グリーン・ニューディール

金融危機」や「経済破綻」といった話題になると、思わず無視したくなるものだが、そこはどうか我慢してほしい。

これらの話題は抽象論でなく、我々の生活や健康に関わることだからだ。現在、我々は経済的、生態学的にも苦しい立場に置かれているが、近年になってようやく、経済と環境には密接な関わりがあると認識されるようになった。

英国の新環境政策を提案した新経済基金は、「金融引き締めに端を発する経済危機、急速な気候変動、ピークオイルを裏打ちするエネルギーコストの増加、の3点において世界経済は逼迫している」と指摘する。

国連事務総長の潘基文(パン・ギムン)氏も、地球温暖化対策と景気対策の2つの課題に取り組むためのグローバル・グリーン・ニューディールを打ち出した。

ポストカーボン研究所をはじめとするシンクタンクも、米国の石油依存を見直すためのリアル・ニューディールを提唱。日本の環境省も、日本版グリーン・ニューディールの具体案を作成中だ。

これらの政策案の導入に向けて、まだ具体的な動きは見られないが、オバマ政権が打ち出した構想をはじめとするいわゆる「刺激策」には、十分環境に配慮した政策が含まれている。

焦点は何か?

グリーン・ニューディールは、1930年代に世界恐慌の煽りを受けた米国の経済・社会政策「ニューディール」の21世紀版である。

この新環境政策は、破綻した世界経済システムと、急速に悪化しつつある自然環境を結び付け、両者の解決に向けた取り組みに当たっている点で画期的だ。

パン・ギムン氏の提案は、国連環境計画(UNEP)のグリーン経済イニシアチブに基づいており、添付報告書の中でも「世界経済を立て直し、環境に配慮した技術や、森や土壌といった自然インフラへの投資促進」を推奨している。

環境に配慮した「グリーン雇用」を創出することで、石炭、石油、天然ガスなど限りある化石燃料への依存を削減することができるという理論だ。

UNEPグリーン経済イニシアチブの6つのポイント:

誰が政府を必要としているか?

我々が好むと好まざるとに関係なく、20世紀は大量消費・大量生産を通じて、環境に多大な負荷を与えた時代だった。特に、自然資源採掘に関する規制(または未規制)は、今後も長期に渡り深刻な影響を与え続けるだろう。

自然資源が枯渇するか否かは、今後我々が選択する経済路線次第だ。

経済路線を変更するには、グリーン・ニューディールをいかに環境に配慮した政策にするか、にかかっている。

グリーンテクノロジーへの巨額投資、または金融や税制面での規制を通じて、政府の一層の関与を望む人々もいる。

自称グリーン・ケインズ主義者であり「グリーンカラーエコノミー」の著者であるヴァン・ジョーンズ氏もその一人だ。金融危機を、貧しいコミュニティにグリーン雇用を創出する機会と捉えている。

一方、経済学者、経済界のリーダー、政治家たちの多くは、より慎重なアプローチをとっている。企業のクリーンエネルギー投資を促進するため、政府によるインセンティブ提供(温暖化ガス排出への課税など)を求めているが、全体的な増税、資金規制、産業開発への政府関与などについては支持していない。

経済における政府の役割を主張するケインズ派経済学者と、市場が諸問題を解決すると主張するリベラル派(または古典派)経済学者の間で、最新の議論の種となっているが、両者は、互いの意見の相違を乗り越え、今直面している問題に集中する必要があるだろう。

過去を知り、将来を育む

このようなイデオロギーの相違は古くから存在するが、我々は新しい問題に直面しており、これまで以上に利害関係も大きくなっている。

実際、各政府、国際機関、シンクタンクはそれぞれ自分のグリーン・ニューディール戦略が、将来もっとも経済効果を生む最善案だと主張している。

しかし、このようにグリーン経済や急進的変化を支持している人々でさえも、結局は「経済成長」を最終段階として捉えている。1981年~2005年まで世界のGNPが2ケタ台の成長をしてきたことからも、「拡大」への欲求が習慣となってしまったことが伺える。

しかし、「その間にも、地球上の生態系の60%が荒廃し、26億人が1日2ドル以下の生活を余儀なくされている」、とアキム・スタイナーUNEP事務局長は指摘する。

残念なことに、断固とした「経済成長」傾向は、人間中心的で消費中心主義のライフスタイルから脱却するための代替案を不透明にしてしまう。「急成長」に執着するあまり、これと異なる考えを持つことがタブー、または愚直に見えるのだ。

金融危機を、現状のシステムを大きく再形成する機会であると考える人々は多い。

しかし、残念なことに、政治家たちは先見的で持続可能な政策の代わりに、経済を活性化させるため、手っ取り早い解決法を選択しがちだ。また、政治家たちにその場しのぎの解決法を求め、緊急措置がなされないと苛立ってしまう我々市民にも、責任の一端がある。

同様に、環境フットプリントを犠牲にしても、我々は経済保障を優先したいと考えがちだ。

ボトムアップ・アプローチの逆転

ウェブマガジンOur World 2.0では、エコ企業家が開発した電気自動車歩いて発電などの最先端イノベーションを紹介してきた。

これらのボトムアップ案は刺激的で、「我々にも何かできるのではないか」というやる気をかきたててくれる。

確かに画期的な案だが、これだけでは諸問題を解決することはできない。

グリーン・ニューディールのようなトップダウン式の明確なビジョンは、世界各国がコミュニケーションを図り、諸問題に対処するためには不可欠だ。

今年開催されるコペンハーゲン会議で同意を得るためにも、米国や中国をはじめとする大国を巻き込む必要性が議論されている。

価値ある世界的合意を得るため、「成長」へのとらわれを捨てることが、重要な課題となるだろう。我々はグリーン・ニューディールを受け入れる準備はできているだろうか?

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グリーン・ニューディール by マーク・ノタラス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。