気候リスク保険:次なる巨大暴風雨への備え

2017年9月、大西洋海盆(海盆:海底にある盆地、くぼみ)は史上有数の活発なハリケーン・シーズンに見舞われた。最大風速185マイルに達した「イルマ」は、大西洋で記録に残る最大のハリケーンとなった。大西洋で「通常」とされるハリケーン・シーズンに生まれる低気圧のエネルギーがすべて、たった1回の暴風雨に結集された計算になる。

しかも、被害はそれだけではなかった。

「イルマ」がカリブ海の島々に壊滅的な被害を与えたわずか1週間前、ハリケーン「ハービー」が米国の南東部を直撃していた。さらにその後も「ホセ」、「カティア」、「マリア」とハリケーンが相次ぎ、それぞれ破壊の爪痕を残していったため、被害はさらに大きくなった。ハービーとマリアだけでも、被害総額は2,150億米ドルに上るという推計も見られる。

さらに悪化し、2017年には北大西洋以外でも異常気象が生じた。西アフリカは集中豪雨に襲われ、インドやバングラデシュは異常に活発な雨季に見舞われた結果、数千人が命を失い、インフラや経済が破壊された。同様に、ペルー、コロンビア、スリランカ、中国などでも大雨による洪水や地すべりで死者が出た。

異常気象がますます頻発し、それによる被害額も過去30年間で4倍に増える中で、各国政府は防災と気候変動への適応に優先的に取り組む動きを見せている。

多くの国はすでに、ハリケーンストラップ(主に建物の土台と枠を結合する留め具)を用いて屋根が飛ばされないようにしたり、高波や高潮による被害を最低限に抑えるための堤防を築いたりするなどのリスク管理策を講じている。こうした措置は、異常気象によるリスクを部分的に減らせるものの、イルマのような巨大暴風雨への対策としては不十分だ。被害を完全に避けられないとすれば、我々は適応不可能なリスクを保障するための解決策を探さねばならない。

こうした解決策の1つが、気候リスク保険だ。

イルマの被害を受けたカリブ海諸国の中には、CCRIF SPC(旧・カリブ海諸国災害リスク保険機構)の保険に加入している国もある。CCRIFは暴風雨が襲った9月7日、カリブ海諸国のアンティグア・バーブーダ、アンギラ、セントクリストファー・ネーヴィスの政府に1,560万米ドルの保険金が支払われると発表した。CCRIFガイドラインの規定に従い、この保険金は暴風雨被害が発生してから14日以内に支払われることになった。

この保険金だけで暴風雨による被害からの復興をすべて賄うことはできないが、今回の事例は、ニーズに見合った保険で保障を確保しておけば、どうしても必要な時に資金を迅速に受給できる可能性があると示している。この保険金支給メカニズムは、客観的な異常災害モデル(この場合は国立ハリケーン・センターからのデータ)に基づき発動されるため、大災害の直後によく見られるような一貫性のない対応により、支援が遅れることもない。

(民間)保険カバー率が高い国の経済は、地震や暴風雨、洪水による被害を受けても、災害前の開発水準により早く回帰できると示す研究結果もある。

とはいえ、気候変動保険は災害復興に向けた万能薬だという結論を下す前に、我々はその利点と限界をともに把握しておかねばならない。国連大学の研究によると、気候保険は異常気象の増大に備えるうえで欠かせない解決策ではあるが、その導入を図る際には、3つの点に配慮しなければならない。

第1に、イルマのような事例は、我々に巨大暴風雨に対する備えがどの程度あるか、また、これによって最も大きな被害を受けるのは誰かの把握に役立つ。研究結果によれば、貧困層は気候変動にさらされるケースが最も多い一方で、これに対する保護を最も受けていないため、手ごろな保険料で加入できるリスクベース保険の確保が大きな課題となっている。保険を金銭的に手の届く解決策とするため、政府やその他のドナーは保険商品に補助金を支給できる。地域的にリスクを蓄積し、最貧層や最弱者層を守ることもできる。それでも保険料の支払いが難しい人々については、コミュニティでの洪水防止設備の建設など、リスク削減活動への参加と引き換えに保険料を免除する、という保険・資産交換スキームを通じて保障を確保できよう。すべての社会経済階級のニーズに合わせた気候保険スキームの策定が重要だ。

第2に、気候保険スキームは、潜在的な気候リスクの種類と潜在顧客のニーズや経済力の両面で、現地のニーズと条件に見合うものとせねばならない。現地の事情への配慮や、適切なスキームの策定を行えば、積極的な対策を講じた顧客を優遇し、リスク削減に向けた 誘因を与えられる。保険料を引き上げれば、洪水や地すべりのリスクが大きい地域への居住を諦めたりするような、予防措置を講じることで、長期的な脆弱性を低下させる誘因にもなりうる。

第3に、気候保険はそれだけで成り立つ解決策ではない。他のリスク削減策によって補足し、リスク削減と災害への備えを含む、より幅広いリスク管理枠組みに統合して初めて、その潜在能力をフルに発揮できる。リスクをできる限り削減、回避したうえで保険に加入し、予防も適応も不可能な被害のカバーが重要だ。

気候変動は暴風雨、干ばつ、洪水をはじめ、あらゆる種類の異常気象を激化、増加させると見られている。2017年のハリケーン・シーズンは、政府と企業、個人がそれぞれの防災活動を強化する一方で、天災による被害が避けられない場合に備える気候保険のあり方を定めなければならないことを痛感させる出来事となった。こうした措置を組み合わせれば、我々が将来の巨大暴風雨に適応し、生き残れる可能性を最大化するだろう。

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著者

ゾンケ・クレフトはボン(ドイツ)の国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)研究員であり、ミュンヘン気候保険イニシアティブにおける取り組みを指揮している。保険関連の知識を国際的な政策立案に活かすとともに、気候変動のリスクにさらされている貧困・弱者層に資する気候リスク保険を確保するための革新的なアイデアの実現に努めている。

ミヒャエル・ツィセナーはボン(ドイツ)の国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)研究員。各種リスク移転ツールの応用についての専門知識を有し、気候変動の悪影響を受けやすい人々やコミュニティのレジリエンスと生活の安定確保を主とする研究を行っている。

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