気候変動がワイン生産を脅かす

ボルドーワインとはお別れだが、「シャトー・イエローストーン」と出会う可能性は高い。気候変動の影響によって世界のワイン名産地では生産量が3分の2減少することを研究者たちが予測している。

研究によると、フランスのボルドーおよびローヌ地方、イタリアのトスカーナ、カリフォルニア州ナパ・バレー、およびチリでのワイン生産量が2050年までに大きく減少すると予測されている。気候の温暖化によって伝統的なワイン生産地でのブドウ栽培が難しくなるためだ。

しかし一方では、ブドウ栽培には適さないと考えられていた地域に生産地が大きく移動することが予想される。つまり、イギリスを含む北ヨーロッパ、アメリカ北西部、中国中央部の丘陵地帯で、より多くのブドウの品種が生産される可能性があるということだ。

「要するに、気候変動がワイン生産の地理的分布を大きく変えるということです」とコンサベーション・インターナショナルの上席研究員で本研究の執筆者であるリー・ハンナ氏は語った。

研究者たちは、良質なブドウを生産するのに適した冷涼な冬と高温乾燥の夏という気候条件に恵まれた地域で大きな変化が生じることを予測している。「ヨーロッパ各地で現在栽培されている品種は、ますます育てにくくなるでしょう」とハンナ氏は語った。「その地域ではもう栽培できないということでは必ずしもありませんが、栽培するためには、かんがいや特別な投資が必要となり、ますます経費が掛かるようになります」

ワイン用のブドウは栽培が最も難しい作物の1つで、気温や降雨量や日照の微妙な変化に敏感だ。生産業界は今までも、気候変動の影響について将来を見据えてきた。

ワインの専門家たちは数年前から、より高温で乾燥した気候になれば多くのワイン名産地でブドウの生長状況が変わってしまうことを知っていた。そうなった場合、生産者はブドウを日光から守るために収穫前のブドウに霧吹きをしたり、繊細なブドウの木をより適した環境に植え替えたりしなければならなくなる。

しかし『米国科学アカデミー紀要』に発表された最新の調査結果は、研究者たちを予想以上に驚かせた。「著しい変化は予測していましたが、まさかこれほどの変化とは思っていませんでした」とハンナ氏は語った。

科学者たちは主要なワイン生産地9カ所を対象に、17種の気候モデルを使って気候変動の影響を測定した。2050年の気候シナリオは、気温上昇をセ氏4.7度(カ氏8.5度)と仮定した最悪のシナリオと、セ氏2.5度と仮定したシナリオの2種が使用された。

いずれのシナリオも、ワイン界での劇的な変化を予測している。生産量の最も急激な減少が予測されたのはヨーロッパで、ボルドー、ローヌ、トスカーナでの生産量は85パーセント減少することが分かった。

また他の生産地でも見通しは暗く、オーストラリアでは74パーセント、カリフォルニアでは70パーセントの減少が予測された。

南アフリカのケープ地域のワイン生産者も大きな打撃を受ける見通しで、生産量は55パーセント減少する。チリはおよそ40パーセントの生産減少だという。しかし気候変動によって生産者たちはさらに標高の高い冷涼な栽培環境を求めるようになるため、従来の生産地とは別の地域で新たにブドウ栽培が始まることを研究は明らかにした。

生産業界はすでに、タスマニアを含む新たな生産地を検討している。今回の研究結果を受けて、ブドウ生産者はイエローストーン国立公園周辺の自然保全地域に向かい始めるかもしれない。あるいは、もっと標高の高い中国中央部の丘陵地帯を目指す可能性もある。

研究によれば、どちらの地域もワイン生産が盛んになる可能性があるという。

しかし、ワイン生産の新天地開拓は、そこでワインを生産する人々にとって全く新たな問題を引き起こす可能性がある。

新たに確認された将来的なワイン生産地の一部は自然保全地域だ。例えばアメリカのイエローストーン国立公園周辺では、すでに牧場主とオオカミの間で衝突が起きている。中国では、将来的にワイン生産に適した地域が絶滅危惧種のジャイアントパンダが生息する丘陵地に重なっている。

オオカミもジャイアントパンダも、同じ運命に向かっている。

「将来的にワインも野生生物も繁栄していかなくてはなりません」と環境保護基金の科学者で論文の執筆者であるレベッカ・ショー氏は語った。「こうした適応策は野生生物の生存を脅かす可能性があります」

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この記事は2013年4月10日、the Guardianで公表したものです。

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著者

スザンヌ・ゴールデンバーグ氏はワシントンDCに拠点を置くガーディアン紙の米国環境特派員である。中東での記者活動により数々の賞を受けており、2003年には米国のイラク侵攻をバグダッドで取材。著書にヒラリー・クリントンの歴史的な大統領選出馬を描いた「Madam President」がある。