気候移住は「複雑な問題」

気候変動によって人々は故郷を離れざるを得ない状況に追いやられている。しかし、人はどんな状況で気候移住者になり、その立場は何を意味するのか? 国際移住機関(IOM)のディーナ・イオネスコ氏が説明する。

イオネスコ氏は2011年からIOMで気候変動および環境分野で活動している。彼女は、気候に関する国際交渉へのIOMの参加を調整し、他の機関や教育プログラムとの連携を構築するほか、IOMの出版物に寄稿している。

ジュネーブに本部を置くIOMは、世界各地の移住者の権利を擁護している。IOMの前身は、第二次世界大戦後の移住問題に取り組むために1951年に設立され、現在151カ国がIOMに加盟している。

グローバル・アイディアズ:イオネスコさん、キリバスの島出身のイオアネ・テイティオタ氏という男性が、家族と共に気候難民として初の亡命申請をし、世界的な議論を引き起こしました。テイティオタ氏は海面上昇の影響によって、自国に家族の未来はないと語っています。現在、ニュージーランドは、この歴史的な訴えに対して亡命認定を下すかどうか決定しなくてはなりません。あなたが働いている国際移住機関(IOM)は、移住者のための世界有数の支援団体です。IOMはイオアネ・テイティオタ氏を気候難民として認めますか?

ディーナ・イオネスコ氏:ニュージーランドは事例に基づいて決定を下さなくてはならないでしょう。何が亡命を認める根拠として考えられるのかを決めるのは、国家の特権です。私たちの組織が担う役割とは、国々が問題を議論し、また革新的な解決に向かって協力し、問題を議題として取り上げるためのプラットフォームを提供することでしかありません。

IOMでは「気候難民」という用語を使いません。なぜなら、人を難民と認める条件を公的に制定した難民の地位に関する条約には、その用語が直接的に用いられていないからです。解釈の余地がある用語を、私たちは使うことはできません。私たちにとって重要なのは、今回のような事例において、人の権利が認められていること、そして移住者の権利にとって最良の解決策を見いだすことです。

とはいえ、IOMは気候変動が移住の誘因になり得ると確かに明言しています。IOM加盟諸国は2007年に、「環境移住者」という単語の使用に賛成していますね?

はい。この定義は20年間の努力の結果です。今では国際的な議論の場でよく用いられる用語ですが、多くの批判も受けています。この定義はコペンハーゲンでの気候会議への準備段階に生まれました。当時、IOMでは、環境と気候が移住パターンに及ぼす影響に関する意識が高まっていました。また同時に、気候変動を原因とする環境条件の悪化も明らかになりつつありました。

IOMはどのような人を環境移住者と考えていますか?

環境的要因によって人々が故郷を離れる最も共通した理由は、降水パターンの変化や洪水や干ばつです。私たちの定義には、気候条件の変化によって引き起こされるあらゆる種類の移住が含まれます。気候条件の変化とは、突発的な自然災害による変化だけではなく、例えば土壌や地表の劣化のように、環境条件のゆっくりとした悪化による変化も含まれます。私たちのアプローチで重要な点は、身近に差し迫った危険から逃れる人々だけではなく、自発的に故郷を離れる決断をする人々も「気候難民」と考えている点です。

IOMの定義は規範的結果を伴うものではなく、むしろ環境移住者とは何者かを表現するものだとIOMは主張しています。結果を伴わないのであれば、なぜ用語が必要なのでしょうか?

環境の変化が移住の誘発において重大な役割を演じるということを、人々に敏感に感じてもらうために用語が必要なのです。そして、政治的政策レベルで環境問題と移住がさらに重要視されるように、支援の道具として用語が必要です。

例えば難民の地位に関する条約の一部として、環境移住者が法的に認められることを確実にするために、IOMは尽力していますか?

加盟諸国が何を求めるのかについて、私たちは現実的でなければなりません。現時点では各国は条約の変更に関心がないため、IOMは変更を強く押し進めてはいません。気候難民の地位を単に認めるだけでは、多くの環境移住者を除外してしまうということを念頭に置くことが重要です。なぜなら、移住の大きな割合を占めるのは国の中での移住、すなわち国内移住だからです。もちろん国境を越える移住者の法的地位は大きな役割を担いますが、それは移住者を支援する一つの方法でしかありません。

その他の支援方法はありますか?

IOMは、考え得るあらゆる対策の強化に努めています。例えば、近隣国で自然災害が発生した際に人々を一時的に受け入れ、経済移住者として入国を許可したり、支援や協力を行う事務局を設立したりする二国間協定です。実際のところ、気候難民を支援する体制はすでにできており、あとはそうした体制を活用し拡大させればいいのです。例えば、いわゆるカンパラ条約があります。これは国内移住を規制する、アフリカ諸国間で結ばれた協定です。しかし気候変動の適応戦略に取り組んでいる国々は、移動性の問題に対しても、国家レベルでもっと注目すべきです。また当然のことですが、人権の観点から問題に着目し、あらゆる状況において移住者の権利を守ることは可能であり、またそうしなければなりません。

キリバスのイオアネ・テイティオタ氏は現在、最も著名な気候難民、あるいは環境移住者です。今後、同じような役割を担う人々がますます増えるでしょうか?

世界的な調査機関であるギャラップ社が発表した2011年の調査によれば、世界の10人に1人の成人は、環境条件が今後数十年間に移住を引き起こす少なくとも一つの誘因になると推測しています。

しかし移住の原因は多くの場合、非常に複雑であるということを覚えておかなくてはなりません。環境的要因に加えて、その国の政情、紛争あるいは経済状況といった他の要因も関係します。例えばアフリカの角を考えてみましょう。この地域では、干ばつ、飢餓、政治紛争が複雑な形態の移住を引き起こしました。環境は多くの要因の中の一つでしかないのです。

移住は安全保障と関係するでしょうか? 2011年、国連安全保障理事会は気候変動と安全保障の関連を初めて検討しています。

移住と安全保障には関連性があります。環境移住の問題は、あらゆる社会的側面に関わります。移住は、特にすでに存在する紛争を激化させます。例えば、干ばつから逃れようとする人々が、同じように水不足に苦しむ地域に移住する場合などです。その結果、地域社会は負担を強いられるのです。

それほど複雑な問題であれば、世界の環境移住者を実際にどのように推計できるのでしょうか?

数字に関しては、私たちは非常に慎重になる必要があります。そのような数字が正確に何を意味するのかが重要なのです。一つの方法としては、気候変動に脅かされた可能性のある地域に暮らす人々を数える方法があります。例えば、英国のいわゆるForesight Report(フォアサイト・レポート)によれば、毎年5億2000万人が沿岸地帯で洪水の被害に遭い、1億2000万人が熱帯低気圧にさらされています。こうした数字は一見、非常に印象的ですが、実際に何人が被災し、その結果、何人が移住することになるのかについて、何も示していないのです。

さらに、移住の大部分は国内で起こるため、信頼できる統計を得るのは困難です。自然災害によって故郷を離れなければならなかった世界の人々の数は比較的正確な統計があり、2012年には約3200万人でした。

しかし全体として、数字に執着しても意味はありません。気候移住という現象は非常に複雑であり、統計はさまざまな移住パターンの違いを不明瞭にしかねません。移住を否定的にしか捉えないことにも注意が必要です。移住は気候変動への適応にとって大きな可能性にもなり得るのです。

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