題が立ちふさがっていることを認識する必要がある。具体的には、不安定な雇用、言葉の壁、保健・教育・司法サービスの利用のしづらさ、劣悪な環境衛生事情、住宅に関する不安、差別といった課題である。

また、必ずしもすべての都市が、自由に意思決定を行い、これを行動に移すことのできる強力な主体であるとは限らない点にも留意が必要である。一部の自治体は資源に乏しく、制限的な国レベルの政策指令に従わざるをえない状況にある。地位の認定を得られない宙に浮いた存在として暮らすバンコクの都市難民の状況は、まさにその典型である。だからこそ、草の根・地方レベルと、国・地域・世界レベルとを結ぶ多層的なガバナンスが重要となる。あらゆるレベルで移住を適切に管理することができれば、移民は生計を維持するための資源とともに、貴重かつ持続的・創造的な貢献を果たす機会を手に入れやすくなる。

ニュー・アーバン・アジェンダは世界人権宣言を土台としており、人権に基づくアプローチを通じて移住の問題に取り組むことの重要性が従来に比べてはるかに深く認識されている。同アジェンダの草案には、移民としての地位に関わらず、すべての難民、国内避難民、移民を支援するという公約が含まれている。しかし、ニュー・アーバン・アジェンダが「万人のための都市」というビジョンに基づくものであるならば、これらの高遠な声明を、移住や強制移動を考慮に入れつつ社会的・空間的包摂の実現を目指す現実的で実行可能なプロジェクトや政策へと、いかに落とし込むかについてさらに明確に示す必要がある。

この点において、ニュー・アーバン・アジェンダはまだ曖昧なものである。ハビタットⅢに向けた準備過程として、アジェンダ作成のためにさまざまなステークホルダーや市民からインプットを収集するという目的で行われた都市の対話テーマ別協議では、地方自治体や国に対し、移住を都市計画の横断的要素として組み込むよう、また、さまざまな都市の空間や施設における移民の市民参加を促進するよう求めるべきだとの提案がなされた。

私たちはハビタットⅢを、包摂的政策を策定・実施するため、およびこれらの問題に関するグッドプラクティスを共有するための出発点と捉えるべきである。世界の関心が移住の問題に集中している今こそ、文化的な多元主義と多様性を持続可能な都市開発の特徴として受け入れる、包摂的で友好的かつ進歩的な都市を作り上げることが極めて重要なのである。

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著者

メガ・アムリタ氏は、バルセロナにある国連大学グローバリゼーション・文化・モビリティ研究所 (UNU-GCM) の研究員である。ケンブリッジ大学より社会文化人類学の博士号を取得し、国際移住や文化の多様性と都市についての研究を行っている。