カンクン会議で合意を採択

国連の気候変動会議では、初めて全ての経済大国が温暖化ガス排出削減に努めることを求めた控えめな合意が採択された。しかしそれは気温上昇を2度未満に抑えるという目標を達成するには十分とはいえない。

4年間の交渉を要したこの合意によって、森林破壊を防止すること、低炭素化技術を途上国へ移転すること、2020年までにグリーン気候基金を設立し、気候変動の影響を受けやすい国々に対し年間最大1000億ドル(630億ポンド)の資金援助をすることに向けて動きが加速するだろう。

しかし世界の温暖化ガス排出総量をどれだけ削減するかに関しては合意に至らず、専門家が必要だとする大幅な削減への努力をしないで済ませる様々な抜け穴がある。

Climate Action Trackerの研究者たちは、この合意では、世界の気温上昇が3.2度になるとし、多くの最貧国に大災害をもたらすだろうと話す。とはいえ、イギリスのエネルギー・気候変動大臣、クリス・ヒューン氏はこの合意を熱烈に歓迎し、こう話した。「ほんの数週間前に予想していたより遥かによい出来だ。この会議は非常に重要なターニングポイントとなった。途上国の排出量削減が明確にうたわれているからだ。各国の行動に法的拘束力を持たせる目標に向かって前進した」
ヒューン氏はまた、この合意により産業界は低炭素社会に向けての投資に自信を持ち、ヨーロッパでの2020年までに排出量30%削減への努力を促進するだろうとしている。

孤立するボリビア

最終意見交換は現地時間で10日(金)午後7時に始まり、12日の午前3時過ぎまで続いたが、最後まで国連の決定はコンセンサスのないままな行われているとの反対意見を表明し続けたのはボリビアだけであった。「カンクン合意は空虚でコンセンサスのないまま強要された偽りの勝利であると考える。そのツケは民衆の生命で測られることになるだろう」とボリビアのパブロ・ソロン国連大使は語った。

合意採択に沸く会場だったが、ソロン大使は冷静だった。「彼らは皆、政治家のような考え方をしている。気候変動について本当にわかっている専門家なら私たちが正しいことを理解してくれるはず。この合意では4度の気温上昇は避けられない。4度となれば、社会の持続は不可能だ」

最終段階まで、合意は危ぶまれていた。日本とロシアが京都議定書の第2約束期間の目標にサインすることを拒否する姿勢を見せていたからだ。しかし気候変動担当欧州委員コニー・ヘデゴー氏いわく、各国には合意を採択できなかったコペンハーゲンでの失敗を繰り返すまいという強い決意があったという。

イギリスのデービッド・キャメロン首相、ドイツのアンジェラ・メルケル首相、メキシコの フェリペ・カルデロン大統領を含む世界のリーダーが日本の総理大臣に電話をかけ、考えを改めるよう説得をした。最終的には、日本が新たな約束についての結論を先送りにすることで落ち着いた。

アメリカも強硬な態度を示していたが、彼らにも有利な結論となった。彼らは当初、中国インドが排出削減努力の査察を受け入れない限り、森林破壊や気候基金の取り決めには参加しないとしていた。

トッド・スターン米国気候変動担当特使は、カンクン合意はコペンハーゲンで提唱された査察という概念を実質的なものに変えた、としている。しかしスターン氏や活動家らも認めているが、カンクンでの進歩は微々たるものである。
ブラジルのイザベラ・テイシェイラ環境相は2012年以降も京都議定書を継続する妥協案を見つけることができたことを喜び、こう述べた。「気候変動に対し十分な影響を与えるには議定書の存在が鍵だと信じている」

環境保護団体グリーンピースのウェンデル・トリオ氏は次のように語った。「カンクンでは国連の多国間プロセスでの前進はあったかもしれないが、気候変動を食い止めることはしていない」

オックスファム・インターナショナル代表ジェレミー・ホッブス氏はこう語った。「気候変動は人々の命が関わる問題である。この成果を元にさらなる前進が必要だ。脆弱な立場にある人々が自らを守れるよう長期資金が確保されなければならない」

フレンズ・オブ・ジ・アース・インターナショナルはこの合意をまったく不十分であるとし、気温上昇を5度まで引き上げてしまう危険があると懸念を示した。「志の低い少数の国々による政治的な意思決定の影響を受けるのは私たち全員だ。米国、ロシア、日本には必要不可欠な野心が欠けている」と代表のニモ・バッセイ氏は語った。

ただし、スターン氏もヘデゴー氏も、各国が政治的利己主義を科学的必要性より優先させているということはないという。
「来年すべきことを挙げると、非常に重い作業計画となったが、今回プロセスのみに合意し、実体をダーバンに持ち越したわけではない。ここでは多くの実質的課題が解決された」とヘデゴー氏は延べた。

その他の合意には、途上国が気候変動に適応できるよう数百億ドルを管理する巨大な気候基金パネルを来年中に設立することが盛り込まれている。途上国への配慮として、このパネルは世界銀行ではなく途上国が中心となって運営される。

カンクン合意

■全ての国が温暖化ガス排出を削減する。
■森林破壊による温暖化ガス排出を防ぐ国々に財政支援を行う
■途上国の気候変動適応策のため当初は300億ドル、後には最大1000億ドルまでの財政支援を行う。
■主に途上国によって運営される新たな国連気候基金の設立。
■低炭素化技術と知識をよりスムーズに貧困国に移転する
■中国、アメリカ、その他の主要排出国には、削減努力に対し監査が行われる。
■5年後の進歩を科学的にレビューする。

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この記事は2010年12月11日にguardian.co.ukに掲載されたもの

翻訳:石原明子

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著者

スザンヌ・ゴールデンバーグ氏はワシントンDCに拠点を置くガーディアン紙の米国環境特派員である。中東での記者活動により数々の賞を受けており、2003年には米国のイラク侵攻をバグダッドで取材。著書にヒラリー・クリントンの歴史的な大統領選出馬を描いた「Madam President」がある。

ジョン・ヴィダル氏は英紙「ガーディアン」の環境部門の編集者である。フランス通信社(AFP)、ノースウェールズ新聞社、カンバーランド・ニュース新聞社を経て、1995年にガーディアンに入社。「マック名誉毀損:バーガー文化体験 (1998)」の著者であり、湾岸戦争、新たなヨーロッパ、開発などをテーマとする書籍に寄稿している。