福島の除染活動

2013年12月02日 ブレンダン・バレット ロイヤルメルボルン工科大学

1年余り前、日本の環境省より国連大学へ申し入れがあった。その内容は、福島第一原発事故から放出された放射能によって影響を受けた地域を除染する環境省の取り組みについて、20分のビデオ製作を共同で行いたいというものだった。環境省は私たちが製作したビデオをいくつか見て、国連大学ならば除染の取り組みについて世界の視聴者へ情報を広める力になるのではないか、と考えたのである。
私たちがこのプロジェクトに関わりたいと思った大きな理由は、福島の人々が直面する非常にストレスの多い状況を想像できたからということもあるが、現地の状況について十分理解していないことも認識しており、もっとさらに学びたいと考えたからでもあった。そうした経緯から、私たちは2013年1月から3月の撮影前段階で調査を行ってよいかをどうか環境省に確認し、快諾を得た。
この撮影前段階では、2月と3月の2回にわたって福島を訪問したほか、事故や放射能の影響及び除染作業に関するオンライン資料の詳細な調査を行った。また福島では、地方自治体の職員や省庁代表、除染を支援するボランティアの人々と会った。
また、原発から20キロ圏内の警戒区域にある富岡町を訪れ、環境省の直接監督下にある請負業者の除染活動を観察する機会も得た。この除染特別地域の視察期間中に撮影した写真のうち数枚を、本稿の終わりに掲載した。
そこには打ち捨てられた住宅、店舗、職場の風景が写っている。道路には雑草が生え始めており、大型の公共スポーツ施設周辺の放射線量を減らそうと取り組む作業員の姿がある。汚染廃棄物の詰まった膨大な袋の山を、彼らが野球場に保管する様子を私たちは見た。
個人的に私は、人々が富岡へ戻れるまでには非常に長い時間がかかるだろうということを考えずにはいられなかった。実のところ、人々はほぼ戻れないだろうという見方もあり、地元住民で戻りたいと思っている人は12%に過ぎない、という報告もある。

除染のニュースを私たちはどのように伝えられるか?

私たちの調査から、日本政府による除染の取り組みが、国内外のマスコミのいくつかから批判を受けていたことが明らかとなった。主な懸念のひとつは、除染作業の請負業者の中に手抜きを行っている者がいるというものだ。その結果、環境省は独自に調査を行って3件の事例を確認し、その後このような不適切な事態がおこらぬよう、再発防止策を導入した。

また、とくに2013年2月に世界保健機関(WHO)が発表した報告書を受けて、福島県民の潜在的な健康への影響に関する懸念も示されてきた。しかし国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR)が2013年5月に発表した中間報告では、福島第一原発の事故に伴う放射線曝露では、一般市民や大多数の作業員への急性影響はなく、また将来的に健康影響が出る可能性も低いことが示された。

したがって私たちは状況が複雑であるということを理解し、それゆえに、できるだけ客観的な方法で除染作業に関する情報を伝える必要性を意識した。

また私たちはここ日本で、地元のテレビで放映された除染の取り組みに関する番組もいくつか見たが、これらの番組では専門家の話のみを紹介する傾向があり、一般市民の考えや思いを共有する機会がほとんどないことに懸念を持った。

このような状況から、私たちが環境省と共同で製作するビデオは、放射能の影響を受けている地域に暮らす人々の物語や、除染への取り組みで経験したことを伝えるべきであるという結論に至った。そこで、私たちは福島訪問時に自治体とともに、協力してもらえる人々を探すことになった。

ビデオドキュメンタリー(本ページ上部)にあるように、対象地域に暮らす4名の方が、自らの考えや思いを話すことに同意してくれた。登場してくださったのは、母親、コミュニティ・リーダー、桃農園主、そして避難後に川内村で暮らすために戻って来たビジネスマンである。

私たちは2013年4月に製作を開始し、製作期間中には撮影のために福島を4度訪れた。フィルムは8月から9月頃には形となり始めた。環境省からは、さまざまな地域の補助的マップを用いながら、長期目標を含めた除染活動に関する詳細情報を導入部分で伝えてほしいという強い希望があった。

最終的には、計画当初の2倍の長さである40分のドキュメンタリーとなった。ここには、福島で現在暮らす人々が直面する課題の一端が映し出されていると私たちは考える。

これまでの除染の取り組みに対して皆が満足しているわけではないことや、事故が日々の生活にもたらす影響に対し、当然のことながら地元住民の多くが非常に憤っていることは、明確である。しかしこのような除染作業は、汚染された環境の中で暮らす市民が直面するストレスの軽減や、福島の復興のために必要だという意見もある。

ある自治体職員が述べていたように、「除染なくして復興なし。町民の健康なくして復興なし。町民の安心なくして復興なし」なのである。

単純な解決法はない

私たちが製作したフィルム「福島に生きる:除染と復興の物語」は、除染への取り組みを肯定的に伝え、被災地の人々へ希望を届けるものである。

ただし私たちは、状況が非常に複雑であり、皆がそれぞれの見解を持っていることを十分理解している。除染作業の必要性に賛成する人がいる一方で、除染は費用がかかるうえに効果がない可能性があるという人もいる。そしてまた、除染活動を歓迎しているが現在のペースに苛立っており、作業のスピードをいくらかでも早めてほしいと思っている人も存在する。

世界的な視点でみると、国際原子力機関(IAEA)は2013年10月、修復に向けた取り組みを精査するための専門調査団を福島へ派遣した。調査団代表は関係者による取り組みを称賛し、「日本は、被災地で暮らす人々の放射線被曝を低減させるため、避難者が自宅へ戻れるようにするため、そして地域コミュニティが経済的および社会的な崩壊を乗り越える支援を行うために、多大な努力を払ってきました」と述べた。

しかし地元の人々の懸念は今も大変なものであり、このような感情は、土井敏邦氏のドキュメンタリーフィルム「飯舘村:放射能と帰村」で捉えられているが、このフィルムは残念ながら現在のところ日本語版しか存在しない。

福島の原発事故は、日本社会に対し、そしてとくに汚染された地域に暮らす人々に対し、大きな損失をもたらした。この事故により、除染をどのように行うか、そして福島に住み続けることを選択するかどうかについて、コミュニティや家族が分裂し、不和が生じている。

ひとつ非常に重要な点は、事故やその後の除染に関する問題を、あらゆる側面、とくに福島で暮らす人々の視点から見ようとすることである。私たちが環境省と共同で製作したビデオは、この物語の一面にすぎない。ここでの重要なメッセージは、私たちが皆、この事故やその後の影響から学ぶ必要があるということである。そして同じことが二度と起きないように私たちが取り組むことが肝心なのだ。

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本稿で表現される意見は著者の視点によるものであり、国連大学および環境省の見解を反映したものではありません。

著者

ブレンダン・バレット

ロイヤルメルボルン工科大学

ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。