イベト・ゴンザレス氏は、開発、環境、人権、市民社会といった問題を扱う独立系報道機関インタープレスサービス(IPS)の記事を執筆している。IPSネットワークは130ヵ国以上に330ヵ所の拠点を持ち、参画するジャーナリストは370人にのぼる。
気候変動の中、より多くの食料を供給するという難題に直面しているキューバの農家は、干ばつや豪雨、ハリケーンに見舞われても家庭の食卓から食べ物を切らさぬよう、耐乾性作物の作付けや、給水を確保するための貯水池建設などに乗り出している。
イグナシオ・ペレス・リーバス信販協同組合に属する小規模農家、ラファエル・ゴンザレス氏はインタープレスサービス(IPS)の取材に対し、「干ばつに襲われたら、私たちには乾燥に強い野菜や果物があり、嵐に見舞われた時には、豪雨に耐えるその他の品種を出荷することができる」と答えた。
エスカンブライ山脈のマニカラグアで農業を営むゴンザレス氏は、6月から11月の台風シーズンに向けて、「タマリンドやグアバの木や、大小さまざまなプランテーンやバナナ果樹園、サツマイモ、カボチャ、ヤムイモ、マランガ(タロイモの一種)など、風雨に強い作物」を育てることを奨励している。
ビーリャ・クララ州にあり、ハバナから270km離れたこの地域には「日照り続きでも収穫できるグアバ、アボカド、オレンジなどがあります」と、この地の生物多様性を守るゴンザレス氏は話す。また、協同組合の120以上の農家が「この地域で昔から作られてきた農作物での農業」を復活させる作戦に乗り出している。
1980年代後半、キューバの農業研究機関は種子の改良研究を始め、厳しい気候条件でも育つ農作物を生み出し食料生産性を向上させた。
20世紀後半の50年間にキューバの平均気温は0.5度上昇し、豪雨や嵐、局所的な厳しい干ばつの頻度が上がっている。
過酷な環境条件下でも十分な収穫高を上げるため、改良種の開発にはゴンザレス氏のような小規模農家も参加している。このような取り組みは、国際的な開発支援を受ける地域農業革新プログラムPIALが後押ししており、およそ5万人の農業従事者がその恩恵を受けている。
2007年以来、国内農業の生産性と収穫量を高めて輸入を減らすことが、キューバ政府の優先事項の一つになっている。人口1,120万人のキューバの食料輸入総額は、2011年に15億ドルに上った。地球温暖化はキューバの農家が直面するもう一つの課題だ。
マニカラグアのジバコアという町で農業を営むエステル・カバジェロ氏は、気候変動がもたらす極端な天気の変化についてこう語る。「一年の間に、ひどい干ばつと豪雨がくり返し幾度も起きるのです」
2008年にボストン近郊のタフツ大学が行った研究、「カリブ海と気候変動:放置の代償」によると、20世紀後半の50年間にキューバの平均気温は0.5度上昇し、豪雨や嵐、局所的な厳しい干ばつの頻度が上がっている。
今後ハリケーンの発生頻度が増すか否かについては明らかになっていないが、その激しさは増すだろうと、気象学者のホセ・ルビエラ氏は考える。IPSが行った適応戦略によるリスク軽減の取材に対し、同氏は「摂氏1度の上昇につき、(嵐がもたらす)雨量は12%増加する」と答えた。
ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)がまとめた「気候変動と中南米・カリブ海諸国の発展:2009年概観」によると、「歴史的に農業は穏やかな気候変動には適応してきたが、異常気象は大きな脅威となる」と指摘している。
これにより、中南米・カリブ海諸国の食料安全保障もさらに損なわれていくだろうと報告している。
キューバ人は2008年に3度の超大型ハリケーン(グスタフ、アイク、パロマ)に襲われ、国内の食料供給が徐々に減少していくことを体験した。この3度のハリケーンは、天候が及ぼす災害への警鐘と、キューバ史上最大の100億ドルの経済損失をもたらした。
ハバナから157kmに位置し、この年の夏に2度のハリケーンに見舞われたピナール・デル・リオ市では、「プランテーン(料理用バナナ)農場は1つ残らず消滅した」。研究者のカルロス・ロペテギ氏はこうIPSに語る。
しかし、同氏によると「農作物の生物工場」からただちに種子が届けられたおかげで、作付けがすぐに再開されたのだ。
現地のプロジェクトの総合調整役を務めるロペテギ氏は、農業近代化のための地域支援プログラム(PALMA)が取り組む生物工場により、異常気象により破壊された農場を迅速に立て直すことが可能になったと述べた。
食料生産量の増加を目的として、PALMAは2009年に欧州連合から資金支援を受けて設立された。国内統括者であるマルチ・アロンソ氏はプログラムの戦略について、持続可能な農業生態学的生産から、水の有効利用などの気候変動適応対策まで多岐に渡ると説明する。
2011年、ピナール・デル・リオ市は1,350ヘクタールの水田を干ばつにより失った。米はキューバ人の主食である。
PALMAの功績の一つに農業用のかんがいシステムがある。このシステムが導入される前は、11月から翌4月の渇水期に水資源を効率的に利用するため、各地域が独自に給水条件の研究をしていた。
山岳地帯に属するピナール・デル・リオ市の農家は、ラ・パルマのプエルトエスコンディードのような美しい人工池を持っている。しかし、その本当の目的は乾期を乗り切るための貯水なのだ。裕福な農家の中には、自らブルドーザーを借り上げて、より深い池を作る者たちもいる。
また、農作物への給水のために風車を設置する農家もある。「みんなが風車を欲しがっています」。この地域の農学者ロイベル・ピメンテル氏は、同氏の小さな池で雄牛に水を飲ませながらIPSに語った。
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この記事はインタープレスサービス(IPS)のご厚意により転載を許可されたものです。IPSはグローバルな通信事業を柱とした国際通信機関であり、開発、グローバリゼーション、人権、環境にまつわる諸問題に関する南半球や市民社会からの意見を取り上げています。
*リポート:パトリシア・グロッグ
翻訳:上杉 牧
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