涙と共に始まった気候会議

ポーランドで始まった気候会議の新しい会期は、心を揺さぶる幕開けとなった。フィリピン代表団の団長であるイェブ・サニョ氏は涙を流しながら、気候変動の影響への各国の対応を推し進められる実質的な合意が形成されるまで、2週間の会期中は断食することを発表した。

気候変動に関する国連枠組条約第19回締約国会議で、出席者たちが超大型台風「ハイエン」の犠牲者たちに黙とうを捧げた後、サニョ氏は演説を行った。彼は、自身の兄弟が災害を生き抜き、風で倒壊した小屋から遺体を運び出す作業を手伝っている様子を説明した。

「食料を家族に持ち帰ろうと格闘している私の同胞たち、そしてこの3日間、食事を取っていない私の兄弟との連帯意識の下、私は今から、気候のために自発的な断食を開始します。すなわち、有意義な結果が見えてくるまで、私は今会期の間、自発的に食事を控えるということです」

この宣誓を行ったサニョ氏は、開会式に出席した195カ国の代表者たちから前例のないスタンディングオベーションを受けた。

フィリピン代表団のアリシア・イラガ博士は記者会見で、気候変動による損害は、フィリピンではすでに現実だと語った。2012年、ドーハでの前回の気候会議の前、フィリピンはカテゴリー5に分類される台風に見舞われ、1000人が犠牲となった。そして今回、会議の開幕前に、再びカテゴリー5の台風がフィリピンを襲い、少なくとも1万人が亡くなったと推測されている。

「私たちを支援する経済的メカニズムはすでに整っているですが、金庫が空っぽなのです」と、フィリピン代表団のアリシア・イラガ博士は語った。

「今年、フィリピンはすでに22の台風に見舞われています。このような忌まわしい事象は、私たちの力ではどうしようもできません。私たちが作り出した状況ではないのです。私たちは開発を進め、気候変動へ適応すべきですが、こういった事象への対処はすでに私たちの能力を超えているのです。ここにお集まりの参加諸国の皆さん、私たちの痛みと取り返しのつかない喪失を、どうか感じてください」

温暖化が進む地球への適応策に着手するために、すべての開発途上諸国は、新たに設立されたグリーン気候基金へ富裕諸国が資金を提供することを願っている。新たなプログラム(会議での専門用語で「損失と被害」と呼ばれている)の目的は、例えば超大型台風のような気候変動の結果への開発途上諸国の対処を支援することである。

イラガ博士は次のように語った。「国の置かれた地理を変えることはできません。フィリピンは台風ベルトの真ん中に位置しています。私たちを支援する経済的メカニズムはすでに整っているですが、金庫が空っぽなのです」

感情的な開幕ののち、会議の政治的対立が明らかになった。会議開催国であるポーランドの代表団は、環境団体から攻撃を受けている。ポーランド政府が石炭産業を支持し、新たな褐炭採掘場や発電所を新規に操業させているからだ。

「ポーランド首相は私の未来や私の子供たちの未来には無関心であり、現在の選挙での成功を追い求めているのです」と、気候行動ネットワークのジュリア・ミハラク氏は語った。

気候行動ネットワークのポーランド人メンバーであるジュリア・ミハラク氏は、ポーランドの首相は国有石炭企業の手中にあると語った。首相は今回の会議への期待感を損ない、排出量目標への欧州連合の進歩を妨げた。これほど名誉あるイベントの開催国としてポーランドは単にふさわしくないと、彼女は語った。

「石炭が今後数十年間、エネルギー部門の中核を担うだろうと、首相は宣言しました。また、彼は主に現世代の人々に対して責任を果たしますが、未来の世代に対しては責任を持ちません。つまり、私の未来や私の子供たちの未来には無関心であり、現在の選挙での成功を追い求めているのです」

その返答として、ポーランド代表団の団長を務めるベアタ・ヤチェフスキ氏は、ポーランドは石炭産業の段階的廃止を今すぐ行うことはできないと語った。同国は、老朽化した非効率的な石炭火力発電所に代わる、排出量を削減できる新たな石炭火力発電所を建設中だ。世界の気温上昇を産業革命以前の気温と比べ2度未満に抑えられるように、ポーランド政府はすべての国を網羅する国際合意に向けて努力している。

国連気候変動枠組条約の事務局長、クリスティアーナ・フィゲレス氏は、開発途上諸国が気候変動に適応できるように、既存の基金の開発と、基金の提供方法に集中して交渉すべきだと語った。

気候変動との闘いには多くの努力が費やされているが、まだ十分ではない。「すでに合意済みの気温上昇2℃未満という目標を達成するためには、取り組みはよりスピーディーに、さらに多く、強力に行われなければならないでしょう」とフィゲレス氏は語った。

翻訳:髙﨑文子

Creative Commons License
Japan’s Post-Fukushima Energy Conundrum by Paul Brown is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.
Permissions beyond the scope of this license may be available at http://www.climatenewsnetwork.net/.

著者

ポール・ブラウン氏は Climate News Network の共同編集者である。イギリスの地方紙および全国紙で新聞記者やニュース編集者として働いた40年の経験を持つ。『ガーディアン』紙で24年間働いた後、2005年8月に退職した。同紙を離れるまでの16年間は環境担当記者として、特に気候変動に重点を置き、幅広い問題を取り上げた。環境問題に関する8冊の著作がある。現在は『ガーディアン』紙でウィークリーコラムを執筆しているほか、フリーランスで執筆活動をしている。テレビのドキュメンタリー番組の脚本を書いた経験があり、ラジオ番組への出演も数多い。彼はケンブリッジ大学ウルフソン・カレッジのフェローであり、Guardian Foundation(ガーディアン財団)の活動の一環で東欧およびアジアでジャーナリズムを教えている。