気候に優しい都市再生:日本からの教訓

「持続可能な都市の未来プログラムでの研究の一環として、国連大学高等研究所(UNU-IAS)の2人の研究者が、気候変動の緩和と適応において都市再生が担う役割を検証する。」

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都市は、気候変動に取り組むと共にその影響に適応する上で中心的役割を担う。なぜなら都市は気候変動の大きな一因であり、気候変動の影響がもたらす深刻な脅威にさらされているからだ。都市の空間政策は長期にわたる影響力を持つため、気候変動に対処する上で重要であり、都市の空間政策を通じてこそ、自治体は気候に優しい計画を進められる。

空間政策は、地域規模から個別の建築物に至るまで幅広い問題を網羅している。例えば、コンパクトな都市の促進、緑化スペースや水塊(調整池、滞留池、用水路など)の準備、既存の建築物の改良、インフラストラクチャーの再開発、非電動式の公共交通網の拡大などだ。空間政策は、気候変動の緩和および適応の目標を同時に達成する上でも有益かもしれない。例えば、緑化スペースは炭素隔離を通じて排出を緩和し、熱ストレスや大気汚染や洪水といった問題への取り組みの一助となる。

そのような空間政策の導入には、既存の都市部における特定の介入が必然的に伴う。「都市再生」は本質的に、再開発から修復に至るまで、そのような介入で構成されている。従って都市再生は、気候変動に対処する空間政策を導入する機会を提供することができる。

しかし都市再生の研究はこれまでのところ、コミュニティに根付く問題やガバナンスの側面や、持続可能性にさえも注目してきたが、気候変動にはそれほど注意を払ってこなかった。私たちは最近の論文で気候変動の緩和と適応において都市再生が担う役割の理解を深めることで、文献に寄与することにした。

私たちは、気候変動に対する異なる政策対応の形式が、どのように、どんな影響を持って、都市部に表出しているのかを綿密に調査した。さらに、都市再生がどのように、どの程度まで、都市の政策決定の主要な分野かつ手段として政策対応に関連付けられ、結果的に気候変動への都市ベースの対応に生かされるのかを検証した。

本研究は日本の2つの事例に基づいている。その2事例では、都市計画が成長から、人口減少時代におけるコンパクトな都市作りのための再組織化に向けて転換を図っていた。最近では既存の再開発地域をスマート化された区域に変える試みがなされている。スマート化された区域では、炭素排出量や環境的フットプリントが低減する。しかし、こうした計画の規模拡大を促進するためには、都市再生と気候変動の関連性を強化するさらなる研究が必要である。

進化する都市再生

都市再生は新たな都市化の計画というより、既存の建築環境を再組織化し、機能を改良する方法である。それは時間と共に進化してきた古い概念だ。その起源は、イギリスとアメリカの多くの都市で「都市再開発」あるいは「地域改良」と呼ばれた計画が始まった1970年代までさかのぼることができる。それらの計画は「社会的剥奪の地域」として特定された都心部の物理的な再開発に注目していた。

1970年代末までに、ダウンタウンの中心地や都市全体の再活性化といった経済的側面が再開発計画に統合され、都市再生はより包括的な概念となった。1980年代のイギリスとアメリカの都市では、不動産主導による再生プロジェクトが都市の政策決定を大きく占めていた。そのような再生プロジェクトは、会社や産業や小売業に新しい場所を提供することが地域経済の変革を促すのだという理解に基づいていた。こうしたプロジェクトは、「起業的都市」という地域経済の発展を促す都市ガバナンスの新しい形態を実現するための戦略の一部として登場した。

にもかかわらず、不動産主導によるアプローチは、社会的公正と環境保護の問題に取り組む点では効果を発揮せず、その結果、新たな目標が都市再生の概念に統合された。1990年代の間、既存の都市部を改善することが環境に恩恵を与える点が再認識され、再生プロジェクトは持続可能性の3本柱、すなわち経済の再活性化、社会正義、環境保護に取り組む手段として考えられ始めた。

最近では、都市再生と気候政策を関連付ける試みが行われている。しかし、その試みはまだ初期段階であり、その理論や実践の土台を強化するさらなる取り組みが必要である。現段階の進展は、目的の一部として気候変動の緩和と適応を掲げて計画された数例の再生プロジェクトに限られている。

再生のプロセスはさまざまな形態の空間的介入を伴う。そうした空間的介入は、気候変動に対処する空間政策の実施を促進する方向に、形態や都市の土地利用の構造を変化させる。

恐らく最も実りの多い介入の形態は、都心部の土地の効率的な利用である。都市再生を通して、自治体はブラウンフィールドや活用されていない土地を有効に利用できる。そして、既存の都市部の新たな開発の大部分を多目的開発という形態に集中させる「内部での成長」戦略を採用する可能性をもたらす。

そういった戦略は都市のスプロール化を防ぎ、特に通勤時間と距離を削減することによって、エネルギーや資源の効率性を実現するのに役立つかもしれない。さらに、都市のインフラ稼働にとって、コンパクトな都市の方がエネルギー消費量は少ない。都市のエネルギー消費の30パーセントを揚水と排水回収が占めていることは分かっている。そのため、都市の占める面積が広いほど、その都市にある建築物に水を提供したり建築物から排水を回収したりするのに利用されるエネルギー量は高くなる。

建築物は、暖房や冷房にエネルギーを消費するため、主要な炭素排出源の1つである。さらに、機能性の低い建築物や、災害に弱い地域(例:氾濫原)に位置する建築物は、気候の影響を最も受けやすい。多くの国で、今後数十年間に利用される建築物は既存の建物である。そのため、既存の建築物を低炭素型でより強い構造に改造することに特別な注意を払うべきである。都市再生は、都心部の再開発と修復の一環として既存の建築物を改修あるいは回復することにより、建築関連の課題を克服するのに役立つ可能性がある。

日本における都市再生

日本は2005年から人口減少の傾向にある。城所哲夫氏による推計によると、あらゆる規模の都市の人口は2015年を過ぎてから減少し始める。こうした人口動態の変化により、日本の都市計画と開発の主眼は成長から再組織化に移り変わった。現在では、都市をよりコンパクトで、高い生活の質を持つ持続可能な場所に変えることに多くの関心が集まっている。

その実現のためには、都市のスプロール化、都心部の衰退、災害への脆弱(ぜいじゃく)性といった、前世代の急速な都市化から引き継いだ都市の問題に対処しなくてはならない。さらに、環境に対する世界や国の懸念を考慮し、日本の都市における温室効果ガスの排出量は低減させなくてはならない。

人口減少時代において、日本の都市をより持続可能で低炭素型の都市環境に変える点で、都市再生には大いに期待できる。私たちは日本の2つの都市再生計画に注目し、日本の都市における再生の実践方法として2つの主要なアプローチ、すなわち「プロジェクト中心型」と「計画中心型」のアプローチを提示した。

第1の事例は、首都圏内の横浜市中心部に位置する、みなとみらい21(MM21)プロジェクトである。このプロジェクトは1980年代中盤に始まったが、現在も進行中だ。MM21は面積186ヘクタールのブラウンフィールドと埋め立て地に建設され、現在はオフィス、ショッピングモール、住宅、ホテル、文化施設、病院、公園などを含む多目的地区となっている。事業の主な目的は、横浜の中心にある商業地区を強化することによって横浜市の自給性を高めることだ。

第2の事例は、石川県金沢市である。金沢市は人口46万2361人を抱える歴史深い中都市だ。金沢は都市のスプロール化によって引き起こされた諸問題に直面している。例えば都心部の衰退、自動車への高い依存性、炭素排出量の増加などだ。1990年代以降、自治体は都市再生を含む幾つかの手段を用いて、こうした問題に取り組んできた。「金沢市中心市街地活性化基本計画」には、860ヘクタールの地域を対象とする中心市街地の活性化のための行動が含まれており、金沢における都市再生の試みの主要な構成要素である。

私たちは、この2事例が気候変動への取り組みに与える影響を以下の側面から分析した。すなわち、経済と就業、建築物と土地利用、輸送と可動性、資源効率性のためのインフラストラクチャー、エネルギー消費と効率性、コミュニティに根付く問題である。

下記に示すように、両事例は気候への恩恵の範囲と規模に加え、都市再生プロジェクトを気候に優しい方法で都市を再組織化する機会に変えるための一連の教訓を提示している。

プロジェクトの概念と設計における融通性

再生プロジェクトの設計における融通性は、時間の経過と共に表れる新たな概念とプロジェクトを統合する上で役立つ。MM21の大きな特徴は、1990年代の景気停滞による完成時期の遅れだ。プロジェクトがゆっくりと実現していったことは結果的に、環境問題に関連したプロジェクト設計の欠点を取り除く機会となった。廃棄物のリサイクリング、グリーンビルディング、スマートグリッドといった今日的な概念(プロジェクトが始まった当時には存在していなかった概念)が、時間の経過と共にプロジェクトに統合され始めた。さらに、プロジェクトがまだ完全には実施されていなかったため、横浜市はMM21をスマート化された地区にするための新しい環境技術を採用する機会に恵まれた。MM21は大規模な「横浜スマートシティプロジェクト」の対象地域の1つである。

行政の担当部署と政策間での調整

いずれの事例でも、政策決定において部門別アプローチが優勢だった。市当局のさまざまな部署が都市開発と環境マネジメントに関連した異なる部門を担当している。しかし、それらの間での調整は不十分のようである。例えば、横浜市水道局は気候変動に直接的に関連した水の問題に対して特に行動を起こしておらず、市当局の別の部署が地球温暖化と気候変動の担当である。

同様の問題として金沢市の環境計画でも、環境戦略の実施を促進するためには、市当局の部署間での効果的な調整の必要性に注目すべきである。例えば石川県は、グリーンビルディングに関する市民の意識を高め、市民の住宅へのグリーン技術の導入を促進するために「エコハウス・プロジェクト」を開発した。ところが、県主導によるこのプロジェクトは、金沢市の中心市街地活性化基本計画には反映されていない。

拘束力のある構造的対策

金沢市の活性化計画が積極的な効果を発揮しきれない主な要因は、市当局が拘束力を持つ対策の導入に消極的であるためだ。拘束力を持つ対策を導入しない代わりに、長期的に行動を変化させることを目的とした「ソフトな」対策を選んだ。例えば、計画では街の中心地への交通手段として自家用車の利用を低減することを目的としているのに、車の利用を規制することは避けている。

そのようなアプローチのために、強硬な優遇措置が計画を支援することができなかったようだ。同様に、市当局は特定の政策分野に構造的対策を導入することが限定的にしかできなかったため、同じような結果を生じていた。金沢のバス交通網は民間部門によって操業されているため、市当局はそのシステムに構造的規制を導入することができず、ソフトな政策はシステム内の構造的欠陥を克服するという点ではあまり効果的ではなかった。こうした状況から、拘束力を持つ構造的対策が再生プロジェクトの一環として導入されるべきであり、特にコンプライアンスや行動的変化を実現するためには必要であることが分かる。

分野横断的な可能性

私たちの事例研究は、都市再生が気候変動に対処するための空間政策の導入を促進できる都市政策の手段であることを示した。再生プロセスに含まれる介入は、既存の都市環境を改良するために利用でき、その結果、気候に優しい方法で都市の形態や土地利用の構造を変えることが可能である。

分野横断的な都市政策の1分野として、都市再生は「緩和と適応の分断」を橋渡しするのに役立つ。そして気候政策における2つの大きな目標間に相乗効果を生み、緩和と適応の目標を同時に達成する一助となる。MM21プロジェクトでは、緑化スペースの設置やインフラストラクチャーの改良といった適応策が、地区の暖房や冷房システムとあわせて実施されている。

もちろん、本稿で示したように、こうした状況を実現させる道のりはまっすぐではなく、複数の課題に阻まれている。全体として、概念的に理解する必要性が残されており、さらに実際の場面では、都市再生がいかに気候変動に対処できるかだけではなく、都市構造における特定地域の活性化という主要な目的を達成できるかを理解しなければならない。

翻訳:髙﨑文子

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気候に優しい都市再生:日本からの教訓 by ジョゼ・A・プピン・デ・オリベイラ and オスマン・バラバン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial 3.0 Unported License.

著者

ホゼ・A・プピン・デ・オリベイラ氏はゼッツリオ・ ヴァルガス財団(リオデジャネイロおよびサンパウロ)の教員であり、復旦大学(上海)およびアンディーナ・シモン・ボリバル大学(キト)にておいても教鞭を執っている。クアラルンプール拠点の国連大学グローバルヘルス研究所(UNU-IIGH)およびMIT Joint Program for Science and Policy for Global Change(グローバルな変革に向けた科学政策のMITジョイントプログラム、ケンブリッジ)の客員研究員である。以前、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)のアシスタント・ディレクターおよびシニア・リサーチフェローを務めた。

オスマン・バラバン氏は、トルコのアンカラにある中東工科大学(Middle East Technical University、METU)で都市計画の博士号を取得した都市設計家である。2009年9月より博士研究員として国連大学高等研究所(UNU-IAS)に勤務している。現在は気候変動の緩和と都市における適応戦略の研究を進めており、とりわけ都市再生のための政策および実行に取り組んでいる。UNU-IAS以前には、METUの都市・地域計画学部で指導していた。