海洋酸性化は気候変動の「邪悪な双子」

3年間にわたるアセスメントを行った国際的な科学者チームが、「気候変動の邪悪な双子」と呼ばれる現象がグローバル規模の問題になりつつある状況について詳しく発表する予定だ。彼らによると、北極海における急速な酸性化は、二酸化炭素の排出を即刻止めても、「数万年」にわたって広範囲に影響を及ぼすという。

海洋酸性化の第一の要因は二酸化炭素の溶解である。炭素が多く含まれる石炭や石油などの物質を燃焼させると、発生した二酸化炭素の一部は海に吸収される。それにより、大気中の二酸化炭素の増加は抑えられ、人間が引き起こした温暖化のペースは緩やかになる。しかし一方で、海水の酸性度は高くなっていく。アセスメントを行った科学者によると、このプロセスの結果、現在、世界の海の表層水の平均的な酸性度は、産業革命が始まった時より約30%高くなっている。

アセスメントの主要な科学的所見は先週、ノルウェーのベルゲンで開催された北極圏監視評価プログラム作業部会(AMAP)の北極海酸性化に関する国際会議の中で議論された。報告書と政策提言は5月15日、スウェーデンのキルナで開催される北極評議会閣僚会合で発表されることになっている。

現在、世界の海の表層水の平均的な酸性度は、産業革命が始まった時より約30%高くなっている。” author=”AMAP 北極海酸性化アセスメント

報告書の筆頭著者であり、Norwegian Institute for Water Research(ノルウェー水研究所)の上級研究員であるリチャード・ベラビー氏は次のように述べた。「海は二酸化炭素を吸収するという優れた特性により、過去200年以上にわたって、多大な気候サービスを提供してきました。私たちが排出した二酸化炭素の50%も取り込んできたのです。今でも私たちが作り出す二酸化炭素の25%を取り込んでいます」

調査の主要な所見では、北極海の数地点で著しく高い酸性度が測定されたことが述べられている。たとえば、ノルディック海では酸性化が出現している深度にも幅がある。進行速度は表層水で最も速く、深層水ではやや緩やかである。アイスランド海およびバレンツ海では、海水のpH値(水素イオン指数)が1960年代後半から10年あたり約0.02低下している。酸性化に関連する顕著な化学反応はベーリング海峡や北極海中央部のカナダ海盆の表層水でも観察されている。

ベラビー氏は次のように述べた。「北極海の酸性化は世界の他の地域で見られるより急速に進行しています。これは、温暖化や海水の塩分低下などの気候変動が二酸化炭素の大量の取り込みと連動して起こっているからです」

ヨーテボリ大学で研究を行っているサム・デュポン氏は次のように語った。「未曾有の事態が起こっています。人間が初めて地球全体を変えつつあるのです。私たちは実際に今日も、海洋全体を酸性化しているのです」

今すぐ二酸化炭素の排出を止めたとしても、酸性化は何万年も続きます。これは非常にスケールの大きい実験です。” author=”ノルウェー水研究所のリチャード・ベラビー上級研究員

ベラビー氏は BBCニュースに次のように語り、警告を発した。「急速な変化が続くのは確実です。すでに深刻な閾値は超えました。今すぐ二酸化炭素の排出を止めたとしても、酸性化は何万年も続きます。これは非常にスケールの大きい実験です」

デュポン氏は言う。「最も楽観的な予測でも、今後数十年の間、今世紀の終わりまでに、海洋の酸性度は2倍以上になるでしょう。そして北極海では、それがもっと早く起こるかもしれないことがわかっています」

所見では、海洋酸性化が北極海の海洋生物に直接的・間接的な影響をもたらすと述べられている。状況の変化に適応できる生物もいるかもしれないが、困難な状況に追い込まれ、局所的に絶滅する生物も出てくるだろう。

北極海の食物環は比較的シンプルなため、北極海の海洋生態系は、ホッキョクダラのような主要な種が影響を受けると、その変化に耐えられず、崩壊をきたしやすい。しかし、科学者チームは次のようにも記している。「北極海の生態系の脆弱性については、正確な性質も範囲も評価することができなかった。それは、これまでの生物学的研究のほとんどが他の海域で行われたものだからだ。北極海に範囲を限って長期的な研究を行うことが急務である」

しかし、未解明なことがある中でもはっきりしているのは、北極海の海洋生物、そしてそれらに依存している地域のコミュニティおよび商業漁業(北極圏経済においては重要な産業)は、海洋酸性化だけでなく、気候変動や生息環境の劣化、公害といった、他の大規模な変化にも同時に直面していることだ。

実に課題の多い課題である。

北極海酸性化の詳細についてはAMAPのビデオをご覧ください。

Arctic Ocean Acidification (2013) – Full (12 minute) version from AMAP on Vimeo.

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本記事は、 アンドレア・ゲルマノス氏がCommon Dreamsで発表した記事を、クリエイティブ・コモンズ表示-継承3.0のライセンスに基づいて改変したものです。

翻訳:ユニカルインターナショナル

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海洋酸性化は気候変動の「邪悪な双子」 by キャロル・ スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.
Based on a work at https://www.commondreams.org/headline/2013/05/06.

著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。