クール国連

世界各地で行われている二酸化炭素削減や温暖化対策に、「クール」という言葉が新しいキャッチフレーズとして使われている。

2008年7月30日、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は、ニューヨーク国連本部におけるエネルギーと二酸化炭素消費削減を目指した「クール国連イニシアチブ」を導入した。このキャンペーンの目標は、エアコンの使用を削減することで、温室効果ガスを減少させ、コスト節約を図ることにある。

2008年8月に試験的に行った「クール国連」では、ほとんどの国連ビル内で冷房の設定温度を22.2°Cから25°Cに、会議室では21.1°Cから23.9°Cに引き上げた。

このキャンペーンの一環として、国連職員の軽装化が認められるようになり、ビル内の暖房、換気、冷房システムは週末には停止された。

国連事務総長はこのキャンペーンの導入にあたり、次のように述べている。「我々は温暖化対策を、国際的アジェンダの最優先事項に据えることができた。これは同時に、国連自らが対策を講じなくてはならないことを意味している。世界中の人々に温暖化対策を提唱する立場の者として、我々も自ら実例を示し行動しなければならない。」

このイニシアチブの導入により、300トンの二酸化炭素の削減、すなわちエネルギー消費の10%の節減が見込まれており、推定10万ドルの節約につながると期待される。また冬場も、暖房の温度設定を5°C下げることになっている。2008年の1年間で、約100万ドルのエネルギー費用節約と、2,800トンの二酸化炭素削減が見込まれる。

チームマイナス6%

クール国連キャンペーンは、日本のチームマイナス6%クール・ビズをモデルにしている。2005年に日本政府は、温暖化についての意識を高めるため「チームマイナス6%」という全国キャンペーンを開始した。京都議定書に定めたれた6%の削減目標を達成するため、チームワークで臨むのが狙いだ。

2005年夏、小泉首相が財界リーダーたちに訴え、6月から9月までの間に会社員がネクタイや上着を身に着けずに、半袖で仕事ができるようにしたものだ。

上着とネクタイを着用しないことで、体の温度が2度下がる。この軽装化のおかげで、エアコンの使用を控え、室温も28度にまで抑えられる。クール国連の取り組みに比べると、日本のクール・ビズは設定温度が3度も高く、よりハードルが高い。

2005年夏のクール・ビズキャンペーン開始当時、小泉首相はじめ内閣大臣らは自ら見本を示すべく、ネクタイと上着を脱いだ。驚いたことに、このクール・ビズは、日本の夏のファッショントレンドとなった。

ウオーム・ビズ

一方、ウオーム・ビズは冬場エネルギーを節約するため、オフィス内の暖房温度を20°Cに設定するよう促している。

寒い冬の間、着心地がよく、暖房に頼りすぎることのない、かつファッション性のある仕事着の着用を促進するという考えに基づいている。

チームマイナス6%がもたらした影響

クール・ビズ、ウオーム・ビズは、今では多くの人々に知られるようになった。2008年8月現在、チームマイナス6%の個人参加者は2,335,140人に上り、参加団体も23,457となった。国内大手企業1,300社を代表する経団連によると、加盟企業の70%が冷房温度を28°Cに設定しているということだ。

チームマイナス6%が、クール・ビズ、ウオーム・ビズの評価調査を行ったところ、回答者の90%以上は両キャンペーンを知っている、また3分の1は両キャンペーンを実践しているとの結果が出た。2007年のクール・ビズでは、300万件の家庭で一カ月間に排出する二酸化炭素と同量の140万トンの二酸化炭素が削減された。2005年クール・ビズ開始当初のレベルより、削減量が50%も増えている。

第一生命経済研究所によると、クール・ビズキャンペーンは、日本のGDPに2005年に約1億円、2007年には1.9億円の経済効果をもたらした。

日本国外でのクール・ビズ

日本におけるクール・ビズの成功は、海外でも多くの注目を集めた。2006年夏、クール・ビズキャンペーンは、「クール・アジア」として紹介された。

香港、中国、韓国でも同様のキャンペーンが始まり、2006年の夏にはイギリス労働組合会議が、クール・ビズの導入を訴えた。

今後に向けて

技術的イノベーションのみが、地球温暖化問題を解決できるわけではない。現在我々が享受している近代的で心地よい、非常に便利なライフスタイルにも責任の一端がある。従来のライフスタイルを変えるという考えは、一部の人々にとって魅力に欠けるかもしれない。誰しも楽をして暮らしたいと思うもので、犠牲を払う必要などないと思うかもしれない。

しかし、今の生活や仕事のスタイルを変えなければならないと感じている人々は多く、その数は日に日に増している。我々の考え方や毎日の生活を見つめ直す必要があるのだ。

クール・ビズやウオーム・ビズのような革新的運動は、服装規定や冷暖房の設定温度を変えるという簡単な行動を実践することで、何らかの温暖化対策を講じてしている人々がいることを示す素晴らしい事例だ。さらに、彼らは猛暑が続く夏の間、より心地よく、カジュアルな服装で仕事することを楽しんでいる。

人類が直面する未来の脅威に対応すべく、世界のリーダーたちを含むすべての人々が有言実行することが重要だ。

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クール国連 by チュン・ニー タン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

チュン・ニー・タンはグローバル環境情報センターの国連大学プロジェクトコーディネーターです。

プトラマレーシア大学・環境科学の大学院生だった1997年から、地球観測に携わるようになりました。GIS、遠隔測定の修士号取得後、GISエンジニアとしてESRIマレーシアに勤務。

長崎大学で衛星海洋学の博士号を取得した後、2006年に国連大学に加わりました。

研究関心分野は遠隔観測、気候変動、災害管理、自治体強化など。東南アジア地域の若い科学者たちに、衛星写真、研修、アドバイスなど積極的に提供しています。