気候政策と開発途上国の利害

気候変動による悪影響を回避するための政策を遂行するにおいては、一連の質問に対する答えが必要だ。主な質問は以下の3つである。

開発途上国は概して気温が高い傾向にあり、気候感受性も高く、また適応能力が限られているため、これらの質問はとくに途上国経済に適切である。

最初の2つの質問に答えるためには、気候変動がその国の経済に及ぼす影響と、さまざまな気候変動政策が最終的な結果に及ぼす影響を理解する必要がある。国連大学世界開発経済研究所(UNU-WIDER)は、Development Under Climate Change(DUCC、気候変動のもとにおける開発)プロジェクトの一環として、これらの質問の解明を目指したフレームワークを構築した。3つ目の質問に対する答えは、推進する緩和政策の種類に左右される。UNU-WIDERが進めている新しいプロジェクトでは、水力発電をもとにした地域、あるいは汎アフリカ低炭素エネルギー戦略の可能性に重点を置いている。

気候変動が社会に及ぼす影響を明らかにするためのフレームワーク

気候の変動は、温度、降雨量、気圧、湿度などの天候面での予測水準の変動という形で表れる。しかしこの情報だけでは、気候変動が(経済成長や開発展望、国民の物質的な幸福度といった)人間社会のさまざまな利害に及ぼす潜在的な影響を評価することは困難である。

DUCCプロジェクトで開発されたフレームワークでは、水力発電の生産量、農業生産量、水の需給バランス、インフラなどの設備の維持費といった、一連の重要な影響要素を通して、気候変動の影響を明らかにする。こうした影響に関する情報は、当該国の経済全体モデルにデータとして使われている。採用された経済全体モデルは、マクロ経済的な独自性に配慮している。つまり、将来の事柄はすべて経済的に一貫していて、同時に発生する複数の影響の原因になるということだ。例えば、降雨量が増えれば、水力発電や農業生産には好都合であるが、決壊や広範囲での洪水を引き起こすため道路施設には好ましくない可能性がある。

リスクの評価

本フレームワークの特徴の1つは、国、地域、そしてグローバルレベルでの気候変動予測に関連するかなりの不確実性を明確に取り上げていることである。例えば、温室効果ガスの大気中濃度に対する気候感受性が不確かであること、そして排出される温室効果ガスの量が将来どの程度になるかが不確かであることから、将来の温度水準は正確には分かっていない。

本フレームワークは、マサチューセッツ工科大学(MIT)のJoint Program for the Science and Policy of Global Change(地球変動の科学と政策に関する合同プログラム)が開発・維持しているIntegrated Global Systems Model(統合地球システムモデル)に由来する、複数の世界的な変動予測を活用している。システムに新たな将来の気候変動が入力される毎に、これに対応する一連の将来の生物物理学的、経済的影響が生成される。本システムでは、起こりうるさまざまな結果を網羅するだけでなく、最も可能性の高い一連の結果に絞って検証することが可能である。これは政策立案者には便利である。2050年に経済の規模が10%程度縮小する可能性があるという主張と、その可能性が高いという主張は、別のものである。

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図1:Systematic Analysis for Climate Resilient Development(SACRED、気候変動に強い開発に関する体系的分析)フレームワーク


 

モザンビークの例

下表では、本フレームワークをモザンビークのケースに適用した結果が示されている。ここでは、2050年までの経済成長に焦点を絞っている。表内の緑の線によると、世界的な緩和政策が実施されない場合、大半の気候シナリオが経済損失につながることが分かる。国内総生産(GDP)の損失はほとんどの場合0~5%程度であるが、一部の気候シナリオのもとでの経済損失は、10%以上になっている。(例:2050年までに損失が10%を超える可能性があるが、その可能性は高くない。)しかし、厳しい排出量削減計画のもと(安定化レベル1、赤線)では、損失は大幅に縮小されるとともに、気候面でのより好ましい結果のおかげで、長期的なマイナス傾向は解消されている。とくに原油価格の低下など、商品相場の変動は、積極的かつ効果的な世界規模での緩和政策に関係している。青線は、こういった政策が遂行された場合にモザンビークが実現する経済的利益を示している。

(モザンビークは依然として、構造的な石油輸入国である。近年、大規模な石炭および天然ガス資源が発見されたことにより、世界的な緩和政策に関連する交易条件に係る利益または損失の評価が非常に複雑になっている。安定化レベル1政策では、2040年頃まで石炭の国際価格を引き下げるとともに、天然ガスの価格を上昇させる。安定化政策の正味の影響は、石炭およびガスの輸出量に左右されるが、これらの輸出量は現在のところ不明である。)

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図2:モザンビーク-ベースライン(気候変動なし)と比較した2050年頃のGDP水準

これらの結果は、無制約の排出量と比較して、気候変動緩和政策のメリットがモザンビークにとって大きいことを示している。これは気候の時間スケールにおいて比較的短期間の話である。気候変動の影響は、21世紀の後半にはより深刻になる可能性があるため、これらの国にとっての緩和政策の将来的なメリットはより大きくなる可能性がある。同様の結果が、ザンビアとマラウイでも確認されている。

上記の例では、モザンビークは独自の緩和政策を課していないということに注目したい。従って、モザンビークはエネルギー転換に係る費用を回避する一方で、より望ましく、より予測可能な気候面での結果と、原油価格の低下に(主に)関連した交易条件による利益から、恩恵を受けることとなる。このため、無制約の排出量シナリオと安定化レベル1シナリオの結果は、モザンビークの立場から見ると、最悪ケースと最良ケースのシナリオである。最終的には、効果的な緩和政策にはすべての国の参加が必要となるであろう。上記の結果から、モザンビークには無制約の排出量の場合をはるかにしのぐ開発の道筋を維持しながら、とくに低コストの選択肢を見つけることができれば、緩和政策に参加する余地があることが分かる。

地域エネルギー戦略を通じた低コストでの排出量削減の追求

効果的な世界規模での緩和政策の目標は明白であるが、これをどのように達成するかという問題は残されたままである。前述の通り、先進国と開発途上国の双方が、地球規模での排出量の削減に関与しなければならないことが計算から明らかになっている(UNU-WIDER 2014)。先進国も開発途上国も、低コストで大幅な排出量の削減につながる方法でまず着手しなければならないことは言うまでもない。

このためにUNU-WIDERでは、水力発電とアフリカ大陸に重点を置いた低炭素発電への移行に関する分析を行ってきた 。とくにコンゴ川は、非常に少ない排出量で大きな発電量を達成できる。南アフリカは、アフリカ大陸で群を抜いて最大の発電国であると同時に消費国でもあるため、水力発電を主体とした地域のエネルギー戦略を遂行する決定においては、重要な役割を果たすであろう。そのような戦略は、最終的には汎アフリカの電気供給網の構築につながる可能性もある。

UNU-WIDERは、ケープタウン大学のEnergy Research Centre(エネルギー研究センター)および南アフリカ財務省の経済政策部門のメンバーと協力して、地域で可能な代替エネルギーを調査している。同調査によると、それら地域からの水力発電電力の輸入は、南アフリカ国内の埋蔵石炭を引き続き開発することとほぼ同程度のコスト競争力があることが分かっている。アフリカ地域からの輸入という選択肢のもとでは、南アフリカの経済成長率は維持あるいは向上する一方、従来の方法と比べて、2040年までに排出されるCO₂の量は19億トン近く減少する。回避される排出量の価値を非常に控えめに見積もっても、正味現在価値(NPV)はおよそ210億ドルに達する。(回避される炭素排出量の1トン当たりの価値は、2015年の3ドルから2024年の30ドルまで直線的に増加し、2024年以降は分析の最終年である2040年まで同水準で推移する。NPV算出の割引率は5%である。)南アフリカが地域エネルギー戦略のもとで生産される水力発電電力をすべて利用しないという意味では、この数値は低い見積もりである。水力発電で生産される電力から、他の国も恩恵を受けるであろう。

地域エネルギー戦略を追求することは、地域統合を進めるというメリットもある。さらに、水力発電施設は機能的に蓄電設備の代わりにすることができ、他の再生可能エネルギー源(風力および太陽光)の使用可能生産量を大幅に拡大するうえで役に立つということが、現在の研究で分かっている。再生可能エネルギーは、それぞれが独自で機能するよりも、組み合わせる方がはるかに上手く機能するため、再生可能エネルギーの統合生産システムに関する研究は、将来研究の一分野として現在進められている。

確かに、水力発電生産を主体とした地域エネルギー戦略の追求は、既知の埋蔵化石燃料を採掘し、これらを燃やして電力を発電する方法と比べてはるかに複雑である。環境への配慮を一切除外すると、政治リスクなどのリスクを含む費用と効果のバランスは、化石燃料の活用の継続に傾くであろう。しかし地域レベルと地球レベルの双方で、環境配慮は存在し、水力発電の可能性の活用は、地域的な環境コストを伴う。地域エネルギー戦略、あるいは汎アフリカエネルギー戦略は、長期的な気候安定の観点から、望ましい世界の状態にたどり着く潜在的な第一歩であるとともに、アフリカの開発を刺激する低コストエネルギーの提供への第一歩でもある。こういった選択肢を慎重に分析することで、最良の形で一歩前進することができる。

本稿は、WIDERAngle newsletterで最初に公表されたものです。(2015年2月ISSN 1238-9544)

翻訳:日本コンベンションサービス

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