ジェニファー・ラングストン氏は研究者であり、サイトライン・デイリーの編集者でもある。彼女は毎日、数千本もの記事の見出しに丹念に目を通し、地域の持続可能性に関するトップニュースを読者に届けている。また、エネルギーや海洋、加えて、幼い子どもとバスに乗る際の安全性に関する記事なども執筆している。過去には、シアトル・ポスト・インテリジェンサーを含め、ワシントンおよびアイダホの新聞社に勤務していた。
簡単に言うと、 米国オレゴン州立大学(OSU)が発表した海洋酸性化のニュースは一大事だった。科学者たちは、ウィスキークリーク牡蠣養殖場における稚貝の死滅という謎の解明に乗り出し、原因が二酸化炭素濃度の増加であることを突き止めたのだ。
これは、 化石燃料を燃焼する自動車や石炭火力発電所、その他の機械が引き起こす汚染による現象である海洋の酸性化が、北米の北西太平洋岸地域において、商業的に貴重な種とビジネスに打撃を与えていることを示す最初の具体的な証拠である。
さらに、雑誌「Limnology and Oceanography(陸水学と海洋学)」で発表された今回の研究では、化学的に調合された水に生物を入れて行う実験室実験ではなく、同地域最大の独立系牡蠣養殖場のひとつが実際に直面している状況を研究対象とした。OSUの海洋化学者で 同論文の共同執筆者のひとりでもあるバーク・ヘイルズ氏は次のように説明する。
「これは、海洋の酸性化が重要な成長段階にある牡蠣の幼生にどのような影響を与えるかを初めて明らかにした研究のひとつです。今後の20~30年で、大気中の二酸化炭素が予測通りに増加すれば、牡蠣の幼生の成長が抑えられ、生産量が損益分岐点に達しなくなるかもしれません」
今後20~30年で、大気中の二酸化炭素が予測通りに増加すれば、牡蠣の幼生の成長が抑えられ、生産量が損益分岐点に達しなくなるかもしれません。
ことの起こりは約5年前の夏、オレゴン北西部の養殖場で、牡蠣の幼生が育たないという現象が起こり始めた。その数は数十億にのぼった。ウィスキークリークのオーナーであるスー・カッド氏は次のように状況を説明する。
「まったく奇妙でした。ただ、それ以上、成長しないのです。次第に減っていく感じでした。5億いたものが3億に、そして1億になって、最後まで残るのはほんの一握りなのです」
当初、彼らはバクテリアによる大量死だと思った。しかし、その対策を講じた後も、牡蠣の幼生は育たなかった。1年近く、生産らしい生産ができず、年間2億7300万ドルをこの地域にもたらす牡蠣養殖業は窮地に陥った。
養殖業者が海洋化学に目を向け始めたのはこの時である。人間が大気中に排出する二酸化炭素の量が増加するにつれて、海水の腐食性は高くなる。世界的に、海水の酸性度は、産業革命が起こり、化石燃料を大量に燃焼するようになってから、約30%も上昇している。そのうえ、太平洋岸北西部の沿岸では、季節的に上昇流が起こり、二酸化炭素を大量に含む低温の水が、深海部から浅瀬の海辺や海岸線に上がってくる。
海水中の二酸化炭素の量が増えると2つのことが起こる。まず、pH値が下がり、そして利用できる炭酸カルシウムが少なくなる。炭酸カルシウムは、鮭や鯨が生存するのに欠かせない微小なプランクトンから、貝や牡蠣といった軟体動物まで、数千もの種が殻や骨格を形成するのに欠かせない、基礎的要素である。
少しでも酸性化が進むと、これらの生物は殻や骨格を形成するのに、さらにエネルギーを消費しなければならなくなる。そうすると、食料を見つけることや生殖、さらには他の海洋生物と競合することがそれだけ困難になる。家賃が突然、30%値上がりしたレストランを想像していただきたい。オーナーは食材の質を下げるか、ホールのスタッフの数を減らすかしなければならないだろうが、いずれにしても市場で生き残るのは難しい。
海水における炭酸カルシウムの飽和度がさらに下がると、殻や骨格、防御のための構造は次々に溶解し始める。レストランの例を引き続き挙げるなら、壁や屋根のパーツを1つずつ失っていくようなものだ。
ウィスキークリークの従業員、アラン・バートン氏はやがて、牡蠣の死滅とネターツ湾の上昇流が同時に起こっていることに気づき始めた。しかし、海水がそれほど致命的になるとはどういうことか、誰にも正確なことはわからなかった。
研究者は、ネターツ湾で時期をずらして海水のサンプルを採取し、その中で牡蠣を継続的に飼育し、さまざまな仮説を検証した。そして、彼らはついに、牡蠣の幼生が産卵から最初の24時間を過ごす海水中の二酸化炭素濃度が高いと成長が阻害され、最終的には生産量の低下につながることをつきとめた。最初の24時間は、牡蠣が受精卵から浮遊幼生に成長し、最初の殻を形成する、非常に重要な時期である。
しかし、OSUの研究者はまた、海水中の二酸化炭素濃度が高い場合でも、牡蠣の幼生が反応を示すまでには時間がかかる場合もあることを明らかにした。このことは、海水の酸性化が貝に及ぼす影響を調べる他の実験にも、新たなヒントを与えるかもしれない。研究者は実験において、致命的ではない程度に酸性化した水中で飼育した幼生が、その一生の間の後半で、成長に著しい障害をきたしたことを明らかにした。
オレゴン州立大学地球海洋大気科学部で底生環境を研究するジョージ・ワルドバッサー氏は次のように説明する。
「ここで重要なのは、水質の悪化に対する反応が、必ずしも即座に表れるものではないことです。数日間の短期的な実験では、被害を見つけることはできません」
残念ながら、養殖場で見られたようなシナリオ、すなわち、海洋化学と生物の反応が正確に観察され、また測定された例はまれだ。そして、海洋の酸性化によって影響を受ける恐れがある海洋生物の世界は範囲が非常に広い。そうなると、どれほどの数の殻を持つ生物が将来の環境下で生息が困難になるのかを知るためには、私たちは今後も実験室実験を頼りにしなければならなくなる。
酸性化が進んでも、これまでと変わらずうまく生きていける、あるいは生き延びることができる生物もたしかにいる。だが、死んでしまう生物もおそらくいるだろう。二酸化炭素の排出が、米国北西部の在来種、しかも数千人もの地域の人々の雇用を支え、地元の食材として欠かせない種の生存を脅かしていることが分かったからには、まず、他にどのような種が敗者となり、どのような種が勝者になるのかを理解することがより重要になってくる。
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本稿はサイトライン・インスティテュートの許可を得て掲載されています。同組織は独立系で非営利のリサーチおよびコミュニケーションセンターで、北米の太平洋岸北西地域を、強力なコミュニティ、グリーン経済、健全な環境を合わせ持つ、世界的な持続可能性モデルにすることを目的に活動しています。
翻訳:ユニカルインターナショナル
牡蠣の大量死は二酸化炭素が原因 by ジェニファー ラングストン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.