数字が語るパンデミック:新型コロナウイルス感染症と水による病気

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行がさらに広がる中、手洗いの仕方をはじめとした対策に関する指導が強化されている。

こうした助言は確かに大切だが、人類の40%にとっては、石鹸と水という最も基本的な手洗いの必需品さえ手に入らないため、ほとんど意味を持たない。

大半のアフリカ諸国、そしてインドでは、この割合はさらに高く全人口の50%から80%に上る。

医療センターでさえ、手指衛生の設備や、医療廃棄物の安全な分別と処分に必要な施設が整っていないことが多い。

後発開発途上国では、医療センターの55%に基本的な給水設備がない。このような医療センターを9億人が利用しており、これは米国と欧州の人口を足した数を上回る。

毎年、不衛生な出産が原因となって死亡する新生児と母親の数は、100万人を超える。全体として、劣悪な衛生設備や安全な飲み水の不足によって命を落とす人々は、年間430万人に上ると見られている

正式な定義はないものの、この「水による病気のパンデミック(世界的大流行)」と呼べるような健康危機は、何世代にもわたって続いている。しかしCOVID-19のように、国際ニュースとして取り上げられることはほとんどない。

何も対策が取られてこなかったと言えば嘘になるが、進展があまりにも遅いため、より弱い立場にある人々の多くは、今後も自宅に水道が通ることはおろか、歩いて5分以内の場所できれいな水が手に入ることすら知らずに、亡くなっていくだろう。

(COVID-19による)死者数は、安全な水と衛生がないことによって年内に死亡すると見られる400万人には、はるかに及ばないだろう

2000年以来、この隠れた水パンデミックによって、第2次世界大戦の死者を超える人々の命が静かに奪われてきたのである。

このままでは、国連の「2030アジェンダ」が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の達成期限とされている10年後までに、カナダの人口にほぼ匹敵する4,000万人以上が命を失うことになる。

SDGsの17の目標の中には「すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」とした目標が含まれている。

2002年から2003年にかけて起きた重症急性呼吸器症候群(SARS)危機では、約8,100人が感染し、800人近くが亡くなった。COVID-19の致死率ははるかに低いが、感染者はすでに25倍に上る。そのため失われた人命もSARSの10倍を超え、さらに増え続けている。

しかし、医療従事者による懸命な取り組みや、全世界の政府による本格的な対策にもかかわらず、たとえCOVID-19が2020年中にさらに多くの命を奪うことになるとしても、その数はほぼ間違いなく、安全な水と衛生がないことによって年内に死亡すると見られる400万人には、はるかに及ばないだろう。

そして、水パンデミックによる死亡者がトップ記事として取り上げられることもないだろう。

当然のことながら、水パンデミックで命を落とすのは、貧しい人々だ。国際的な取引も移動もせず、住宅ローンもなく、保険にも入っていない。冷淡な世界の金融市場は、ほとんど関心を向けない。

水パンデミックがさらに悲惨なのは、その根絶に向けた前提条件の多くがすでに整っているからだ。私たちは水と衛生にアクセスできない人々がどれだけいて、どこに暮らしているのか知っている。何をすべきかさえ、はっきりと分かっている。必要な技術は、安価なものも含めすでに利用可能だ。

世界が突然、水パンデミックの問題への取り組みに全力を傾けるだろうと考えるのも、甘いと言えるだろう

主な課題は政治的意志と資金の欠如だが、この2つはもちろん、表裏一体の関係にある。

多くの国がその他数え切れないほどの問題に直面するなかで、水パンデミックの問題は特に「セクシー」でもなければ、目につくこともない。これを優先課題にとらえるまっとうな政治家がいたとしても、その任期中に関心が削がれてしまう可能性が高い。

資金については、約20年前の時点で、必要としている全ての人に安価で安全な水を届けるためには、年平均240億米ドルが10年間必要であると見られていた(人口増加分を含む)。

この数字はおそらく甘かったが、それさえも達成されることはなかった。不足額の約170億米ドルは、欧州と米国におけるペットフード年間購入額とほぼ同じだ。

水と衛生サービスをまだ得られていない人々に普及するために必要となる絶対額は、(2015年から2030年までに)年間およそ280億米ドルと、今でもほとんど変わっていない。「安全に管理され」、「継続的に入手可能」な「改良された」サービスという条件を付けると、必要額は年間1,140億米ドルに跳ね上がる。ところが、SDGs導入から4年を経た現在も、基礎的サービスに必要な資金さえ得られていないのが現状だ。

当然のことながら、2030年までにSDGsを達成するためには、あと10年でさらに多くの取り組みが必要となる。しかし、そのための必要投資額が北大西洋条約機構(NATO)の合計年間軍事費の約3%にすぎないにもかかわらず、達成できると楽観視するのは難しい。

世界が突然、水パンデミックの問題への取り組みに全力を傾けるだろうと考えるのも、甘いと言えるだろう。

ここで現実を直視しよう。水と衛生の欠如という大きな開発問題を解決するためには、政情が安定し、汚職がないことが必要だが、最も深刻な問題を抱える地域には、どちらの条件も満たしていないケースが多い。そのため、残念ながら、対策は少しずつしか進まないというのが最も可能性の高いシナリオだ。

現在のコロナウイルス危機は、この対策を加速させるのに「役立つ」のだろうか。それは、ウイルスが、水と衛生が整っていない国々に深刻な影響を与え、それによって、比較的豊かな国々における感染のリスクと件数がさらに大きくなれば可能性はあるであろう。

そうなって初めて、世界で最も幸運な人々の利己心に突き動かされるかたちで、資金が動員されるかもしれない。この問題を解決するためには、世界が水と衛生の欠如について、真剣に「自分ごと」として受け止める必要がある。果たしてそうなるかどうかは分からないが。

当面の間は、少なくとも、各自でCOVID-19から身を守っていただきたい。幸運にも水が使えるのなら、机を拭き、手を洗おう。

本文の内容は著者の個人的な見解であり、必ずしも国連大学の見解を代表するものではありません。

この記事は最初にInter Press Service Newsで発表されました。

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