グリーン社会への道をひらく共同学習

持続可能な開発をテーマに開催された、先のリオ+20サミットは、約5万人の出席者を集め、史上最大の国連イベントになった。結果については不満の声が広く報じられているが、その集会は、成果文書のタイトルにもなった「future we want」を打ち出した各国代表で一杯の会議室をはるかに凌駕するものだった。

会場における500以上のサイドイベントのほか、近隣でも数百ものミーティング、フォーラム、ワークショップが開催され、参加者は、世界規模の開発の課題について対策を共有したり、新たなアプローチについて議論したりすることが存分にできた。

そうした対策の1つとして、グリーンでレジリエンスがあり、かつ公平な社会への転換を可能にする共同学習のシステムをさらに発展させるために、多様なステークホルダーが努力を結集させることを国連大学高等研究所(UNU-IAS)が中心となって呼びかけている。UNU-IASの持続可能な開発のための教育(ESD)プログラムは、リオ+20に合わせてサイドイベントを開催し、国際組織、地域団体、政府機関らのパートナーやメンバーを集め、多様なステークホルダーが関わる学習の必要性の高さと疑問について議論する場を設けた。

UNU-IAS ESDプログラムによるイニシアチブのひとつである地域の拠点(RCE)は、多様なステークホルダーが参加する地域(大多数は国に準じる広域規模)のネットワークで、それぞれの実情と地理的条件に応じた特定の持続可能性の課題に重点を置いて、学習プロジェクトを進めている。

ESDを実行するという共通のコミットメントにおいて知識とリソースを共有し、実践的な地元のコミュニティを作り上げているRCEは、世界、地域、国の持続可能な発展プロセスの絶好の試験場になっている。これらのコミュニティでは、より持続可能な生活、生産、消費の方法を推進する新技術も実験的に試みることができる。同時に、RCEコミュニティは共同学習を通して、多様な持続可能性イノベーションを始めているので、持続可能性の政策枠組みの形成にも貢献できる。

地元から地域にまで変化をもたらしたRCEの学習実験の多くの成功例は、グローバル規模の重大な変革の触媒にもなりうる。次なる課題は、これらの実験を1回きりのプロジェクトで終わらせず、これまでの成果を増強して、低炭素で公平、かつレジリエンスの強い社会を目指して、革新的な実験の習慣が生まれるのを体系的に支えるプロジェクトに移行させることである。

持続可能な発展に関する地域の専門的知識

RCE活動の盛り上がりは、UNU-IASが設けたグローバルRCEサービスセンターの支援により、相互に作用する地元ネットワークのグローバルコミュニティが発展したのと共に始まった。そのような相互作用の結果としておのずから、RCEは類似する課題や関心を軸にして集合体を形成するようになった。持続可能な消費と生産(SCP)、公衆衛生と伝統的知識、指導者教育、気候変動、高等教育などが主要なテーマとして、世界のRCE活動に浸透している。

これらのテーマに沿った協業を通して、RCEは地域および世界のレベルで境界線を越える結びつきを確立している。このことは、地域の経験の共有を通してアイデアが豊かに生み出されることにつながり、また文化的理解を構築し、さらにはグローバルな思考が地元の活動に置き換えられる一方で、地元の学習やイノベーションがグローバルな政策に吹き込まれることを促進している。このようにして、RCEはローカルとグローバルの間の「弁証法による発展」の結点となっている。

RCEのグローバルコミュニティのメンバーは、それぞれの場所に応じて、地元の持続可能性の課題に取り組んでいる。RCEの活動を推進するガバナンスのあり方はさまざまで、それは策定されるプロジェクトの種類や多様なステークホルダーの関与にも影響を及ぼすが、多くの場合、牽引役を担っているのは大学で、その他は地方自治体やNGOが多大なる尽力をしている。

リオのサイドイベントでは、RCEの数名の代表者が自らの体験とRCEの発展の経緯を発表し、世界中で多様なステークホルダーがどのような協業を行っているかの例を紹介した。

たとえば、RCEウィーンは、高等教育機関を地元のコミュニティに巻き込み、学生に参加を求めながら、スロバキアの首都、ブラチスラヴァとオーストリアの首都、ウィーンとの間の地域でSCPに関わる幅広いプロジェクトを展開した。とりわけ、エコモビリティに関するプロジェクトにより、その地域内の企業(および社員)は、より持続可能な交通手段を使うようになった。それだけ、そのプロジェクトは、環境負荷の少ない交通手段、自転車の利用、自動車の相乗り、公共交通手段の利用、企業内の駐車場の制限などに意識を向けさせたのである。

RCEグラーツは、大学を戦略的パートナーとして活用したうえで、地域内の郊外部と都心部の間の協業を進めることに重点を置いている。若者、特に学生はその地域で重要な役割を果たすと見られており、RCEはさまざまなレベルにおける意思決定プロセスに彼らの関与を促している。なかでも、「サステイナビリティ4U」はグラーツ市内の4大学が関与するイニシアチブである。策定されたプロジェクトの1つである「UniMobil_4U」は、学生および職員に自転車の利用を奨励するもので、そのために4大学間のルートの整備も進められている。すでに道路の改良、軌道の設計など必要な事柄は明らかにされており、今は地域の政策立案者と解決策が話し合わせているところだ。

RCE北九州は市民団体、特に女性の市民グループの活躍がめざましい例で、持続可能な開発のための教育の文脈において、さまざまな活動と学習のプラットフォームを創設することを目指している。発端は地元企業による汚染と闘うコミュニティ運動だったが、今では市民、大学、地方自治体、NGO、産業界まで巻き込む動きになっている。

共同事業の目標は、経済活動を守りながら、深刻な産業公害から地域環境を回復させることだった。今日では、北九州市はグリーン経済のモデル都市であり、2010年には日本政府の「環境未来都市」イニシアチブにおいて、11の環境未来都市の1つに選ばれ、また2011年には経済協力開発機構のグリーン成長モデル都市の候補に挙げられた。

写真 : RCE北九州

写真 : RCE北九州

さらに、持続可能な暮らしの促進をゴールに掲げ、RCE北九州は食料の生産と消費に関する意識を高める教材を開発し、子どもたちに素材の産地について考えさせることによって、地元の生産物を支え、地域の生産者の売上を伸ばそうとしている。こうすることによって期待されているのは、食料消費の行動が変わること、地元の経済を刺激すること、結果的に二酸化炭素の排出量につながる食料輸送の影響を減らすことだ。

ブラジルでは、RCEサンパウロが教育戦略の策定に取り組み、持続可能性の課題、とりわけ都市化が甚だしい地域における気候変動の影響に対処するのに役立てようとしている。このRCEは、革新的な応用科学技術による解決策を促進するため、政府および学界と密接に協力し、その中で、学界、科学、政策、コミュニティの間をつなぐプラットフォームとして機能している。

また、RCEサンパウロは、C40(世界大都市気候先導グループ)のようなネットワークと国際的なレベルで協調しながら、教育活動を用いて、地元の気候に及ぶリスクと影響を低減しようとしており、そのためにすべてのレベルの公立学校、地元のコミュニティ、起業家、組合、構築環境の専門家と専門知識や実践活動を共有している。

RCEリオデジャネイロは、地元の政府、大学、産業界、中小企業と力を合わせる諸機関とも協業し、地域の開発計画に教育的なアプローチを提供している。地元の開発の戦略分野に優先順位をつける中で、特に重点を置いているのは科学教育の向上だ。そのために、カリキュラムを再編成して、持続可能性の考え方を取り込み、さらには能力育成プログラムを提供して、仕事と収入につながるスキルや能力を育てている。これらはすべて、強力で持続可能、かつ道徳規準に叶った要素を持つ起業家の精神風土を育むことを意図したものである。

膨大な潜在力

リオのサイドイベントでは、グローバルなRCEコミュニティが関与する国際的な協業の強化を目指して、国連開発計画のアイリーン・デ・ラヴィーン氏、国連工業開発機構のハインツ・ロイレンベルガー氏、コペルニクス・アライアンス(持続可能性のための教育と研究を促進するヨーロッパの大学のネットワーク)のクレメンス・マーダー氏が招かれ、RCEの活動の現状を統括し、RCEの国際的な活動を今後も支援すると語った。

議論で重点が置かれていたのは、多様なステークホルダーが関与し、すべてのレベルで教育の変革が進み、学界の持続可能性プログラムとその他の地域の活動を結びつける協業のプラットフォームとして、RCEの枠組みがもたらす機会である。

RCEの活動を通して、コミュニティは大学と結びつき、科学技術や革新的なソリューションが利用できるようになり、一方では伝統的知識に基づくイニシアチブで大学に貢献することもできる。

プロジェクトの増強は、グローバルレベルにおける持続可能な開発に大きな影響を与えるために取り組まなければならない根本的な問題である。また、世界全体に広がるRCEコミュニティは、より持続可能な消費と生産の習慣を推進するプロジェクトを実施し、グリーンな仕事の機会が創出される場となりうる。

議論に加わった聴衆からは、水平思考を養成する課題、多様性を考慮しつつ、グローバルコミュニティにとっての戦略的優先順位を確立する必要性、一部の地域のRCE内では地元コミュニティと高度教育機関の間にコミュニケーションギャップが生じている問題、重要な持続可能性の問題に取り組むためにRCEの能力をさらに強化する必要性があること、コミュニティ開発のビジネスモデルを持つべきであることなどについて言及があった。

これらは容易な問題ではない。しかし、RCEが行ってきた活動は、地元のコミュニティにグローバル思考の権限を与えるのに貢献しており、また、その膨大な潜在力は、地元の開発に影響を及ぼすだけでなく、グローバルコミュニティとして、同様のレベルで、グローバル規模の持続可能な開発に重大な影響を及ぼしうる変革を促進することもできるものだ。

翻訳:ユニカルインターナショナル

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グリーン社会への道をひらく共同学習 by ツィナイダ・ファデーヴァ and アウレア・クリスティン 田中 is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

ツィナイダ・ファデーヴァ氏は横浜の国連大学高等研究所(UNU-IAS)の持続可能な開発のための教育プログラムに客員リサーチ・フェローとして在籍している。