転換点への カウントダウン

“我々の地球が変化している時にどうして踊っていられよう?我々のベッドが燃えているという時に、どうして眠っていられよう?”

これは、オーストラリアの代表的ロックバンド、ミッドナイト・オイルのヒット曲(1987年)Beds are Burningのパンチの利いた歌詞の一節だ。

20年の時を経た今も、この弁舌巧みな歌詞は、地球環境の危機的状況に対する多くの人々の反応を表している。(元は、アボリジニの土地の権利を訴える曲だった。)

地球が変貌しているにも関わらず、我々の多くはそれに気付かずに未だに踊り続けているのだ。

NASAとコロンビア大学の報告書が 、“人間活動が排出する温暖化ガスが、地球の気候を「転換点」に近づけている”と発表したのはちょうど2年前のことだ。多数の科学者たちも同様の所見を呈し、CO2削減に真剣に取り組まない限り、危機的要因は今後3倍に増えると警告している。

一方、一般の人々の多くは、科学者たちが地球の直面する危険性を誇張していると感じており、気候変動を“緩やかなプロセス”と認識していると、最近の『タイム』誌は伝えている。

実際、気候とは“複雑な非線形システム”で、ある状態での小さな衝撃は小さな変化しか及ぼさないが、“転換点”を迎えると、システムが劇的な変化を生み、急速に別の状態へと変貌する。

その一例が、北極における氷の融解だ。

想像している以上にもう手遅れ

気温上昇、氷融解、飢えと水不足の増大などの気候変動の負の影響は、すでに不可避であり、必ず起こるとされている。その理由は、温暖化ガスが排出されてから実際に気温上昇が起こるまでの間に、40-50年のギャップがあるためだ。

下記に紹介する『気づいたら大惨事』は、このギャップについて説明した示唆に富むアニメプレゼンテーションだ。

気候データの発表にも時間差がある。確かにデータは精緻で包括的だが、すぐに古くなり、しばしば温暖化の被害を過小評価する傾向にある。

著名な科学者たちが「転換点」の重要性を認識している一方で、一般の人々の間ではほとんど知られておらず、また政府の政策にも反映されていないのが現状だ。

私もやろう!(でも君がやらないなら私もやらない)

ミッドナイト・オイルのボーカル、ピーター・ギャレットは、オーストラリア自然保護基金の元会長、また核軍縮党の共同創設者でもあり、現在は環境相を務めている。2007年に発足した新政府の閣僚メンバーで、大胆で先見性のある温暖化政策を打ち出すのが彼の任務である。

しかし、2008年12月、ラッド政権は2020年末までに2000年比5-15%減という、控えめな温暖化ガス削減目標を掲げたにすぎなかった。ここで問題なのは、最大15%減という目標が、他国の動き次第というところにある。(Four CornersのドキュメンタリーHeat on the Hillを参照。)

一方、ヨーロッパでは、2020年までに1990年比で20%の削減に取り組んでいる。今月開催された会議では、首脳たちの合意は得られなかったが、EUは自らが途上国への温暖化対策資金を公約する前に、米国、中国、その他の国々のコミットメントを得られるかどうか成り行きを見守ることにした。

米国は、未だに受け入れ可能な目標を打ち出すに至っていないばかりか、バリ会議で提案された2020年までに25%-40%の削減という目標を達成できないことを明らかにした。オバマ政権が “やればできる”の精神で、この状況を打開できるかどうかは、今後の課題である。

温暖化対策への世界的な反応の鈍さは、典型的な集団行動の問題を物語っている。各国政府には、温暖化ガス削減という共通の関心事がある。しかし、それぞれに“他の国々が解決問題に向けて応分の役割を果たさないのではないか”と懸念しており、各自の産業競争力を保持するため、早期に過度のコミットメントをしないように慎重になっているのだ。

一般市民も同様の道徳基準の選択を迫られている。個人が及ぼす影響は小さい。温暖化被害の及ぶ地域がバングラディシュやツバルで、ボストンや東京に至らない場合、自分では努力せずに、他人の温暖化対策の取り組みに便乗した方がいいと考えがちだ。

地球のために、または後世の人々のために、自らの習慣を変えようとするよりは、例え環境にとって持続可能なものではないにしても、従来の習慣を維持する方が簡単だ。しかし、それはなぜなのか?

地域的転換点

温暖化の脅威に対し、もっとも迅速な対応を迫られているのは、自然災害や生態系の衰退が人々の生活に直接影響を及ぼす地域的レベルである。

中でも今年注目を浴びたのは、オーストラリアの山火事だ。 死傷者数、生態系や所有地に与えた被害は、過去に例がないほどだった。この悲惨な体験から、今回の山火事がこれまでのものとは違うと感じた住民は多い。

45℃を超す気温や猛烈な山火事には日頃から慣れていて、コミュニティレベルでの災害対策インフラが整った国でも、従来の方法ではもう乗り切れない。10年間に及ぶ干ばつと異常気象の影響を受けて、山火事はそう簡単には抑制できないものとなってしまったようだ。

国際メディアでほとんど報道されない地域レベルでの災害はどうだろうか?隣国のパプア・ニューギニアでは、海水上昇のために、カテレット島やその他の島々の住民がすでに移動を迫られている。温暖化が我々の生活に大惨事を及ぼすことは、科学的報告がなくとも明らかだ。

しかし諦めてはいけない

まだ“自分でも行動を起こしてみよう”と思えない人たちは、もしかすると、“すでに手遅れなのではないか”、あるいは“実際にはそんなに切迫した状況でない”と考えているのかもしれない。
そんな人たちには、シンプルな価値感が役立つかもしれないので是非参考にしてもらいたい。

幸い、持続可能で環境に優しいライフスタイルを選び、すぐにでも行動に移さなければならないと理解している人たちが増えている。

例えば、エコ・ティッピング・ポイント(環境の転換点)プロジェクトは、地球環境のバランスを取り戻すための、前向きな環境変化へのてこ入れ政策を共有するものである。このプロジェクトは、フィリピンやペルーをはじめとする国々の環境保護の先駆者たちが、衰退する生態系を持続可能に変化させた刺激的なストーリーを伝えている。

災害は何にもまして、地域レベルでの“転換点”を生みやすく、従来の気候変動への対応策を真剣に見直し、変えていくきっかけとなる。1度目に起きた山火事以来、オーストラリア社会ではこのような自覚が芽生え、それは新たな災害に備えた緊急対応に反映されている。

地域的な“転換点”に刺激を受けた環境保護の先駆者たちに加え、より多くの人々が協力し合い、前向きな“社会的転換点”の普及に向けて努力をしなければならない。我々一人一人が、変化を生む可能性を持っているのだ。

我々は、互いに関わりを持ち、情報交換をし合い、説得し合う必要がある。先の曲の歌詞のように、自分たちのベッドが燃えていなくとも、地球は変化しているのだ、と。

正しいことは正しいと言う時が来た。
借りを返す時が来た。
我々の分を払う時が来た。

そして、“君は自分の分を払っているのか”と、互いに問いかけよう。

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著者

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。