都市交通の脱炭素化による効果

世界中の都市は気候変動を緩和する闘いにおいて、ますます重要な役割を担いつつある。その一方で都市は、移動しやすさの向上やクリーンな空気といった他の目標も同時に目指している。実際、ある研究者チームは、最近の研究で採用した社会的費用と便益の多基準評価が気候変動緩和策の費用便益分析を補完する有益な方法であると主張している。

新たに『Environmental Research Letters(ERL)』(環境研究レターズ)で発表された研究で、Felix Creutzig(フェリックス・クロイツィグ)氏らはヨーロッパの4都市で、都市の交通から排出される二酸化炭素を削減するために考えられる選択肢を調査した。調査過程は次の個別の4段階で構成された。(1)交通に関連した課題と既存の政策に関するステークホルダーによる自己評価(2)現在の状況と既存の一連の政策を評価する、ステークホルダーによる都市でのミーティングと面接(3)主要な持続可能性の様相に関する量的評価と、低炭素で持続可能性をより野心的に追求するシナリオの創出(4)量的シナリオを伝達し、シナリオにステークホルダーからのフィードバックを統合するための、ステークホルダーのワークショップ(クロイツィグ他、2012年)。

最終的に論文執筆者たちは、非常に野心的な総合的政策のシナリオを提示した。それは2010年から2040年までに都市の交通による温室効果ガス(GHG)の排出量を最大80パーセント削減するというものだ。シナリオによると、特に人口50万人未満の都市では非電動式の交通手段、とりわけ自転車が移動方法の中で大きな割合を占めることが可能であり、上記に示したような同時発生的で顕著な相互便益は大きな影響を及ぼすと示唆されている。

優れた方式:プッシュ施策、プル施策、土地利用

ヨーロッパの市民は、公共交通機関のようにエネルギー効率のよい交通手段を利用しやすい環境に恵まれており、多くの場合、都市でも安全に自転車に乗ることができる。ところが、適切に設計された調査対象都市でさえ、都市部の交通は人口1人当たり約2トンの二酸化炭素を排出する。調査対象となった都市はバルセロナ(スペイン)、フライブルク(ドイツ)、マルメ(スウェーデン)、ソフィア(ブルガリア)だ。野心的な緩和策を実現するためには、こうした数字を大幅に削減する必要がある。しかし都市の周辺地域は自動車中心の構造であるため、脱炭素化は困難な課題である。

一見したところ、ヨーロッパの燃料効率規制はすでに関連状況に貢献しているようだ。例えば、今後需要はあまり増えない(人口統計や、交通政策における傾向)とする従来型の(BAU)シナリオによれば、提案されている2020年に向けた規制の影響で低燃費車が台頭すると考えられるため、2040年までにGHG排出量は約40パーセント削減される。

プル施策、プッシュ施策、土地利用施策を組み合わせることによって、二酸化炭素排出量を、さらに40~70パーセント削減できることが研究で分かった。

しかし、ERLの研究が最も注目したのは都市の交通施策である。それらは次の3群に分類される。「プル(引き寄せ)」と呼ばれる施策群は、路面電車、バス高速輸送システム、自転車など、より効率的な交通手段に市民を引きつける。「プッシュ(押し出し)」と呼ばれる施策群は、例えば駐車場を減らし高額にするなど、二酸化炭素やエネルギーを大量に排出・消費する交通手段の利用を魅力的ではなくする。「土地利用」施策群は、短距離から中距離での利便性を高めることによって公共交通機関や自転車の利用を可能にする。

同研究は、プル施策、プッシュ施策、土地利用施策を組み合わせることによって、二酸化炭素排出量はBAUシナリオの技術と比較すると、さらに40~70パーセント削減でき、人口1人当たりの排出量は年間で約0.6トン削減できることを明らかにした。

プル施策のシナリオは、わずかな効果しか引き出せない。多くの通勤者が今までどおり自動車での通勤を好むからだ。しかしプル施策にプッシュ施策を組み合わせると、移動手段の顕著な転換が期待される。つまり、自動車の運転が今までより高額になり、空いたスペースを歩行者や自転車やバスが利用するようになるため、そうした代替の移動手段がさらに魅力的になるのだ。

人口密度を高め、市街地の外縁地域では高層ビルを禁止するといった土地利用の施策は、数パーセントの脱炭素化に貢献できる。その効果は特にマルメにおいて顕著だ。マルメは現在コペンハーゲンへの通勤圏内にある街で、今後人口が著しく増加することが予想されている。中程度の人口密度と交通を重視した新たな開発を行えば、マルメに大きな変化が起こるだろう。

例外はあるとはいえ、人口密度の高い居住区はスプロール化した地域(街が無秩序に拡大した地域)と比べGHG排出量が少ないことが多い。特に、人口密度の高さは交通関連エネルギーの需要の低さと相関している。そのため、気候変動を緩和するための土地利用計画を交通部門で利用するという発想は、いまだに議論の的である。最近の詳細なモデル研究は、気候変動の緩和に対する土地利用計画の効果は中程度でしかないことを示唆している。さらに密集化開発パターンをスプロール化した場合のシナリオと比較し、イギリスでの自動車走行距離が5パーセント削減されると報告している(エチェニケ他、2012年)。アメリカでは、密集化によって自動車走行距離をベースラインより7~10パーセント削減できると予測されている(ユーイング他、2008年)。

ERLの研究は最も野心的なシナリオの中で土地利用施策と渋滞税を組み合わせているため、結果を上記の研究と直接比較することはできない。ERLの研究者たちは、提示したシナリオで自動車走行距離を10~20パーセント削減できること、またマルメでは約40パーセントの削減が可能であることを発見した。マルメは高い人口増加率が予測されているため、人口密度の低いベースラインと比べると、密集化施策が著しい効果を生む。

脱炭素化の全体像

重要なことに、同研究は、上記のような脱炭素化戦略には公衆衛生と交通効率性への多大な便益が伴うと論証している。燃料関連の支出は年間で数十億ユーロ削減され、その分、都市部での投資が増える。渋滞が緩和されるため、タクシーや、規模を縮小した営業車両は走行時間を短縮できる。それと同時に、空気がよりクリーンになるため、健康が向上し、ぜんそく症例は減少する。

少なくとも都市の交通において、気候変動の緩和策を経済的費用のみで評価することは誤解を招く恐れがあると、研究者たちは考えている。

もう一つの興味深い相互便益は、「肥満危機」に直面している世界ではさらに意義深いものだ。すなわち、自転車の利用や徒歩が増えると、循環器系疾患やその他の疾患が減少するという便益である。論文執筆者たちは、歩いたり自転車に乗ったりするかわりに電動式の移動手段を利用することは、交通に関連した運動不足として見ることができると主張する。交通関連の運動不足は、健康な生存年数の短縮や死亡率の増加と関連しており、循環器系疾患、特に心臓病、卒中、大腸がん、2型糖尿病、肥満、乳がん、骨粗しょう症に最も大きな影響を及ぼす(世界保健機関、2002年)。

従って交通に関連した身体活動は、相対的に健康上の便益をもたらす。身体活動から生じる健康上の便益は、歩行者や自転車利用者の割合をhealth economic assessment tool(健康・経済評価ツール、HEAT)に入力して推定された。HEATは、徒歩や自転車によって削減される年間死亡率の最高値と中間値を推定する、控えめなロバスト・モデルだ11。HEATの結果は金銭的貯蓄で表されるのだが、その結果は統計的な生存率に変換された。相互便益の算出方法や最近の公衆衛生に関する文献との関連についての詳細は、補足資料Bをご覧いただきたい。

論文執筆者たちは、気候変動の緩和策は通常、経済的費用を基準として解説されていると指摘している。彼らは環境と公衆衛生の両方に生じる様相を強調し、彼らの評価方法が経済的費用の観点における気候変動の緩和策の共通の評価を補完するものだと主張する。本研究は、同時に生じる社会的便益と貯蓄を包括的評価に完全に統合しなければならないと論証した。少なくとも都市の交通において、気候変動の緩和策を経済的費用のみで評価することは誤解を招く恐れがある。

さらに今回の評価によって、最善策は1つではなく、総合的施策の組み合わせが相乗効果をもたらすことが示唆されたと執筆者らは記している。これはますます増える文献に立脚した結論である。

本稿はenvironmental research webのブログおよび『Environmental Research Letters』に発表された関連研究を編集したものです。

翻訳:髙﨑文子

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都市交通の脱炭素化による効果 by キャロル・ スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.
Based on a work at http://blog.environmentalresearchweb.org/2012/12/23/decarbonizing-urban-transport/.

著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。