気候変動がメンタルヘルスに及ぼす影響:盲点、誤解、そして対策

猛暑や干ばつ、山火事、洪水、ハリケーンは、人々の生活にますます大きな影響を及ぼしており、今後、数十年の間に、その頻度や深刻さは増すと予測されている。これらの事象は、直接、被害を受けた人々だけでなく、将来的に被害を受ける可能性のある人々にも大きな精神的影響を及ぼすが、そのような影響は見過ごされがちである。

気候変動が深刻な精神的影響を及ぼし、人々がさまざまな形でその影響を受けるとの指摘を研究者らが行ったのは、ほんの十数年前である。それ以降、「気候変動不安症」や「エコ不安症」など、さまざまな言葉が誕生した。これらは、怒りや不安、地球の将来についてどうすることもできないという感情に打ちひしがれる人々(特に若者たち)が直面するものである。

また、ソラスタルジアという言葉もある。これは、「故郷を離れずにホームシックにかかっている」状態と説明され、生まれ故郷や慣れ親しんだ環境が急速に変化したことで生まれる感情である。エコロジカル・グリーフ(生態学的悲嘆)やクライメート・グリーフ(気候悲嘆)などを含めたこれらの感情は、多くの場合、自然環境の劣化や気候危機についての情報をメディアで見たり、間接的に体験したりすることで引き起こされる。

メンタルヘルスの悪化が、社会的関係の緊張や認識能力の低下、薬物やアルコールへの依存、自殺に結び付くことはすでに分かっている。メンタルヘルスに関する世界保健機関(WHO)の報告書「メンタルヘルス・アトラス」によれば、ほとんどの国がメンタルヘルスに関する現状のニーズを満たすだけの能力すら有さない。

メンタルヘルスの問題を抱えている人は、10億人にのぼる。彼らを支援する精神医療従事者は、10万人あたり13人しかおらず、各国政府がメンタルヘルスにかける予算は、平均して保健医療予算の2パーセント強ほどに過ぎない。低中所得国では、支援を受けることはさらに難しく、うつ病を患う人々の内、75パーセントが診断や治療を受けていない。メンタルヘルスの問題が文化的にタブーとなっている国々では、多くの場合、状況はより複雑になる。

このような憂慮すべき状況は、気候変動による精神的影響の深刻化や、栄養不良など気候危機に伴う健康問題の副次的影響を受け、さらに悪化するだろう。WHOがこの夏に発表した報告書が示すとおり、気候に関連したこれらの相互関連性は、今なお十分に認識されていない

有効な4つの対策

状況は厳しいものの、取り得る方策はいくつかある。第一に、さまざまなコンセプトや関連するリスク要因についての理解を深めるため、さらに調査を進める必要がある。

十分な調査が行われなければ、気候変動による影響を受けた人々が、「単に」精神的ショックを受けたと見なされ、実際の症状に適さない臨床的介入を受けたり、あるいは、全く治療を受けられなかったりしてしまう。また、新たな疾患に名前を付けることはときに有益ではあるが、例えば「豚インフルエンザ」の事例のように、意図せず特定の集団や産業に汚名を着せることが無いよう、十分な配慮が必要である。

第二に、気候変動適応や災害対応に関する計画には、メンタルヘルスの支援制度を全体的に組み込むべきである。気候変動とメンタルヘルスとの交点は、これまで主に緊急事態管理や災害管理の枠組みの中で論じられてきた。緊急時以外における気候に関連したメンタルヘルス支援は、現在のところ限定的か、あるいは、全く存在しないというのが現状である。

第三に、気候変動対策への集団的な取り組みを促す必要がある。若者を対象にした最近の研究では、気候変動不安症と全般性不安障害の症状との関連が報告されているが、気候変動活動に対する取り組みを(一人ではなく)集団で行うことで、気候不安症とうつ症状との関連が大幅に減少したとのことである。

このような気候変動対策への集団的取り組みには、地域主導によるプラスチックのリサイクル活動に参加することや、アートや創造的思考を用いて気候に起因するストレスについてより多くの人々に伝えることなど、さまざまな方法がある。気候不安症は気候変動対策に取り組むようになる重要なきっかけとなり得るので、こうした集団的取り組みは自己主体感や連帯感を養い、心の健康を保つのに有効かもしれない。

最後に、エジプトで開催されたCOP27で、各国政府は気候危機に対処するための新たな共同行動を模索している。メンタルヘルスは、その重要な一部を成すべきだ。

例えば、気候ファイナンスのような重要なツールでは、メンタルヘルス・サービスの支援を対象に含めるよう拡大される可能性がある。各国は、気候変動適応に関する自国の計画策定において、こうした可能性を留意することができる。

精神的な健康は、私たちそれぞれにとっても、社会全体にとっても、基盤となるものである。精神的な健康があるからこそ、逆境に耐え、困難な人生経験やストレスがあっても立ち直り、成長できる力が得られるのだ。

精神的な健康はまた、私たちが他の人々と建設的な関係を築くことを可能にする。そのような建設的関係は、地域社会における連帯の育成に不可欠である。集団的な取り組みの呼びかけは、多くの人々が恐れや不安から抜け出すために有効である。また、誰一人取り残すことなく、将来の世代に気候変動対策を実施する力を与え、よりレジリエント(強靭)な社会を築くための希望を生み出すものである。

この記事は、クリエイティブ・コモンズのライセンスに基づき、The Conversationから発表されたものです。元の記事(英語)はこちらからご覧ください。

著者

岡本早苗は国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)の研究員。行動科学者として、学会と産業において行動科学を応用し、人間の行動をよりよく理解し、持続可能性や組織変革、ステークホルダーの巻き込みなど、さまざまな目的に向けて人間を動かす分野で幅広い経験を積んでいる。